ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Every day the Killers †7つの結晶編† ( No.90 )
- 日時: 2012/10/12 21:17
- 名前: 鈴音 (ID: LA3FDWTf)
……
少年が飛ぶ姿を、彼は見ていた。飛ぶとは、跳躍の意味の跳ぶではなく、宙を舞う意味の飛ぶ、だ。自分があれほど強いと認めた少年が、相対している女性に手も足もでない。そして少年が本気を出せないのは自分のせいだと思う。自分たちの存在が、彼の足かせになっているのだ。
『どうにかして……この暴風壁を……』
ポツリと、少年を見ていた彼は呟く。周りの3人の同行者たちも頷きを見せ、自分が発言したことに賛成の意を見せつけている。賛成をしてくれたのはいいものの、この壁を壊す術がない。
今、彼ら———ウォーカーたちは人間の巡啓一という人物とクリスタクトの風・鈴との戦闘を閲覧している。いや、させられている、と言ったほうが正しいのだろうか。本当はウォーカーたちも今すぐ応戦したいのだが、目の前に風・鈴の張った結界のような壁があって行けないのだ。
「でも……さっき触ってみたけど、壁自体には攻撃力はさほどないみたいだから、物理攻撃みたいなのをやっても大丈夫だと思うよ」
と、巡と同じ人間の美優が言う。確かに、と皆が頷く中、臆病者のルナヴィンが首をかしげる。そしてうん、と一人で唸ってから顔をしかめて言った。
「物理攻撃をやれば多分壁は壊れると思うけど……。僕たちの中にそう言う人はいないんだよね、皆遠隔操作とか特殊攻撃みたいな感じだし……」
周りを見渡す。確かにルナヴィンは戦えないし、ウォーカーは少し戦闘はできるものの長時間耐えられないし、ロンリーも同様だ。美優に至っては回復術を使うので戦えない。
「じゃあ……啓一くんを助けられないの!?」
声を張り上げて言う美優に対し、只々彼らは顔をしかめることぐらいしか出来なかった。大丈夫、とカバーしなければいけないのだが、どうにも言葉が見当たらない。それに大丈夫という確信もない。
美優はその場で静止しながら、対峙する巡と風・鈴を見つめる。先ほど喰らった攻撃が効いたのか、巡の身体の至るところから赤い液体が流れ出している。風・鈴は無傷なので、そんな外傷は見当たらない。一方的に巡が攻撃を受けている。
助けに行けないのが悔しい、と不意に思った。自分に攻撃する力がないから、回復役という非戦闘員だから、彼を助けられない。助けに行けない。
「ちょっと、そこのお姉さん!!」
急に声がする。女性特有の、甲高い声だ。一瞬ロンリーが言ったのかと思い、ルナヴィンとほぼ同時にロンリーを見るが、対するロンリーは別の方を向いている。ウォーカーの横だ。即座に振り向くと、そこには
「私たちの仲間を……、私の大切な友達を虐めるのはやめてくれませんか!」
目尻に水を溜めた、美優だった。