ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 世界と一緒。 ( No.107 )
日時: 2012/04/14 15:44
名前: 緑川祐 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
参照: 最終回。

【世界と一緒】

 ぴちゃりぴちゃりと水の音が、夕日の差し込み始めたリビングに響く。ひどく静かなその部屋は、ひどく鉄臭い。
 “彼女”は、無機質なフローリングにうずくまり、一心に何かを貪っている。
 そんな“彼女”の傍らには、赤黒く染まった肉切り包丁。それはもともと、台所に“彼”が隠してあった物。机の上に置かれているのは、時間の止まった時計。その横のコップには、真ん丸いビー玉のような青い瞳が二つ、浮かんでいる。その瞳の先には、“彼女”の姿。
 床一面に広まり、絨毯を染めている赤色と、本来ならば、体を支えているはずの白色のカルシウムの塊。

 “彼女”の口元に運ばれていく、貧相な赤色の血肉。

 “彼女”の口元には、満面の笑みが浮かんでいる。
 そこに、“彼”のすがたはない。

「えへ、愛してるよ、竜胆」

 それでも少女は、“彼”の名を呼ぶ。
 いとおしそうに、肉を喰らいながら、その名を呼ぶ。

「ぼくも、あいしてるよ、せかい」

 穏やかな、“彼”の声。
 それは、世界が生み出した都合のいい妄想か、はたまた。

「ずっと、一緒だよ」

 けれど、皮肉にも。きっと。

 少年の、清らかな世界は、守られた。