ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 プロローグ ( No.1 )
日時: 2012/01/08 01:01
名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)

ある廃工場、ぼくは確か不良に囚われたあいつを助けるために柄の悪い不良と殴り合いの最中だ。
ぼくが今どうなっているか?そんなの聞くまでも無い、不良どもの集団リンチ戦法にはまり、殴る蹴るのオンパレードを一方的に喰らっていた。
これでは殴り合いとはいえないか。とにかく腐りきった集団は思うがままにぼくを殴る。そして蹴る。とても綺麗にハッピーエンドと行く状況ではない。
だけどぼくだってやられてたまるか、これでも列記とした日本男児だ。
ぼくは自分にそう言い聞かせ不良の巣から地面を這い蹲り脱出する。
そしてゆっくりと立ち上がりファイティングポーズをとる。
こんなぼくだけどやられて終わるほど柔なわけではない。

「どうした、やるのかよ。やられて終わったほうが潔くていいぜ」
「……ふざけるな。ぼくは泥臭くてもあいつを助けるため諦める訳にはいかないんだ」
「そのヒーロー気取り、気にいらねえな。やっちまえ」


リーダー格の長ラン男はぼくを倒すように不良達に指示を与える。
やれるものならやってみろ。ぼくは心の底でそう吐き捨てるように呟いた。
一人目の不良が接近してくる、殴る気満々で重心を前に置いていた。
阿呆か、隙がありすぎだろ。とにかく軽く上半身を左右させ、相手を惑わし、一瞬で右ストレートで体を貫いた。
二人目、一人目と同じく右ストレートで体を貫く。
体力も底を突きそうだがやせ我慢で何とか耐えている。
三人目は大柄の男で見た目によらず動きが俊敏で体を左右に振るだけでは惑わせない。
何も出し惜しみせず、その場しのぎのステップで拳を避けて……、あれおかしいな。

ぼくの体に拳が追突した。そして地面に無造作に体が叩きつけられる。
拳はぼくを追尾していたようで避けきったと思った瞬間にやられたのだ。
しかしぼくも負けじと倒れた状態から一閃、足元目掛けて足払いをした。
不意の攻撃に大柄の男は足元を尾没かせそのままずっこける。
そこに続いてぼくはエルボーをあばらに突き落とした。

そこですぐさまぼくは体勢を整えて不良達の前に仁王立ちする。


カツン。何か音がしたが気に留めない

「どうだ」カツン「ぼくは」カツン「お前等」カツン「何かに」カツン「負ける」カツン「ものk————」


ぼくの思考回路が突如と遮断され多分何も話せなくなった。
何故いきなり思考回路が遮断されたか?背後から迫りくる影に電流を流されたのだ、何かで。多分スタンガンの類だが。

どうやらさっきのは足音で背後から迫られた時のものだったらしい。





「ごくろうさん、湿津うるつ君」
「遅いぞ、会長さんよお。報酬は何処だ」
「ああ、これの事。はい、またよろしくね。もう帰っていいよ」
「お前等全員引くぞ」


どういう状況なんだ、これ。うつ伏せで倒れていたぼくが顔を上げるとそこに映っていたのはぼくより年上の大人びた男の姿だけだった。
ごくろうさんってどういう事?報酬って何?ぼくはパニックで言葉の意味を正確に捉えられなかった。



あっ。そうか、もしかして最初から————————。






ぼくはこいつの手の上で踊らされていたのか。
その時ぼくの心は怒りという一つの感情だけで全て埋め尽くされていた。
そしてそれはやがて爆発し、ぼくは逆上して言葉を放つ。


「おい!!!これはどういうことだよ、あいつはどこだよ!?!?」
「ああ、あいつっていうのは女の子のこと?………最初からいなかったけど。あっ、ごめんね。どうしても用があって俺が嘘流した」
「な………んだ……よ、そ……れ!。く。くっそぉぉぉぉおお!!!ふざけるなあああああ!!」

狂った。ぼくは根っから狂ってしまったみたいだ。
そこにいた男のたった一言のせいで。そしてもう一つ。



ぼくがあいつを一方的に好き過ぎて愛し過ぎたせいで。
多分あいつへの愛情が薄かったらこんなに心を揺さぶられない。
この男は『あいつ』の存在を知って尚ぼくのことも知っていたのだろう。
でなければ、こんな非情な手をわざわざ選ばない。


「嘘ついたことは謝るよ、君に用があったんだ」
「……何だよ」
「君の思い出と愛を奪いに来た」
「は」


ぼくは咄嗟の一言に動揺を隠せなくなった。
愛と記憶と奪うってどういうことだ?やばいだろ。
焦りすぎているぼくは頭が真っ白になった。
打開策が生まれない。というよりか考えが沸いてこない。




はっとした時には男の手がぼくの顔を包んでいた。
ぼくはひたすらもがき続けるが細いスリムな指と裏腹に、
凄い握力だったため手を引き剥がすことは出来なかった。
と、そこで男があざ笑ったような笑いを漏らした。


「君、余談なんだけどさ。ぼくって愛が嫌いなんだ、愛とか言ってさ、ただ人々がいちゃいちゃしてるだけでしょ。それを見るだけでも吐き気がするんだ。恋は青春の醍醐味なんか言ったりするかも知れないけどそんな世迷言消えてなくなればいいと思ってる。まあ愛とか言ったらもっといろいろあるけどさ、とにかく嫌いなんだ。だからぼくは愛とそれまでの思い出を人間から消し去ろうって決めた、愛の無い世界を創るために。君は実験台だ、偶然見かけたものでね、適当な事を言って君を連れてきたんだ。ところでもうそろそろ記憶とか消していい?」

男の言っている事は一見厨二病のような感じがしたが、どこか威圧感を感じられた。
い…や…だ…。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
記憶が消される?冗談じゃない、笑い事じゃ済まないだろ。
ていうかどうやって消すんだ?一般人には出来ないだろ。
ぼくはただ只管記憶と愛を消される事を拒絶した。
しかし男はぼくのことなんかどうこう思うはずが無い

「じゃあ記憶消すよ」


男は静かにそう告げた。
やめろ、やめろ。やめろおおおおおお!!!
だが拒絶したってもう遅い。




「ばいばい」



終わった——————————。
これが今のぼくの心の最後の一言であった。





この日、ぼくは記憶と愛を失った。