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Re: 悲哀と世界。 ( No.4 )
日時: 2011/11/24 20:34
名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)

【金魚】

 左腕がずきり、と痛んだ。
蛇のように巻き付いた真新しい包帯にじわりと、赤色が滲んだ。
それはまるで、絡みついた赤い糸みたいで僕は薄く笑った。
「竜胆、手首どうしたの?」
 世界が不安そうに僕の左腕をなでる。少し、くすぐったい。
テレビからはゴールデンタイムのバラエティ番組の、作ったような笑い声が聞こえてくる。
「ん、怪我した」
 適当な答えに、泣きそうに顔を歪ませた世界を見て、ぞわりとした。
自然と口角があがり、手が世界に伸びる。
「え…、りんど…っ!?」
 ぱすん、とソファーに倒れ込む世界。
その上に僕はいて、その細くて白くて綺麗な首に手をかけていた。
「り……、ど…、くる、し…」
 生理的な涙と生存本能で僕の手をどかそうとする弱々しい手に、笑みがこぼれる。
金魚のように口をパクパクとさせるようすが、可愛い。
綺麗。きれい綺麗綺麗きれいキレイきれい綺麗キレイ綺麗。
「ぁ…せ、かい。世界!」
 手の下で弱まった脈と動かなくなった世界に我にかえり、呼吸を確かめる。
…あぁ、よかった、生きてる。
愛しい愛しい世界に、死なれたら困る。
 世界の黒髪を優しく撫で、額に口づける。

「…愛してる、世界」