ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 黄泉への誘い 〜生きるのって、楽しい?〜 ( No.22 )
- 日時: 2012/01/24 18:40
- 名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: f27folsQ)
第七話『生きるのって、楽しい?』
屋上に着くと、暖かい空気が俺等を包んだ。
屋上のすぐ側には、校庭に生えた桜の木が、満開の桜が良く見える。
花びらがひらひらと舞っていて、とても綺麗だ。
広くて、どこに座ってもよさそうだし、眺めは最高。
なのに、屋上には、俺等以外に誰もいなかった。
波月さんはそんなことは気にも留めずに、屋上の隅に座り、フェンスに背をぴったりとくっつけた。
「赤城くんは、どのパンが好き?」
波月さんは、購買から買ってきたパンを床に置く。
パンの種類はさまざまで、サンドイッチ、揚げパン、菓子パンなど、いろいろあった。
パンの数もそれだけ多く、波月さんはパンを両手いっぱいに持って、ここまで運んできていた。
波月さんについていき、屋上へ行く俺を見て、みんなは不思議そうな顔をしていた。
「……赤城くん、パンは嫌い?」
波月さんが、悲しそうに首をかしげる。
俺が答えを返さないので、不安を覚えたのだろう。
ぼぅっと考え事をしていて、返事を返さなかったなんて、悪いことしたな。
「いえ、パン、好きですよ! じゃあ、あんぱんもらえますか?」
俺がそう答えると、波月さんは静かに微笑み、「どうぞ」とあんぱんを手渡す。
波月さんはサンドイッチを一つ手に取り、袋を開ける。
俺もあんぱんの袋をあけ、あんぱんにかぶりついた。
そんな俺を、波月先輩はじっと見つめて、微笑んでいた。
…………。
そんなにじっと見られると、なんだか食べにくい。
「あの、波月さん」
「ん、なあに?」
「どうして、俺のこと、そんなにじっと見てるんです? 俺の顔に、何かついてますか?」
「……ううん、何にも。気に障った? ごめんね」
俺の問いに、波月先輩は小さく首を振り、続ける。
「なんだかね、あんまり、幸せそうな顔してたから、さ」
——え?
幸せ、そう?
「君は、幸せそうだね。知りたいことがあるって目をしてる。嬉しそうな目をしてる。少し不安も混じってる、希望に満ちた目。うらやましいくらいに、幸せそうな目。生きることに何の疑問も持たない目。生きる幸せを固めた目!」
波月さんは、俺の目を見て、早口でそういった。
まるで、俺を攻めるみたいな口調で、そういっていた。
俺がぽかんとしながら、波月さんを見ると、波月さんはさらに言葉を続ける。
「あのさ、君に質問して良い? 君なら、きちんと答えられると思うんだ」
波月さんはそういって、俺の耳元に口を近づけ、小声でゆっくりとささやいた。
「ねぇ、生きるのって、楽しい?」