ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Every day the Killers †7つの結晶編† ( No.91 )
- 日時: 2012/10/14 07:25
- 名前: 鈴音 (ID: LA3FDWTf)
……
遠のく意識の中、ひとつの聞きなれた声が耳に飛び込む。それは確かに神崎美優という人間で、自分が一番信用している人間だ。と巡は思い、意識が少し覚醒しかけた、がまだ完全には覚醒せず、瞼が重い。
———このまま俺は意識を失い存在も失う。
一番嫌なパターンだった。4人を敵の前に残して自分は消える。それだけは本当に嫌だった。がどうすることもできない。そもそも人間の自分が魔物相手に勝てるわけがなかったのだ。圧倒的に格が違いすぎる。ビビジガンの時はたまたま勝てたのだ。それを自力で勝てたと勝手に思い込み、次も行けるだろうと錯覚していたのだ。
無能だな、と思う。自分は何をしても駄目だ。自意識過剰で思い込みが激しい。被害妄想なんてしょっちゅうだ。だが何故こんな自分がここまで来れたのかが不思議でならない。普段の自分なら、この世界に来れなかった。知ることさえ出来なかったのに、何故来れたのか。
不意に、ハッと意識が覚醒した。誰のお陰か。それは紛れもない美優だ。自分でも、式也でも、慎也でもない。美優なのだ。
そう思い始めたとき、何かの感覚が戻ってきた気がした。目線を下に向けると、失くなっていたはずの右足が戻っている。輪郭部を取り戻し、肉付きがなされる。ちゃんと感覚、運動神経ともに感じる。一体何故急に戻ったのかは分からないが、これで何かに怯えることはない。
前を見ると、風・鈴が目を見開いてこちらを凝視している。やはり彼女にとっても自分の足が元に戻るのは予想外で、動きが止まっている。
悲鳴が聞こえる。
正確には聞こえたが、それは短いもので、巡もやっとのこと聞き取れた小ささで、理由は暴風壁から聞こえてきたために風であまり聞き取れなかったのだ。
しかし壁と言っても風なので、向こう側がくっきりと見える。ウォーカーにルナヴィン、ロンリー、そして……。
———え?
何かおかしい。もう一度壁の向こうを見る。ウォーカーも、ルナヴィンもロンリーもいる。だが、美優は?美優はどこへ行った、彼女が戦闘を放棄するような人物には見えないし、かといって壁を突破した跡も見えない。消えたのか、それとも———。
自分で考えていて寒気が襲った。風・鈴がここから彼女を襲えるはずがない。襲うためには自身が張った暴風壁を一度消さなければ攻撃は当たらない。だが壁はある。しっかりと存在する。
「…………!!」
美優がいない理由を悟った。瞬時に身体に力が入らなくなり立っていられなくなるが、膝に力を入れ踏ん張る。がそれでも膝は笑って震えている。顔が青ざめているのが自分でもわかった。目を見開き、ウォーカーに自分が思っていることを伝えたいが思考が回らない。一気に身体に疲労感が駆け巡る。何かを話そうにも、口が動くだけで喉の奥からは声は出ない。
巡の脳内には、一つのことしかなかった。美優が消えてしまった理由。それは、自分のせいだ、美優が消えたのは自分のせいだ。
———俺が美優を大切な、守りたい存在と認識したから、この剣は……。
自分を消した時のように、美優を消したのだろう。どうやって巡の心を読んだか知らないが、確かに消したのだろう。どうやったら戻るのか、元に戻す術は分からない。
せめてこの戦いだけは終わらせなければと、睨みつけるように風・鈴の方へと顔を向ける。息は乱れ、傷は深く、万全に戦える状態とは言い難いが、それでも巡は風・鈴と相対しようとする。
「……早く……終わらせないと…………」
終わらせたいが一心で、それ以外のことは考えなかった。いや、考えたくなかった。もし他のことを考えてしまえば、なんだか自我が保てないような気がして。
もう、巡の目には爛々とした光は失われている。自身の一番大切なモノを失ったためだろうが、風・鈴には彼の目に光がない理由は分からなかった。
不意に、風・鈴に寒気が走る。巡がこちらを睨んできたからだ。先程も同じように睨んできたが、今は目が違う。まるで狂気を感じさせるような、常人ではありえない瞳をしている。それに加えて動きも何故か不自然だ。一体彼に何があったのだろう。
『啓一…………?』
流石に壁の向こうのウォーカーたちも巡の異変に気がついたのか、声を出す。が、当然壁の大きな音のせいで返事が聞こえない。多分返事は言っていないだろうが。
「風・鈴…………」
急に名前を呼ばれた風・鈴はドキっとした様子で、冷や汗を流す。彼女の中で、巡の存在が不可思議で危険人物とみなされたようだ。風・鈴は数回深呼吸し、次の言葉を待つ。
「殺す」
彼が言ったのは、単語のみだった。