ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 ( No.10 )
- 日時: 2012/01/02 16:49
- 名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)
「失礼します、気持ち悪いので保健室に行ってきましたー」
「川崎君、早く座って下さい」
「あ、はい」
どうやら今は英語の授業中らしい。実にいやらしい教科だ(決していかがわしいという意味ではない)。
何故日本人が英語を勉強しなければならないんだ、というより誰が英語が世界の基準と決めた!?
日本語でも悪い理由はないだろう!カッコいい台詞(中二病)は日本語だからこそだ。
英語の何処がいいんだよ、全く。
そうぼくはボーっと教科書の本文を眺めていた。その時にloveという単語に偶然目が入った。
ラブ、愛するか………あれ、ていうか愛するって何だ?ラブって何だ?
今のぼくには愛という言葉が分からなくなっていた。
愛という言葉自体は知っている。
愛というのは崇高なものをはじめとして恋愛、そして欲望に至るまで様々な意味で用いられる概念であると、頭では何だか分かっていた、なのに意味が分からない。
確実に自分がおかしくなっているという事は分かりきっていた。
逆にそれしか分からなかった、それはあまりにも衝撃的過ぎてぼくの動きは静止してしまった。
そして昼休み。
ぼくは一度悩みはそっちのけで購買へと足を運んだ。
弁当をコンビニで買い忘れてしまったが、だからといって昼飯抜きとはいかない。
と、いくとやはり購買で昼飯を買う以外術は無い。なので成り行きでこの状況に至った。
しかしもう来た頃にはほとんどの購買の商品スペースがスッキリしてしまっていた。
それでもその中にはまだ売れ切れていない商品もあった。
その残っていた物は——————————、
「焼きそばパンとコロッケパン……!」
食欲をそそる、すごい美味しそうだ。食いたい!!
ぼくは考える前に焼きそばパンとコロッケパンを掴みにかかる。
そしてぼくは二つのパンを鷲掴みにした。
と、掴んだ後に優しく誰かの手がぼくのコロッケパンを掴んでいた手を包み込んだ。
ぼくはその事を認識すると軽く横に振り向いた。
そこにいたのは黒く長いサラサラな髪で大和撫子と言っていいぐらい御淑やかな女子高生だった。
その時ぼくの中の何かが鼓動した。もちろんぼくの何かは分からないが何かに鼓動したのだ。
この不思議な感覚に気をとられ思わず言葉を忘れた。
「あ……、あの………」
「あっ、悪い。このコロッケパンやるよ」
「いっ、いいんですか……」
「まあ欲張っちゃ悪いからな、はい」
「あ、有難うございます」
ぼくは軽く彼女に謝罪をしてコロッケパンを渡す。
すると彼女は嬉しそうに笑顔をもらして歩いていった。ああ和むなあ。心の中で呟いた。
今、ぼくはのんびりとあるところに向かっていた。
保健室。理由はただ一つ、暇だから。
そういえば今日は半日立って大して誰も話しかけてくることはなかった。
市原は違うクラスだし、相模は保健室に居続けていると思う。
だから、そこに関しては問題ないのだろうがぼくの周りが静けさを保ち続けている。
何故だろう、何か理由があるのか?今はその疑問に自問自答しようとしていた。
まあ記憶をなくしたぼくにはわからない事だから仕様が無い。
と、保健室の前にいつの間にか来ていた。
ぼくは二度ノックをして保健室のドアを開いた。
「ん?川崎か、何の用だよ」
「特にないんだけどな、暇だから来た」
「ここは俺の縄張りだ!俺に入っていいか聞けよ」
「まさかの縄張り宣言!?!?」
まさか!まさか縄張り宣言してしまうなんてっ!
こいつはどれだけ度胸があるんだ……、まさに不良。
「不良じゃねえよ!これでも正統派な女子だ!」
「お前が正統派には見えないな、髪は金髪にしてるしましてやピアスもしてるんじゃ不良としか言えないだろ」
「ちょっと待て、理屈的におかしいんじゃないのか。普段は悪そうだけど結構真面目なやつだって居るだろう」
「ん、まあな」
「俺だってそんな連中の一握りの中にいるかもしれないぞ」
「真面目君なら無理にでも勉強したりするだろ。だけどお前は無理して勉強している様にも見えないがな」
「偏差値だけでは人の事なんか一%も計れない!人の内面を見ない限りは人の事なんかわからないぞ」
「ぐっ………!」
意外と理屈として通っている気がする……!反論できないぞ。
本当は真面目なんじゃないのか、こいつは。ぼくは良く分からない期待を寄せる。
「ああ、悪い。嘘だ」
「一瞬でもお前を信じたぼくが馬鹿だった!」
こんなに引っ張るんじゃない、本当に真面目キャラと認識しそうになったぞ!とぼく。
そんな会話の合間にぼくは焼きそばパンを口にする。
すると相模杏子、もとい世界恐慌は改まった口調で言葉を紡いだ。
「なあ、川崎。お前さ、一途な片思いとかどう思う」
「え?」
意標を突かれた。
今の僕は記憶を失っていて、ましてや愛という言葉すらわからないのにそんな質問など答えられるはずが無い。
どうすればいいどうすればいい。ああ、もうどうすればいい!
ぼくの頭の中にはどうすればいいという言葉しか浮かばなかった。
「川崎?」
「うわっ、あっあっ、えっと。さあ……、経験が無いからぼくには分からないな」
「へえ、そうか。まあいいや、けどさ」
相模はそこで一拍おいて言い放つ。
「——————————片思いとか阿呆らしいよな、俺以上に馬鹿げてる」
言い切ったときの相模の目は何処か冷め切っている感じがした。
しかし相模の一言は何を意味しているのかがぼくにはまだわからなかった。
キーンコーン、カーンコーン。と予鈴のチャイムが何の前触れもなく鳴る、当たり前だが。
「うっ!やばい。ぼくはもう戻るからな。じゃあな、世界恐慌。暇なときに来るよ!」
「次来た時は大歓迎してやるよ……」
と指をポキポキ鳴らす、相模。
ぼくは必死に目を背けながら廊下を突っ走った。