ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: とある愛情と記憶を忘却したぼく。 ( No.27 )
- 日時: 2012/02/19 14:18
- 名前: イカ飯 ◆woH8nI2Q5A (ID: SyX71hU.)
風が冷たい、今は五月ではあるのだがいくら春といったって朝は肌寒い。
今日は市原が何故か不在だったため、一人で学校に行く事にした。
しかし、大分朝早く訪ねたはずだったのだがどうもおかしいような気がする。
市原ってこんなに早起きするのか、という疑問が頭に浮かぶ。
ただ、実質的には現在のぼくと市原は友達付き合いの日が浅いのでそんなことは知ったことではなかった。
そういえば昨日あの後筑波とどうしたかというと、案外簡単に商店街に出る事ができたので、
商店街入口の十字路で分かれた、ついでにこの経緯に会話は皆無であった。
とてつもなく強張った雰囲気を自ら作り上げてしまったのは、正にミステイク。
ついでに今も後悔している。
——が、しかし。それでもぼくは昨日思った事、言った事を訂正する気など満更無い。
あれはぼくの本心だ、訂正する理由などありはしない。
本当に筑波八千代、その人物が何を考えてるのかなんて分かったものではなかったのだから。
その後帰宅次第、ぼくは風呂や歯磨きを済ませ布団にさっさと潜った。
疲れが25割7分9厘と蓄積されてしまったため、ぼくはすぐ眠りについた。
と、そんな一日を昨日は過ごした。学校から帰宅してからはどうも奇想天外な事が多くて学校にいた時間の2倍ぐらい長く感じた。
もちろん喧嘩の際の傷は痛んだので適当に頭に包帯を巻いておいた。決してミイラではないが。
——そして、しばらく歩くと駅へと着いた。
ぼくはスイカを持ち合わせていたので、財布を改札口のセンサーに翳してホームへと向かう。
するとそこには見覚えのある影があった。
「おーい、市原」
「おっ。よう、川崎。ていうかお前何で包帯巻いてんの、……ミイラのつもりか?仮想下手だな、センス無さ男だよ、お前」
「誰が仮装だ、ミイラじゃないし。さらにお前の方がどう見てもセンスないだろ」
センス無さ男とかその方が絶対にあり得ない。正にナンセンス。
「というか、よう、じゃないだろ。お前何でぼくのことを置いてった。」
「今更かよ?マジでマンマミーアーな奴だな、川崎は。毎週水曜日は朝一でサンデーを買いに行くっていつも言っているじゃないか」
そうなのか。ってマンマミーアーじゃないだろ。マンマミーアーな、とかどんな修飾語だよ。
そんな修飾語はいついかなる時どんな時代でも使われないぞ、絶対。
しかし水曜日は出るのが早いと言うのは初耳だな、……って当たり前だろそれは。
とにかくぼくは適当に受け答えをする。
「あ、ああ。そうだった、悪い」
「ついでに少年誌の発売日は朝一で買いに行くってのも忘れてないよな?」
無類の漫画好きだった!というかマンマミーアーとか聞いて気づかなかったぼくは阿呆だな。
「山賊王に俺はなる!」
「大分違うっ!間違いは一文字だが確実に違うっ!」
こいつ、毎週買っている癖に知識が紙ぐらいペラッペラだっ!
俗に言う知ったかぶりの典型的なパターンだ。ぼくは市原を見ていると何だか哀しくなってくる。
と、そこへ桜花行きの電車が到着する。そしてぼく達はその電車へと乗り込んだ。
「——ところで市原」
「何だよ、川崎」
「お前、筑波八千代って知ってるか。別に知らなくてもいいんだけど」
「……知ってるも何も同じ中学出身じゃん。お前覚えてないの?」
市原は冷たい言葉と共に鋭い視線を向けてくる。……こいつに冷たくされると何故か傷つく。多分いつも阿呆なところしか見ていないからだとは思うが。
「お前さ、昔気になってた子じゃん筑波さんって。俺はお勧めできなかったけど」
——気になってた?今のぼくには、以前の自分の気持ちがわからない。
多分意味合い的には恋をしていたという事になるのだろうか、しかし恋も何もそのおおもととなる愛情がないのにわかるはずもなかった。
とにかく怪しまれないように以前の自分を演じる。
「ああ、確かに気になってたけど……。お前は何でお勧めしないんだっけ、確かにお勧めされなかったのは覚えているけど」
「——いや、悪い人じゃないんだよ。むしろ筑波さんは申し分ないぐらい善い人だ。……だけど。あの人は人が善すぎるんだ。少なくともあの人の辞書に悪という文字の一画目さえ存在しない。誰が見たってわかるさ、中学の時からそうだった。あの人は自分の事なんて考えてない、他人のためになる事しか考えてない。だから昔から不良とかに絡まれてたっぽいし。今はよく知らないけど、筑波さんの近くにいると危険な目に逢うかも知れないって言ったんだよ、思い出したか、ミスターマンマミーアー」
ミスターマンマミーアーじゃねえよ、少なくともマンマミーアーなんて名前の奴は地球の隅から隅まで探したって見つからないだろ。
——と、まあ別にそんな事はどうでもいい、問題は筑波の事だ。しかし、かなり変わってる奴だ。
こんな市原にさん付けされるって、……もうその時点で人とは変わってる事ぐらいわかるけど。
それはそうと、市原の話が本当なら昨日の出来事の一連も辻褄が合う。
が、それでもぼくにはまだ不審な点が残っている。
不良に絡まれるというのはどういうことだ。ぼくにはさっぱりわからない。
少なくとも、市原が『だから』を用いたのは間違いだと思う。何故ならその前後の部分は因果関係にはなっていない。
なっていたとしても市原の説明ではまだよくわからなかった。
ただ、筑波八千代の謎が深まった事だけしかわからなかった。