ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 ( No.15 )
- 日時: 2012/01/09 23:25
- 名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)
「うぉおい……、お前何したのか知ってんのか?」
「……わかりません、私が何をしたんですか?」
案の定大当たりを引いたみたいだ、あの子らしき透き通った声が聞こえる。
そして同時に不良達の低くてドスの利いた声も聞こえてきた。
もう捕まったのか、どうすればいいんだ。多分不良達に挑んだところで袋叩き戦法で滅多打ちにされるのは目に見えている。
ぼくは今一度周りと自分の手元の状況を確認する。
周りは本当に道が細くて声はここでだと響くが案外外には届かず、届いたとしても活気のある商店街ではそんなちっぽけな声もかき消されてしまう。
つまり、ここは誰かがこの路地裏に入らない限りはこの状況は外に伝わらないしここから一か八かの博打打として大声で助けを求める事もできない。
この状況を伝える手立てがあるとすればぼくが携帯電話などを使って警察に通報するぐらいだ。
ときにここは凄く狭い路地裏だ、ぼくがあの子の手をサッと引いて疾風の如く逃げるなんて事も無茶に等しい。
ここで選ぶべき手立ては警察に通報するという事だ。しかし今はあの子が尋問をねちねちとされているのでまだ手は出ないだろう。
それはそうと、ぼくが所持していたのは自宅の鍵、携帯電話、マイバッグ、財布——、そのぐらいしかなかった。
やはり使えるものなど無い。
ぼくは状況を確認して今とるべき行動を見極めて選択した。
ここは携帯を使って警察に通報しようと。
早速ぼくが携帯を制服のポケットから取り出した、そしてボタンに手を掛けた。
——どうした、ぼく。早く電話をかけるんだ、どうしたんだ、ぼく。
その時ぼくは手元に意識を向けた。携帯は全く壊れていない。
別に電源が切れたわけでもない、というより携帯に問題などなかった。
ぼくの指が震えていた、カタカタと尋常じゃないほどに。
そして気がつくと足まで震えている。ぼくの心の中も不安要素が埋め尽くした。
何で。何でだよ、あんな不良なんて警察に掛かればすぐに捕まるだろ?
電話を掛ければ終わることなんだろ?なのに何で動かないんだよ!
この時、ぼくはこの事実を否定し続けたが実は知っていた。
知りたくも無いのに知っていたのだ。
当然ぼくだって否定して必死に偽った、だけど偽りきれない。
恐怖という感情は。
ぼくはただ怯えているだけなのだ、不良グループを目の前にしてぼくは怯えているだけなのだ。
自分でも情けないと思う。それでも怖いのは否定する事ができない。この気持ちは。
ああ……。ああぁぁぁあああ!!動けよ、ぼくの指ぃいいい!!
心の奥底で叫んだ、ぼくが必死に指を動かそうとしたその時。
「——あっ!まずい」
ぼくは手を滑らしてしまった、そして携帯は地面へ急降下する。
ぼくが気がついたときには遅かった。
ガタン、と地面に携帯が打ち付けられる、その時不良達の騒がしい尋問がピタリと止まった。
「おい、今のは何の音だ」
「リーダー、向こうです」
と、多ぼくの方向を指差したのを隠れて確認した。
「うぉい!あそこに何かないか確認して来い!」
「へい!」
と、幹部の指示で下っ端の不良が一人こちらへ向かってくる。
しくじった、そこでぼくは数秒という時間を最大限に利用し打開策を必死に考えた。
どうすればいい。逃げればいいのか?そして助けを求めるのか。
……駄目だ。そうしたら幹部は警戒を強めて尋問なんか直ぐにやめて、制裁と偽って暴力の拳を下すだろう。
ぼくには愛なんてものは知らない、愛なんて聞いたことしかない、愛なんてぼくの中には存在しない。
だけど。だけど、これでぼくが見て見ぬふりをしたら。完璧に悪ではないか。
これは偽善の皮を被った悪ではないか。ぼくはあくまで常識に囚われて生きている。
それは現にぼく自身生きている意味が感じられないからだ。
ぼくは愛という大切な人間性、人間としての大事な要素を失った。
誰かを守りたい、誰かのために尽くしたい、誰かと一緒にいたい。
ぼくの中にそういう思いは存在しなかった。つまり人生の目的が全く無いのである。
だが、それでも常識に囚われていれば普通の人でいたい、サラリーマンに将来なりたいなどと、平凡な仮の目的を作る事が出来て、ある程度自分を偽る事ができる。
そう思ったから、ぼくは常識に囚われながら生きる事にしたんだ。人間らしく存在するために。
だけどどうだ。ここで常識をぶち破ってしまえば、ぼくに生きる目的などもなくなる。
悪になってしまえば常識に囚われる事なんて一生できない。
さすがのぼくも人道を踏み外すなんてことは嫌なのだ。
それに加えて、もう一つ。ぼくが初めてあの子に会ったとき、あの子に何かを感じた。
何を感じたかはわからない。だから、そのわからなかった何かを見つけるために。
だから。だから、ぼくは決意する。
常識という今の道しるべを見失わないように、人間らしくいるために。
あの子に感じた何かというものを見つけるためにも。
——あの子を助ける、と。
「誰かいるのかあ?ぐべらっ!」
ぼくは下っ端が曲がってきたところで、渾身の右ストレートを入れた。
下っ端は壁に打ち付けられ簡単に意識を失った。
ぼくは下っ端の屍(単に気絶しただけだが)を越えて不良達の前に立ち塞がる。
その時あの子は目をぱちくり開けて、ぼくをずっと見ていた。
「あなたは……、購買のときの……。何でここに……!?」
「……」
ぼくは敢えて言葉を返さなかった。
「おいおいぃ、お前何のようだぁ?殺されに来たのかぁ、あん?」
「別に。何でもないさ、ただぼくは通りがかった偽善者だ。——だからぼくはその子をお前等から助けるために来た」
ぼくは堂々と宣戦布告をした。