ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 小人ノ物語【第二章連載中です!】 ( No.27 )
- 日時: 2012/01/06 17:46
- 名前: 萌恵 ◆jAeEDo44vU (ID: amGdOjWy)
第二章 幼い頃の夢は叶ったけど【第二部】
この、豪奢で凝った造りのドールハウスの中には、星たち三人以外に後二つの生き物の気配がひっそりと息づいていた。一つ目はいかにも情熱的に燃え盛り、二つ目はひんやりと氷のように冷たく渦巻いて。まるで小さく寂しげな亡霊の如く、このドールハウスにやって来た不思議な客人たちを、じっとりした目つきで観察していた。
一言言ったきり、黙って膝を抱えて太股とお腹の間に頭を埋めていた星が、再び口を開く。艶やかな自慢の黒髪がさらり……と星の動きに合わせて揺れる。
「私ね、八歳の時に、このドールハウスを貰ったの。……って、それは知ってるよね。お爺ちゃんから貰った時、とっても嬉しかった。その当時の私の夢はね、今よりもぎゅぎゅぎゅっと小さくなって、可愛いドールハウスの中に入って、そこで暮らす事だったの。呆れるほど遊んで、むしゃむしゃご飯食べて、夜になったらベッドで寝て。だって、凄くわくわくしない? 普段はドール——人形で遊ぶものなのに、その中で自分が住めちゃうんだよ? で、何年か経った今、その夢が叶ったわけ。今更!? って感じだよ。嬉しいけど、でも、何だか複雑。この小さくなってしまった体を元に戻す方法なんか、ほとんど誰も知らないもん。……ねぇ、いつまでもそこで息を殺してないで出てきなよ、前代未聞の未確認生物さん。乱暴とかはしないからさぁ。お願い。それでも、いつまでもそこに居るつもりだったら、無理やり引き摺り出しちゃうよ?」
今までのんびりと語っていた星が、急に、部屋の隅の暗がりをねめつける。リビングルームに、気まずい沈黙が鉛のようにのしかかる。——あの二つの“気配”の応答は無い。それでも、星はめげずに睨み続ける。
しばらくすると、微かな衣擦れの音とともに、あの“気配”の正体がその姿を表した。その間、五分。斬り付けてくるようだった星の眼差しも、いつもの穏やかなものに変わっていた。
「やっと……姿を見せてくれたわね」
星が、嬉しくてたまらないと言いたげに囁くと、気配の正体——ジュリアとソフィアは、張り詰めた糸を緩めるように、顔を歪ませた。冷たい銅像の様に無表情で俯いていた夕菜と良哉も、つられたように口元に微笑をたたえる。
そうしてやっと、二人の妖精の少女と人間の子供達は、しっかりと正面から、互いの顔を見れるようになったのだった。