ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 悲哀と世界。 ( No.13 )
日時: 2011/12/05 20:51
名前: 結城柵 (ID: khvYzXY.)
参照: トリめんどいの。

【誕生日くらい平和に過ごしたって】

 今日は月曜日だけど、僕と世界はテーブルの上のケーキに蝋燭を差している。
十年前からの習慣。世界の誕生日の日はサボりだ。一昨年までは三人、去年からは二人でお祝いしてる。
「はい。おめでとう、世界」
 ぬいぐるみを渡すと、世界は嬉しそうに笑う。
セミの声がうるさい。あの日のことが不意に思い出されて、不快な気分になって、思わず眉をよせた。
 しばらく楽しげに笑っていた世界の声が止んだ。僕のせいだろうか、と世界を見つめる。
「お母さん、今日も帰ってこなかったね…」
 世界が悲しげに呟いた。おばさんは、行方不明…ということになっている。世界は素直にそれを信じてるし、捜索願いがでていれば警察もそれに対応する。
つまり、真実を知っているのは、僕だけだ。
「大丈夫、絶対帰ってくるよ」
 僕の言葉に、そうだねと力なく笑った世界を見つめる。絶対に見つかるから、泣かなくてもいいのに。
ねぇ、世界。笑ってよ。

 誕生日くらい、平和に過ごしたっていいでしょ?

 僕にとっても、特別なこの日くらい心から笑ったっていいでしょ?

 ね、おめでとう。世界。