ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Every day the Killers †7つの結晶編† ( No.94 )
- 日時: 2012/10/19 19:50
- 名前: 鈴音 (ID: LA3FDWTf)
……
此処は一体どこだろうか。周りは暗闇に包まれており光は一切の侵入を許されていない。足元も当然見えず、自分が存在しているのかも分からない。ただ、此処には何処か不思議な雰囲気が漂っていた。
「全く、貴様の精神力も対したものだな」
突如、遠くの方から声がする。その声は言葉では現せないほど幻想的で、非現実的な音だった。声は言葉を続ける。
「お前のせいで人が一人消失した」
ハッと意識が覚醒する。そして理解する。この暗い空間は自分の意識の中だということを、巡は頭の中に叩き込む。
「人、というのは……」
得体もしれない声に話しかける。この空間は推測だが自身の意識の中であり、深層心理のなかなのだと。だが、ただの暗い空間ということも有り得る。
「貴様の初めて“大切”だと思った人のことだ。思い当たることだろう。 貴様はそいつに依存し過ぎた」
言葉は極めて短調で、余計なことは一切話さないといった態度を取る。当然、巡はこの声の正体を知るわけでも、何か思い当たるものがあるわけでもない。だが自身の意識の中に出現するくらいなので、きっと面識ぐらいはあるのだろう。
「依存し過ぎたから……何だ。 まさか、お前が制裁でも下したとでも!?」
声が荒ぐ。他人のことで感情が乱れるのは少々あったが、これまでに感情の起伏が激しくなるのは初めてだった。それ故に、自分でも感情の操作が出来なく戸惑っている。
「当然のことだろう。 貴様の精神力が強すぎるため私は異常な力を持ってしまい、貴様の思う人に影響を及ばしてしまった」
「俺の……精神力が……?」
「ああ、自分で自覚はないようだがな。 無自覚故起こってしまった事故とでも言おうか」
「ま、待てよ…………!!」
声が遠ざかる気配がして、咄嗟に静止の声を出す。止まらずにどこかへ消えてしまうと思っていたが、立ち止まってこちらの言葉を待っている。
「じ、事故であいつは……、美優は消えたっていうのか!? ふざけんなよ!お前が自分の力の制御をしなかったからだろ!?」
「私に異常な力を持たせた人物は誰だ。 お前だろう?」
「っ……。 お前は一体何なんだよ!精神力がどうとか、お前は俺の何を知って……!」
巡は、ついにこの声の正体を知った。巡がよく知っている、というか先ほどまで一緒にいた人物……いや、剣だ。
「贄武器の時暗刻斬剣スパッジオ・スパーダがなんで俺の意識の中に入ってくるんだよ……!武器ってのは自我を持ってんのか……?」
「そうだ。 大抵武器には自我がある。が、使用者はそれに気づかず武器を使用しているが、な。それに比べて貴様は私の声が聞こえる。やはり貴様は特別な人のようだな」
そう言って、暗闇の中に突如白い光が現れる。それは握りこぶし程度のもので、巡の目の前まで接近してくる。巡は戦闘態勢は取らなかったが警戒はしていた。
「これは私の“核”だ。これを貴様の身体に取り込めば貴様と私は一体となり、貴様は私を使いこなせ使用時の代償も消える。その代わりに私は貴様と意思疎通をするがな」
どうする、と問うてくる贄武器に、巡は唸る。確かにこの武器と一体になれば代償も消え楽になる。それにそうするにはこの武器と意思疎通するだけでいいのだ。リスクが少なくていいと思う。だが、巡はこの武器と一体になりに来たのではない。クリスタクトを倒し、美優を元に———。
「美優……!」
再び意識が覚醒する。そうだ、今自分はこんなところで武器と話している暇ではない。早く美優を元に戻す方法を見つけ出し一刻も早く元に戻してあげないといけないのだ。そう思った瞬間、目の前の武器の“核”が弾ける。
突然の出来事に、一瞬動きかけた身体が止まる。何故急に核が破裂したかは分からない。がそれを気にせず再び動き始める。するとどこからか例の幻想的な声が響く。
「欲に惑わされず目的を思い出したか。全く、大層な精神力だ。仕方ない、そんな貴様に免じて今回だけは消えた人を元に戻してやろう。 しかし今回だけだ。次はない。もし次誰かが消えるようなことがあれば———」
だんだんと、意識が薄れていく。贄武器の言っていることも、だんだんと聞き取りづらくなってくる。が“元に戻す”という声ははっきりと耳に残った。よかった、彼女は元に戻る。そう安心し、巡はゆっくりと、瞼を閉じた。