ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Every day the Killers †7つの結晶編† ( No.96 )
- 日時: 2012/11/30 21:31
- 名前: 鈴音 (ID: LA3FDWTf)
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「な…………お前、戦わないつもりなのか!?」
声のトーンを少し上げる。もしかして逃げるつもりか、と脳裏に過ぎったもののぬぐい捨てる。いや、彼女はそんなことをする人———正確にいえば魔物だが———ではない。相対して、戦って分かったのだ。思ったとおり、彼女はその言葉に否定の意を見せ、そうではないと前置きをした。
「啓一君の、彼女への執着を見て思ったわ。貴方は本当に彼女を大切にしているのね。 私はそう言う人とは戦えない。戦いたくない。 だから私は降参するわ。ちょっと待ってなさい」
そう言い、風・鈴は一歩下がると目を伏せ、何やら呪文を唱え始める。すると数秒後、風・鈴を包むように風が起こり、風が薄緑色に色づいていく。
「これは……………」
皆が圧倒される中、巡はポツリと呟く。攻撃をしようとしているわけではない。しかし防御をしようともしているわけではない。一体彼女は何をしようとしているのか、巡たちは一切分からない。が、どうやら危害は加えないようだ。
光の中から声がする。風の薄緑色はどんどん色濃くなっていき、今は眩しくて直視できない。
「今から私の中の結晶を貴方に渡すわ」
その声からは、どこか物悲しそうな雰囲気と、若干だが声が震えている。その理由を悟ったのは、ウォーカーだった。
『なっ、結晶を渡すだなんて…………!! 自殺するようなものじゃないか!!』
目を見開き驚愕の表情を見せるウォーカーを見て、巡は息を呑む。まさか、自滅しようとしているのかと思い、静止の言葉をかけようとするが、なかなか掛けられない。
何故なら、今行っているのは彼女の“意思”なのだから。下手に彼女を止めるよう言ったとしても、彼女のプライドに反しますます結晶化を進めるだろう。だが、正直に言えば巡たちに最も都合のいい事でもあった。無駄な戦いをせずに、無駄な犠牲者が出ずに結晶を手に入れられるからだ。
「そうよ。…………私たちクリスタクトは自身の中に埋め込まれた結晶を取り出されては“消滅”してしまう。 それは、貴方たちも分かっているわよね、ビビジガンの時に」
最後はきっと巡に向けられた言葉だろう。現にルナヴィンとロンリーは首をかしげている。消滅とは、この世界から消えてしまうということだ。“死ぬ”と同じ意味である。
「ゆ、許さねえからな!自分が死んで貢献しようだなんて!」
巡が必死に止めるが、微かに見える風・鈴は悲しげな顔をしたまま首を横に振り続け、やめる気配はない。それどころか勢いがましてきた。
「……………!」
美優は驚いたような顔で息を呑んでいる。どこか血の気が引いている。怯えているのか、はたまた恐怖なのか。
「おいっ…………風・鈴!!」
巡はさけぶが当然風・鈴は無視し、光が一層強くなる。そして今、風・鈴は結晶になる———。
その瞬間、薄緑の風が弾ける。
「えっ…………!?」
姿を現した風・鈴は驚愕の表情でその場に立っており、巡たちも何が起こったのか分からない。ただ分かることは、風・鈴が死なずに結晶化していないということだ。
「どういうこと…………?まさか、失敗して……………」
不意に、なんの前触れもなく風・鈴が前のめりになり重力に伴って前方に倒れる。うつ伏せの状態になっている風・鈴はピクリとも動かない。気絶しているのだろうか、本当に少しも動かない。
巡も同じく硬直している中、ウォーカーが少し口を開きこう言うのだ。「風がおかしい」と。
『何だか変じゃない…………? 嫌な予感がする』
そう言った途端、髪飾りが飛んだ時と同じような豪風が皆を襲う。突然のことで、危うく胸ポケットに入れておいた髪飾りが飛びそうになったがそこを抑える。風が来た方を見れば、そこには先程まで倒れていた風・鈴が悠然と立ちはばかっており、目はどこか虚ろだ。気絶したまま無意識のうちに立っているのか。
