ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界と一緒。 ( No.106 )
- 日時: 2012/04/14 15:32
- 名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
【終わる、世界と二人きり】
ぼんやりと、ソファーの背もたれに体重を預ける。
カーテンは開けない。薄暗い静かなリビングに、時計の秒針の音だけが、響く。
控えめに開けられた扉の音が、耳に入った。開けるとしたら、たった一人しかいない。
そのたった一人の世界は、学校に行ったと思っていたのだけれど、違ったみたいだった。
開けられた扉の前に立った世界が、小さく僕の名前を呼んだ。
「どうしたの、世界。おいで?」
ソファーのあいている僕の横をたたきながら、何事もないかのように笑う。世界は一瞬、躊躇うような素振りを見せた。
いつもなら、躊躇うことなく座るのに。なんだか、拒絶されたみたいで。どうして、かな。
「竜胆」
「なぁに?……わっ!?」
ぐるぐると回る思考と共に、視界が反転した。
僕の上に馬乗りになった世界の顔が、よく見える。なんでそんなに、泣きそうな顔をしているの? どうして右手に、包丁なんて、握っているの?
「世界、なに、それ。……それよりも先に、どいてくれないかな」
不可解な世界の行動に眉を寄せながら、そっと世界をどかそうとすると、おもっていたよりも強い力で押さえつけられた。
「竜胆、あのね、愛してるよ。怖かった。痛かった。悲しかった。にくかった。でも、愛してるの。なのに竜胆、最近私を避けてるでしょ? あのね、竜胆のいない世界なんて、だめなんだよ。だから、一緒にいたいの。……だから、おともだちに教えてもらった方法で、一緒にいようと思って」
必死に言葉をつむぐ世界の言った“おともだち”が誰かなんて、容易に想像できた。
あぁ、本当だ、亜蝉。悔しいけど、あんたの言うとおりかもね。
心の中で悪態を付いていると、世界はうつむいていた顔を上げた。
「っく……ふふ。あんたの思い通りになるのは癪だけどさ。これ、ハッピーエンドだよ」
僕に、満面の笑みを向けている世界の頬を、そっとなでた。
その瞳に映っているのは、紛れもなく笑顔の僕だけ。
「世界と一緒、か。素敵だね。ほら、おいで、世界。あいしてるよ」
笑いながら、両手を広げる。
さぁ、くそったれなこの世に、お別れを。
守れないのは、少しだけ心残りだけれど。
でも僕は、やっと、世界と……。