ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 ( No.21 )
- 日時: 2012/01/22 20:07
- 名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
ぼくと筑波は路地裏を只管走り続けて、やっとの思いで道に出る事ができた。が、そこは全く見当違いの場所であった。
この道はどうやら周りを見渡す限りでは商店街である。しかし、静けさに包まれていて人気が全くなかった。
古ぼけた商店街で、故障している電灯がチカチカと光を発しているがそれは返って逆効果。チカチカ光を発している電灯を見てると、とにかく目が痛くなる。
そしてこの商店街に並んでいる店は七、八割が閉まっていてシャッターが下ろされていた。
残りの二割ぐらいの店も店内から仄かな光を放っていたが建物はボロボロである。
本当にここはどこなんだ……。ていうか、あの路地裏は何でこんなところに繋がってたんだ。
「おい、筑波。お前、ここがどこだか分かるか?」
「あっ……、はい。知ってますよ、榊原商店街です。昔お婆ちゃんの家に泊まったりした時によくこの商店街にはよく来ました。しばらく来ていなかったけど、どの店も見たことありますし買い物したところもいっぱいあります」
「へえ、そうなのか。……じゃあ、帰り道知ってるか?」
「覚えていません」
ナチュラルだ、ナチュラルに言ったな。
「え、けどお婆ちゃんの家に泊まりに行ったことあるんだろ」
「全部親の送り迎えがあったので、あまり気にしてませんでした。さらに家遠いので」
「そうかっ」
すごいな、すんごい幸せだなっ。毎回送り迎えというのはとってもいい両親だ。その慈愛の心は賞賛に値するだろう。
ぼくは筑波の両親に感心した。まあ、過保護というようにも捉える事もできるような気がするが女の子というのは大抵そういうものなんだろ。
——そういえば、ぼくの両親って誰なんだ。まだ一回も会ってないな。どんな人なんだろう。
しかし、安物件のアパートで四人暮らしというのはありえないんじゃないだろうか。
現実的に考えていくとはっきり言って無理だし。そもそも同居してるのか。
と、そこで筑波が口を開いた。
「あの……、やっぱり少しお礼をさせて下さい」
「——筑波。さっきも言ったけどぼくは何もして無い。あくまでも当事者だ」
「……そんな事言わないで下さい。だって私の為に体を張ってくれたじゃないですか、お礼の一つもできないのは嫌なんです」
「お礼なら、あの仮面女に言ってくれ。お前が助かったのはあの仮面女のおかげだから」
「機会があれば、お礼はしますけど……。先に川崎君にお礼させてください」
意固地だな。まあ別にお礼をしたいという事に意固地になるのは悪い事では全くといっていいほどないのだが、ぼくはお礼をされることに嫌気が差した。
当たり前だ、実際彼女を助けたのは仮面女なのだから。ぼくにお礼をされる筋合いなど全く無いのだ。
しかし、このままだと一日中同じやりとりのループになってしまう。
この状況から脱するにはどうすればいいんだ。ぼくは思案しだす。
と、思案しだして数秒でぼくは思考の海から帰還を果たした。そして、見出した案を言葉にした。
「——ああ、お腹空いたな」
「……え?」
「あっ、そうだ。筑波、この商店街の店で惣菜とか売ってるところあるか?」
「えっえっ、ちょっと待ってください」
と、筑波は明かりのついている店の方を向いて目を凝らして店を見極めていた。
——作戦成功。『話を適当にそらす作戦』、まさかの成功。成功確率一%と世間で謳われている気まずい時に遂行する作戦を成功させられるなんて。
ぼくは吃驚仰天、いや吃吃驚驚、仰仰天天であった。普通なら失敗するだろ、これ。
……まさか筑波って鈍感なのかとぼくは心の奥底で思った。
まあ後でもう一度迫られるだろうが、対応する時の口実はゆっくり考えよう。
と、そこで筑波は簡単な声を上げた。
「川崎君、あの商店の惣菜は確か絶品ですよ。らっきょうの漬物とか、コロッケとか。もちろん全部手作りですよ」
「へぇ。興味深いな、それ。じゃあそこで惣菜買うか。筑波も食べるのか?」
「もちろんです」
と、言い切るとそのお店に元気に小走りしていった。
ああ、何か和むなあ。ぼくはその時思った。
そして、その後を追ってぼくも商店に向かった。