ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 世界と一緒。 ( No.71 )
日時: 2012/02/09 12:01
名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: vGq5J7E8)

【とある少年のヒトリゴト】

 はぁ、と小さく小さくため息を吐いた。背にした赤い屋根の家にいる、少女のことを思いながら。
いつもいつも、彼女に寄り添う彼が今日はいないことを、俺は知っていた。知っていたからこそ、今ここにいるんだ。…いたんだ、が正しいかもしれないけれど。
彼女は、優しくて柔らかくて、それでいて…無知だ。対して、寄り添う彼は、真っ黒で狡猾で、彼女を騙している。…と、ばかり思っていた。そうだったら、どんなに良かったのか。
 事態は、思っていたよりも深刻だったんだ。
彼女に、少々無理矢理とも言える自分押しをしてみた。それも、彼を否定する形で。
別に、それしきで彼女が俺に傾くとは、悲しいが微塵も思っていなかった。ただ、柔らかく「そんなことないよ」とか、「竜胆は違うよ」と、彼をかばうような可愛らしい反応をすると思っていたんだ。
けれど、実際のところはどうだ!返ってきた返事は「どんなに竜胆を悪く言っても、私は理くんのものにはならないよ」というものだった。
ちなみに、僻みやらが混ざっているわけじゃない。素直に、ぞっとした。

彼女の目は、完全に据わっていて、発した声は驚くほど冷ややかだった。
その声から俺は、理解してしまった。ああ、彼女はただの馬鹿じゃなかったのかって。彼女は、彼が自分自身を縛っていると理解していながら、彼の元にいるんだ。
たぶん、彼も知らないだろう。彼女が、望んで縛られているなんて。気がつくはずがない。彼女ですらきっと、気付いていないんだから。
 どうしたものか、とため息をついた。
彼は確実に、危ないと。大切な人を傷つけかねないと、思っていたんだけど。彼女自身が、理解した上でそれを拒まないなら…

「彼ごと…」
「やあ、かみだいりくん?どうして、僕の家の前にいるのかな?」

 自分自身の、小さな呟きに重なった彼の声に、はっとする。辺りはもう、ぼんやりとした闇色に包まれている。
しまった、と思いながらも口元を歪めて、彼を見た。彼もまた、同じように楽しげに口元を歪め、目を細めている。
どうしようもない。腹をくくるしかない。俺は、彼を見つめた。そのコバルトブルーの瞳は、闇に濁って見えた。