ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黄泉への誘い 〜生きるのって、楽しい?〜 ( No.21 )
- 日時: 2012/01/22 21:30
- 名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: CKpJ5zkK)
第六話『お誘い』
始業式、授業、授業終了のチャイム。
すべてがすっ飛んでいったような、そんな気がした。
頭の中に、また、あの二人のことを思い浮かべる。
始業式のときも、授業のときも、先生達の声は耳を通り抜けていく。
俺は、そのとき、ただ比良坂先輩と波月さんを見つめていた。
波月さんは、静かに先生の話を聞いていた。
比良坂先輩もそうだった。二人とも、模範生徒みたいに、きちんと座って話を聞いていた。
でも、あの二人、変だよな。
比良坂先輩には、変なうわさがあるし。
波月さんは、赤信号をわたろうとするし。
一見普通に見えても、ぜんぜん普通じゃない。
癖の強い先輩だ。
「……どうしたの、転校生くん。ご飯、食べないのかい?」
誰かが、俺に話しかけてきた。
ついさっき、こんな声、聞いたような気がするな……。
そう思いながら、声のしたほうを向いてみると、そこには波月さんがちょこんと立っている。
……あれ?
「波月さん、いつからそこにいたんです?」
「ついさっき。ほかの人たちがいないから、静かに入って脅かそうかなって」
あぁ、道理で、教室がやけに静かなわけだ。
俺は小さく頷き、誰もいなくなった、ばらばらの机だけがある教室を見回した。
「……で、波月さん、なんでしたっけ?」
「ご飯だよ、ごーはーん。今、昼休みだよ? お腹すいてないの?」
波月さんがそういって、首をかしげる。
え、昼休み? もう?
……俺、今日はぼぅっとしてるだけで、一日が終わりそう……。
そう思っていると、腹が「ぐぅー」っと、切ない音を立てる。
「……お腹、減ってるんじゃん」
「気づきませんでした……」
俺がそういって苦笑すると、波月さんは微笑しながら、俺の手を握る。
「良かったら、昼ごはん、一緒に食べない?」
……え?
「……あの、駄目、かい?」
「あ、いえ、ぜんぜんです!」
波月さんが、しゅんと肩を落として首をかしげるものだから、急いで沿う答える。
それを聞くと、波月さんはすぐに笑顔になった。
……なんだ、この人も、普通の女子生徒なんだ。
「それじゃあ、行こっ! 早く、早く」
波月さんは、そういって俺の手を引っ張る。
俺はそんな波月さんを見て、微笑みながらも、波月さんについていった。