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Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.24 )
日時: 2011/12/30 21:45
名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)

第一章 「小人になる薬」の配達屋さん【第九部】

 人間をそのまま小さくした様な生き物と、どこにでも居る様な普通の人間が向き合う。一瞬、両者の異様な視線の間で、青白い火花が散る。それに気付いた夕菜が目を見開き、息を呑む。目の前の光景を受け入れまいと抵抗する様に。星はすっかり怯えきってしまって、がくがく震えながら母親にしがみ付いていた。

——大変……! 人間に見られてしまったわ!

 尋常では無いほど焦ったジュリアが、ぼぅっとしたまま動けないでいる妹にテレパシーを送る。姉からのテレパシーをしっかり受け取ったソフィアは、少し考えてから、姉にテレパシーを送り返す。二人の背中に、何やら氷のように冷たいものが通り抜けていく。

——良い提案がありますの。姉様、よぉくお聞きになって?
——何? 早く言ってよ。
——びっくりしないでくださいね。……あの人間たちに、『種族変換薬』を飲ませるのです。
——何それ! いくらなんでも、無謀すぎよ!
——でも、他に打つ手は……無いのです。

 すっかりパニック状態に陥ってしまった二人は、いつもの様に冷静にものを考えられずにいた。だから、こんなに無謀な事を思いついてしまったのかもしれない。己の行動が、己の考えが、三人の少年少女を長い長い旅に繰り出すとは知らず。
 二人は、長い間禁じられていた禁断の薬を、目の前に立っている人間の開いた口に向かって飛ばしてしまった。

「何あれ……あぁぁッ!……何か飲んじゃったよ!?」
「私も……。私は、何を飲んじゃったんだろ?」

 普通の人間と不思議な生き物が居るだけの空間に、気まずい沈黙が降りる。やがて、三人の未成年者達は、自らの身体の異変に気付き始める。

「あれ、段々家具が大きくなっていくような……」

 散乱した書物や落ち着いた色合いの家具、それに繊細な細工がされた皿が、見る見るうちに巨大化していく。しかし、巨大化したのはそれだけでは無かった。——部屋全体が大きくなっていた! そして、星の母親までもが……。
「ママァ! どうして……大きくなってるのッ?」
 物凄い勢いで巨大化していく母親の脚にしがみ付いていられず、立ち上がった星が叫ぶ。今や星達は、部屋の隅に飾られていた可愛らしいドールハウスの人形と変わらない大きさだった。
 星の母が、戸惑った様に口を開く。
「えっと……星達が、小さくなってるみたいよ?」
「……え」
 普通の人間一人と、異世界からやってきた小人二人。それから、元は人間だった三人が入り混じる部屋で。
——驚きと恐怖がごちゃ混ぜになった悲鳴が、雨の赤根町に響いた。