ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黄泉への誘い 〜生きるのって、楽しい?〜 ( No.18 )
- 日時: 2012/01/10 19:00
- 名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: arQenQl7)
第五話『比良坂兄妹』
比良坂 伊月。
この高校の風紀委員長。
成績優秀、品性方向、閉月羞花。これほどできた人もいない。
高校生、中学生の憧れの的。それが彼だ。
ただ、そんな彼に言い寄る人は、全然といっていいほどいない。
「どうせ、高嶺の花。私の手に入るはずがない」
そういって、大抵の女性は、彼に言い寄ったりしない。
でも、そういう人に言い寄る人って、まれにいたりする。
彼が中学生のころ、そんなことがあったらしいが——。
その時を境に、彼に言い寄る人はいなくなったらしい。
しかも、彼に言い寄っていた女性は、全員奇妙な最後を遂げるのだとか。
喉に鋭利な鋏が刺さっているとか。
ビルの最上階から飛び降りて、ぐちゃり……とか。
伊月先輩宛てに書いたラブレターを喉に突っ込まれて、息ができなくて、とか。
香りの良い紅茶を、傷だらけの体全体に降り掛けて……とか。
そんなことがあるものだから、自分が死んでは困ると、彼に言い寄る人はいなくなった。
でも、そんな彼といつも一緒にいても、ぜんぜん被害のない人が一人。
「それにしても、波月先輩も、伊月先輩以外の人に、こんな風に手紙だすんだ……。なんか、意外ー」
そう、比良坂 波月。
彼女は、相当のブラザーコンプレックスらしく
「兄さんに彼女できるまで、俺、兄離れしないからね」
と、毎日のように言っていたらしい。
伊月先輩と接する時間が、一番長くて、兄離れのできない妹。
伊月先輩に言い寄った人が、次々と死んでゆくのならば、彼女が狙われないのは、誰から見ても不思議に思われるだろう。
けど、彼女は生きている。
朝は、危険なことをしながらも、元気に走って行ったし。
こうやって、お礼の手紙を書いてくれたし。
「……確かに。あの人も、こんな風に手紙書いたりすんだな……」
「あ、もしかしたら、真誠に一目ぼれ、とか?」
俺が手紙を見ながらつぶやくと、媛香がそういって、にやにやと笑う。
俺は「そんなんじゃねーだろ」といって、舌打ちをした。
ありえないんだ。
あの、兄離れできない人が、俺に一目ぼれなんて、な。
そうは言いながらも、ちょっとだけ、そういうのも悪くないかな、なんて、思っちゃってる俺がいるんだけどな。