PR
ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.22 )
- 日時: 2011/12/24 13:20
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第一章 「小人になる薬」の配達屋さん【第七部】
情熱的な赤毛を揺らしながらジュリアは、一つ下の妹とは対照的に、静かな顔で『世界の壁』の歪みを観察し始めた。妖精の小さな少女にとってはあまりにも大きすぎる、『世界の壁』の歪みを。一番端から端までじーっと、赤い舌で舐める様に見つめて。それから、興奮で顔を林檎の様に染めているソフィアの手首を強く掴み、自分の方に引き寄せる。
「姉様ッ! 痛いです、の……」
手首を痛いほど引っ張られたソフィアは、これまでに無いほど不機嫌そうに頬っぺたを膨らませた。その眉間に、見た目には合わない皺が何本か寄る。
「ここまで来たんでしょ。馬鹿みたいに興奮してないで、とっとと破壊するわよ。もたもたしてると、虹蛇やらグランガチやらが寄ってくるわ」
「うぅぅ……。それは嫌ですの……」
燃える様な赤毛と涼しげな水色の髪を靡かせながら、二人の妖精の少女は手を繋ぎ合う。背中に生える羽が柔らかく触れ合う。ジュリアが、空いた右手の甲を歪みに向け、呪文を唱える。
「——ヨセイカハ、ヨベカノイカセ、ルナイダイッ!」
ジュリアの口が閉じる。水を打ったような沈黙が訪れ、そして——。
凄まじい爆音と共に、暗くて深い海が、自然豊かな台地が、澄んだ高い空が、そして偉大なる世界の壁が、揺れる。
「……ッ!」
「ソフィアッ、こっちよ!」
凄まじい爆音の合間に、ジュリアの甲高い声が微かに響く。そしてソフィアは再び、手首を強く引っ張られる。これまで茫然としていたソフィアは、手首に走る鈍い痛みに思わず顔をしかめる。
それでもジュリアは手を離さなかった。二人の間の絆を、こんなところで途切れさせまいと意気込むように。それはソフィアも同じだった。
——二人の小さな妖精の少女は、凄まじい爆発の中心に吸い込まれていった。
PR