ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 ( No.22 )
- 日時: 2012/02/08 23:38
- 名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
そして、少し屋根がツギハギになっている商店の前に着いた。
筑波はやはり慣れている店という事もあって引き戸になっている扉に手をかける。
そしてゆっくりとその扉を開いた。防犯防止のためでもあるのか、鈴がつけてありリンリンと音を鳴らす。
店内は少し埃が目立つが、構造は簡素で木材を使っている事もあり温かみがある。
店頭に並んでいる惣菜は多分客の人数が低迷している事も多分あり、結構少なかった。見たところ、店主はカウンターにも見当たらない。
どうしたものだろうか。そう思っていたが、店内の奥の方から白髪の眼鏡をかけた年配の女性が姿を見せる。多分店主だ。
「こんにちは!……っじゃなくてこんばんは!おばさん、お久し振りです!」
「もしかして、その綺麗な黒髪は……。八千代ちゃんかい……?大きくなったねえ。けどいきなりどうしたんだい、しかもこんな時間に?」
「少し事情があって、その成り行きでここに来ちゃってお腹も減っちゃったので、お惣菜を買いに」
「おお、お惣菜かい?ごめんねえ、まさかお客さんが来るとは思ってなくて品揃えが悪いんだけどそれでもいいかい?」
「はい大丈夫です!おばさんのお惣菜はどれも絶品ですから!」
まあ、どれも美味しそうだからな。全く問題なし。
「ならいいけど……。ところで、その男の子は八千代ちゃんの彼女かい?」
「!?!?」
筑波さん、仰天度二百%ですよ。いや、三百、四百、……まだまだ上がるぞ、仰天度。
筑波の顔はりんごになっている。そして、内側からりんごが砕け散りそうなぐらいパニックになっていた。
まあ、女子ならありえるのかも知れないな。いや、草食系の男子でもありえるだろうな。
こういう展開でパニックになること。
しかし、ぼくには全く共感なんて出来なかった。
何でそんなことで戸惑うんだよ。別に直ぐに撤回すればいいだけの話ではないか。
まあぼくがそんなくだらない事を言ったところで、どうにもなりやしないだろう。
まず、ぼくは年配の女性の誤解を解こうと口を開く。
「あ、すみません。ぼくはただの付き添いです」
「——。っそうですよ、おばさん!私の彼氏なんかいるわけないじゃないですか」
「あっ、あっそうかい……。勘違いして悪かったねえ、ゆっくりして御行き」
おばさんは少し困ったような顔をして応答し、カウンターへ歩いていき腰を下ろした。
ぼくはこの時胸の内に不思議なものを感じた、凍ったように冷たい何かを。
ぼくはとにかく惣菜を選ぶ事にした。惣菜といっても多種多彩であり個性も強いので選ぶのには凄く困る。
悪い意味ではなくいい意味での困るなのであまり問題性は感じられないが。
どうしようか、どれも出来栄え完璧だし凄い迷うな。多分迷わない奴の方がおかしいだろ。
ぶつくさそんな事を心の中で呟きながら、店内を見回す。
その時、ぼくの目が何かを捕らえた。
唐揚げだった、何だか凄い美味そう。唐揚げのパックには特製秘伝のタレ使用等と客の目を引くような物が記載されている。
そして、そのタレが使われているからなのか唐揚げが輝きを見せていた。
それはぼくの食欲をそそる。よだれが出そうなぐらいだが、さすがに食事前には下品なので何とか我慢する。
さらに値段を見ると、150円ポッキリでそこらの惣菜より(あくまでうろ覚えだが)安くてお手頃である。
ぼくはこの時確信する。ぼくはこの唐揚げに選ばれたんだ。
さっきの不良達との喧嘩もコンビニで弁当を買おうと思い立ったのも全てこのためだったんだ!
——と、さすがにそれは嘘なのだが。まあ、そんな事はお見通しだろうとは思うのでいうまでも無いだろう。
ぼくは唐揚げのパックを手にとって、レジへと持っていく。
そして年配の女性にから揚げを手渡した。
「150円ねえ」
小銭を取り出してピッタリ150円を払う。それから唐揚げとレシートを受け取る。
ぼくは商店を出ようとしたが筑波のことを思い出して、店を見渡した。
しかしぼくと年配の女性以外商店には誰もいなかった。
「あの、一緒にいた子知りませんか」
「ああ、八千代ちゃんならとっくに会計して出て行ったよ」
「選ぶの早いなあ、あいつ」
と、ぼくは呟いて商店を後にした。