ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 小人ノ物語【第一章更新!!】 ( No.26 )
- 日時: 2012/01/01 10:26
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 幼い頃の夢は叶ったけど【第一部】
——夜。
大量の墨を垂れ流した様な漆黒の夜空を、地球の衛星、すなわち月が、輝きながら支配する頃。
小さなビーズさながらに瞬く星が、泡粒の混じった波を寄せては返す海や、獰猛な獣の気配が常に漂う山や、人間どもが徐々に徐々に深い眠りに落ちていく様を、静かに見守る以外は。
どこの何者にも犯す事が出来ない、深い“夜の世界”というものが、極東の小さな島国にするりと溶け込んでいた。
「——私がちっちゃかった頃の夢が叶ったわ」
豪奢なドールハウスの中でうとうとしていた星が、ふいに、呻き声に似た声をあげる。なに、と、隣でこれまたうとうとしていた夕菜が、星の顔を見つめる。何やら考え事に耽っていた良哉も、つっと顔をあげた。
三人が暗い眠りの世界に入ろうとしていたのは、今では遊び道具では無く、立派な寝床と化してしまったドールハウスの中。
星が八歳の誕生日の時に貰ったというドールハウスは、大きな三階建て。一階は、広々とした玄関と設備の整ったキッチン、大きなテーブルが置かれたダイニングルームに、家族で寛げる様な柔らかいソファやテレビがあるリビングルーム。それに、それぞれの階を繋ぐ吹き抜けの螺旋階段。二階には、男女兼用のトイレとバスルーム、それから人形(赤ちゃん)と人形(両親)用の部屋が一つと、人形(弟)と人形(妹)の部屋が一つ、それから広いバルコニー。最上階には、二階と同じバルコニーと人形(お兄ちゃん)と人形(お姉ちゃん)用の部屋が一つずつあり、後は、洗濯機が置かれた部屋や、物置がある。
星たち三人は、一階のリビングルームで、座り心地の良いソファに腰掛けていた。左から夕菜、星、少し間隔をあけて良哉の順番で。
実はこの家、人間が暮らしても何不自由の無い様に作られている。普通に電気製品が使えるし、水道もガスも、ちゃんと通っているのだ。キッチンにあるフライパンや包丁、まな板も、玩具ではなく本物だ。何故こんな凝ったつくりになっているのか、それは、星から見て母方の祖父の、美月小太郎氏の趣味が少々行き過ぎたからである。
現在七〇歳という高齢の小太郎氏は、三〇年前、当時一〇歳の美月瑠奈——星の母親の事だ——に死ぬほど懇願され、一〇年もの時間をかけて、一つのドールハウスを作り上げた。星たちが居るのは、まさにこのドールハウスだった。しかし、一〇年という長い時間のせいか、一〇歳から二〇歳になった瑠奈にドールハウスを拒否され、小太郎氏は、趣味も兼ねて更なるドールハウスの改善を進めていった。そして、星が八歳になった時、“お爺ちゃんからの誕生日プレゼント”として、ドールハウスは小太郎氏から星の手へ渡ったのである。