ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 黄泉への誘い 〜生きるのって、楽しい?〜 ( No.6 )
日時: 2012/01/01 11:18
名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: gWH3Y7K0)

第一話『青信号』




けたたましい目覚まし時計の音が、部屋中に響いた。
あぁ、五月蠅い。そう思いながらも、ゆっくりと目を開ける。
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。
俺は、まぶしさに目を細めながら、目覚まし時計を止める。

ベッドの上で、上体を起こして、大きな欠伸をする。
さて、今は何時だろう。
枕元にある目覚まし時計を手に取り、時間を確認してみる。
短針が5時ぴったりを指している。
よし、ちゃんと早起きできたな。
俺は時計を元の位置に戻し、部屋を出て、階段を駆け降りた。



「いってきます!」

玄関で、大きな声でそう言って、外に出る。
ドアを閉めるときに、台所から

「行ってらっしゃい」

という声が返ってくるのが聞こえた。


家の前で深呼吸をしてから、俺が入学するという学校まで歩いて行った。
俺の家から、学校まで、歩いて一時間。
腕時計を見ながら、入学初日から遅刻はしないように歩いて行く。

横断歩道まで、あと数歩のところまで、歩いてきた。
横断歩道まで歩いてきたなら、そろそろ、学校につくかな。
俺はそう思いながら、腕時計を見てみる。
思っていたより、早く学校に着きそうだな。
そう思いながら、顔をあげると、横断歩道の前で少女が立ち止っているのが見えた。


黒い髪に、黒い目の少女。髪を短く切っている。女の子にしては、短すぎるくらいに。
目はたれ眼気味で、その視線の先にあるのは、向かいの信号機。
黒いブレーザーに、ロングスカートといった格好をしている。
少女のきているブレーザーは、うちの高校の女子の制服と、全く一緒だった。
あの子も、新入生なのかな。
そう思いながら、横断歩道まで歩いて行く。
その間、少女は相変わらず、向かいの信号機を見ていた。


信号が赤なのだろうか。少女は、向かいの信号をじっと見つめていた。
俺は信号へと目を移してみる。




……あれ。

俺は、信号を見て、目を丸くする。
あの、信号、青なんですけど。
俺は少女のいるところへ、駆け寄ってみる。
この子は、目が見えないのか?
少女の隣に立ち、そう思いながら、少女の横顔をじっと見つめる。

そうしている間に、信号が赤に変わる。
すると、少女は一歩、一歩と足を前に出し、横断歩道を渡ろうとする。
俺はそれを見て、一瞬ワケが分からなくなったが、少女が横断歩道の白線を踏んだ瞬間、はっとして少女の手を掴んだ。







「あの、信号、赤ですよ?」

俺は、向かいの信号を指差し、少女にそう言う。
俺の言葉を聞き、少女はふっと笑う。


「えぇ、解ってます。だって、さっきは青信号でしたもんね」

少女は何事もなかったかのように、そう答える。
信号が、青に変わった。
すると、少女は駆け足で横断歩道を渡って行った。





俺はその間、少女の後ろ姿をじっと見つめて、ぽかんと口を開けていた。