「クリスタクトは自らの意思で結晶を体外に出すことは許されていない」
目の前の、風・鈴の口からどこか聞いたことのある声が聞こえる。それは一番最初にこの世界にきた時に聞いた声だ。そう、式也の声である。
「式也…………!?」
ずり、と一歩下がる巡。何か下手なことをされてはこちらの身が危ない。それに何故風・鈴の口から式也の声が聞こえてくるのか。
「これはクリスタクトになるための契約でね。契約を守って初めてクリスタクトになれる。無論、一般の魔物がそう易易とはなれないように契約内容はとてつもなくハードだ」
風・鈴———、いや、式也が言っていることは本当なのか。もし本当なら何故彼が知っているのか。その思いに駆られ巡は徐々に混乱していく。
「もしクリスタクトが体外に結晶を取り出した場合、自身に掛けられたリミッターが外れる」
ぶつん、と音を出して切れる式也の声と同時に、風・鈴の虚ろな目にも光がもどる。どうやら半ば操られていたようで、先程までの記憶がないらしかった。
「大丈夫か、風・鈴……………」
手を伸ばす。彼女の安否を確かめに行こうとした。
が、手は届かず伸ばした手のひらに一閃が走る。瞬時一閃が走ったところから鮮血が流れ落ち、一瞬巡の顔が苦痛で染まる。
「ぐっ……………これは…………、鎌鼬?おい、風・鈴、どうし……………」
た、とは言えなかった。風・鈴が先ほどとは比べ物にならない位の量の鎌鼬を飛ばしてきたからだ。一体彼女に何があったのか。先ほど式也———らしきものだが———が、リミッターを外すと言っていたが、そのことが本当なら彼女も何かのリミッターが外れたことになる。
『まさか……………魔力のリミッターが外れたんじゃ…………!?』
不意にウォーカーからテレパシーが送られる。彼らは先ほど風・鈴が一撃目を巡に喰らわせた時に、巡が後ろへ下がるように指示しておいたため相当ではないが背後にいる。
「魔力の…………?それが外れるとどうなるんだ」
『基本的に、魔物の強さと魔力は比例するんだ。魔力が多ければ威力が絶大な魔法も普通に使えるようになるし、魔法同士を組み合わせることもできる。逆に言えば魔力が弱い魔物は低級魔法しか使うことができない。 でも、今までのクリスタクト…………目の前の風のクリスタクトの魔力はせいぜい見積もっても中級魔法までしか使えないぐらいだったのに———』
巡は風・鈴を見る。確かに彼女から感じられる覇気は大きいものとなった。しかしウォーカーが言うまで警戒しないといけない相手なのだろうか。それともただ魔力の制御が出来ていないだけなのでは?リミッターを外すということは一時的に力の制御が出来なくなるということと同じだ。
「そこまで危険視する必要はなくないか?だってほら、ただ力の制御ができてないだけでそのうち出来るように…………」
『そんなことないよ』
巡の言葉を遮るように言い切る。疑問を浮かべている巡を一瞥し、早口でテレパシーを送る。
『この世界では力の制御ができない———たとえ一時的に制御ができないだけだとしてもだ———と、制御することは不可能に近い。そもそも力の制御ができないということは日常茶飯事、いつも起こってるわけじゃないからね』
「なんだよ、じゃあ…………、じゃあ風・鈴は俗に言う“暴走”している状態、なのか…………?」
『飲み込みが早くて助かるよ。 まあそんな感じ。だから早く元に戻してあげないと…………ッ!』
ウォーカーが言い終わる前に、大量の夥しい鎌鼬が空を切り裂く。風・鈴は自我はあるのだろうがこちらからは確認ができない。彼女が自分から率先して攻撃しているのか、それとも力に任せて身を委ねているだけなのか。
「も、戻すって言ってもどうやって———」
『選択肢は3つ。一つはある程度の攻撃を食らわせて正気に戻させる。一つは風・鈴をクリスタルごと封印する。最後の一つは…………考えたくはないけど、風・鈴から結晶を奪って彼女を消滅させる———、考えられるのはこれだけ』