ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Silver × Cherryblossom ( No.1 )
日時: 2011/11/23 18:23
名前: 芽黒 ◆sSA6ZLKK6w (ID: Lq8/irU9)

プロローグ +呪われし幸福者+

 「あぁ、あぁ、あぁ・・・。なんてことなの!!何故、何故神はアーロンを、アーロンをぉぉぉ・・・!」
 そう言い、髪の毛を巻いた蒼い瞳の女性は泣き叫ぶ。もう一度「アーロン」と叫ぶと、咽てゴホゴホと咳をたてた。
「もういやよ、私!死ぬわ!あの子が死んだのだったらそう!私が死ねば済む事なのよ!」
「おいやめろ!なにを馬鹿なこと——」
女性は立ち上がって窓の戸を開けた。そばに座っていた男性は女性の腕を掴んで無理矢理止める。
「やめて!離して!離し・・・・・・」
そこまで言うと、女性は膝から崩れ落ちる。
「アーロン———」
女性は冷たいコンクリートの白い床に涙を落とす。時計は4時を差している。窓から差し込む夕日がコンクリートの床をオレンジ色に照らす。
 そこは病院だった。
 病院のとある個室。そこには少年とその家族の4人・・・、いや、正確に言えば3人。何故か、それは、少年が死んでいるからだ。
 
 彼は16歳。アーロン・マクダーモット。イギリスのロンドン出身。
 趣味はギターとバスケとイラスト作成。
 得意な事は勉強とスポーツ。
 好きなものは真の愛。
 嫌いなものは裏切り。
 
 そう、まさに「完璧な少年」だった。そんな彼を両親はとても誇りに思い、たくさんの愛情を注いだ。
 しかし、神様はひどいものでそんな「完璧な少年を殺してしまった」のだ。彼のまわりは彼の死を、彼の命を残酷に終わらせた神を恨む。
「彼はまだ16だったのに!まだ20にもなっていないというのに!」
「彼の未来は何所に行った!彼の輝かしい未来は何処へ!」
「何故彼なんだ!なぜアーロンなんだ!」
と。皆が口を尖らせて言う。何故、何故と。
 
 そんな彼の姉オルガは彼の一番の相談相手であり、彼も彼女の一番の相談相手であった。彼を失った今、ブラコンなのかもしれないが彼女は相当のショックを受けた。暇な日曜日はいつも二人でカラオケに行った。いつも私の出来ない計算式を教えてくれた。いつも私は彼にお菓子を焼いてあげた。そしていつも二人で、いや家族4人で笑いあった。
 思い出せばいつもいつもと同じ単語が出てくる。そのたびに「ああ、私は弟に会いたいのね」と実感するのだ。
 オルガはくるぶしまであるスカートのポケットに手を入れた。中を探っていると綺麗にたたまれた一枚の紙、いや破られたノートが出てきた。 
 母と父はアーロンの手をいつまでも握っている。彼の手は既に冷たくて、硬くなっていた。なのに二人は離さない。そんな二人を横目で見ながらオルガはたたまれたB5サイズの破られたノートのページを見て驚愕する。
「ママ、パパ!!アーロンよ!これ、アーロンからの手紙だわ!!」
驚く3人。オルガはこの字は確かにアーロンの字だ、と確信した。いや、確かにコレはアーロンの字。アーロンは勉強は出来たが、字は恐ろしいほど汚かった。ページの一番最後の段にはアーロン・マクダーモットと名前がこれもまた恐ろしく汚い字で書いてある。 
「何所にこれがあったんだ!?」
滅多にこのような怒った声を出さない父親が今はその声を出している。
「ポケットよ!私のスカートのポケットに!!」
オルガは大泣きしていて、なんと言っているのかはとても聞き取りにくいものとなっていた。しかし、オルガの話はとても信じがたいもので、
「あんた、アタシ達をからかっているんでしょ!」
母親が怒鳴る。それもそうだろう、アーロンはもう死んだのだ。しかも交通事故で。事前に手紙を残すはずがない。
「ああ、あった、俺にもあった!」
父親は作業着のポケットからオルガと同じ素材の紙を取り出す。それを見て、母親は慌てて自分のポケットをあさった。そして、停止する。と思いきや、
「アタシにはないわ!!」
母親は大声でまたまた怒鳴った。ふざけないでのあとに汚い言葉が2,3回。オルガと父親は再び窓をあけて飛び降りようとする母親を止める。
「やめて、ママ!落ち着いて!」
「いやよ!今度こそ、今度こそ死んでや———」
そこにヒラリと一枚の紙が。2人のものと似たような紙。
 母親のルビーはそれを拾い上げて中をみた。
最初の段には「親愛なるママ ルビー・マクダーモットへ」
二人もその場で紙を見る。父親には「時に厳しくときに優しいパパ ショーン・マクダーモットへ」、そして姉のオルガには「いつも優しくて可愛らしい俺の姉さん オルガ・マクダーモットへ」と記されている。どれも恐ろしいほどに汚いアーロンの字だった。
 
***
 
 いつも優しくて可愛らしい俺の姉さん オルガ・マクダーモットへ

 姉さん。いや、オルガ。オルガは今きっと病院にいるんでしょう。俺には分かります。だって俺、死んじゃったから。
 死んで、どうしてるかって?いるよ、オルガが毎朝見上げる空に。大空にいるんだ。雲の上に。
 いつも俺にクッキーを焼いてくれたね。あのほのかに林檎のにおいがする甘いクッキー。
 おれが今いるここでも、毎日あのクッキーが食べれたら幸せだろうなあ。
 そして暇な日曜日は絶対二人でカラオケに行ったのを覚えています。
 オルガは歌がやっぱり上手い。
 でも、《アナイアレイション》の歌ばっかり歌わないでほしいな。
 そして、いつも俺に宿題教えてってアヒルみたいに喚いてたよね。いや、別に悪い意味じゃないんだよ
 ごめんオルガ。
 俺、死んじゃったみたい。
 轢かれちゃったよ、トラックに。あ、でもきっと俺を轢いた人も悪気はなかったんだと思うし、俺もその人のこと恨んでないから。
 でも、顔に傷が付かなかったのは嬉しかったよ。
 みっともない顔で葬式に出たくないしね
 まあ体はボロボロだけどさ
 でも俺は大丈夫
 生きてるんだよ(あ、この点に関しては触れないで)
 俺、ずっと姉さんと家族の事見てるし。
 忘れ——・・・ることはないと思うけど念のために言っておきます
 俺のこと、絶対に忘れないで下さい
 今まで散々迷惑掛けました。お菓子も1万個近く作ってもらいました。
 姉さんのこと——・・・オルガのこと俺は一生忘れません。
 オルガとすごした日々は幸せでした
 
 ありがとうオルガ

  アーロン・マクダーモット

***
 
 ああ、アーロン。私も忘れないわ。
 空って言ったけれど、空は広いのよ?このイギリスより、地球より、とーっても大きいのよ。何所にいるの?

 あぁ、あぁ、あぁ、アーロンはどこ??