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Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.23 )
日時: 2012/01/06 17:43
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 「小人になる薬」の配達屋さん【第八部】

 大きな力が下から上がってきた様に、突然、部屋がガクガクッと激しく揺れる。中腰で扉に耳を張り付けていた二人は、無様にもころんと床に転げ落ちる。桃色や黄色や黄緑色の色とりどりのマカロンが、白い大きな皿ごと宙に舞う。本棚に納められていた分厚い書物が、何冊か二人の上に降りかかってくる。
——全て、ほんの一瞬の出来事だった。

「きゃぁぁぁぁッ!」
 床にうつ伏せに倒れ込んだ星が、恐怖からか細くて甲高い悲鳴をあげる。夕菜は、小刻みに震える星を守る様に、星の体の上に覆い被さる。揺れはもう、止んでいた。廊下からバタバタと騒がしい二人分の足音がして、そのすぐ後に部屋の扉が勢いよく開く。
「星ッ……夕菜ちゃんッ!」
「え、西川も居るんですか?」
 扉の向こうから顔を覗かせたのは、心配そうな顔をした星の母親と、不思議そうに首を傾げている相田良哉だった。
「ママッ、ママァァァァァ!」
 ひんやりと冷たい石像の様に固まっていた星が、ずるずると床を這って、急いで母親の脚にしがみ付く。その目尻には、透明で綺麗な涙が浮かんでいる。星の母親が、安堵の溜息と同時に顔を歪ませる。娘を抱き締めようと、細い手を伸ばしたその時——

「なッ……あ、あれは、何なのッ?」
 星の母親の指差す方向に、この場に居た全員が揃って顔を向ける。その顔に、見る見るうちに驚愕が走り抜けていく。
 テーブルやらマカロンやら書物がごちゃごちゃと散乱した空間。『部屋』と呼ぶには乏しいくらいのその『空間』の中心辺りで、小さな何かが蠢いていた。
 大きさはせいぜい一〇センチメートルから一二センチメートルくらいだろうか。よく見ると、人の形をしていて、どうやら一人ではなく、二人いるらしい。片方は燃える様な赤毛をポニーテール風に結いあげ、スカート丈が短い、情熱的な紅い服を身にまとっている。もう片方は、軽くウエーブがかった涼しげな水色の髪を腰まで垂らし、長袖の、足が見えないふわふわしたドレスを着ている。
 唖然としている一同の前で、二人の小さな謎の生物は、顔を見合わせ焦った様に顔を歪ませた。