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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界と一緒。 ( No.103 )
- 日時: 2012/04/14 14:53
- 名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
- 参照: 一気に更新しちゃいますね。
【世界が、僕だけになった日】
目が覚めた。辺りは薄暗い。ひぐらしの声が聞こえている。
ずきずきと痛む頭を抱えながら、僕はゆっくりと上半身を起こした。記憶にある場所とは違う場所にいた。
「竜胆くん、起きたのね」
不意に、扉の方から、世界のお母さんの声が聞こえた。
ゆっくりと首を傾げれば、強く抱きしめられて、ますます混乱した。なにがあったというのだろう?
「世界、おいで」
優香さんが、世界を呼んだ。
ぼんやりとしていた意識が、はっきりとする。そうだ、世界は? 亜蝉さんは? どうなったの?
「……」
優香さんに促されて、僕の前までやってきた世界は、明らかに様子がおかしかった。
静かにうつむき、恥ずかしげに服のすそを握っている。
「世界」
「……。はじめ、まして。竜胆くん」
優香さんが、少し強い口調で世界の名前を呼ぶと、しぶしぶといった様子で世界が口を開いた。
「え?」
世界の口からつむがれた言葉に、思考が停止した。
はじめまして、って言ったの?
「実は、ね」
優香さんが悲しげに言葉をつむぎ始めるのを、首を振って制止する。言われなくても、理解している。
強いショックを受けると、記憶を失うことがある。どこかで、聞いたことがある話だ。我ながら、小学生らしくない知識だとは思うけれど。
実際にあるとは、思ってもみなかった。
「世界。はじめまして。僕は、虚木竜胆。きみを……」
不思議と、悲しくなかった。
こうなってしまったのは、自分のせいだとも思った。守らなくてはいけないという責任感が、大きかったせいもあるかもしれない。
それより、何よりも。
「きみを、守る人間だよ」
彼女が、自分のものになることが、嬉しくてたまらなかった。
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