ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ペンは剣よりも強し ( No.1 )
- 日時: 2012/01/04 08:47
- 名前: 清村 (ID: vgnz77PS)
第1章 兆し
『ヨークよ、子の刻に月の見える丘に足を向けるのだ。大丈夫、そこにはアティもいる』
「え?」
「はぁ?どうしたんだ沃哉、いきなり、え?、なんて」
「…違う、今のはお前の声じゃないもんな」
「…何言ってんだ、じゃぁ俺塾あるから、今日はこっち行くわ」
「泰嗣、明日からの中間テスト、勝負な」
「おっけー、負けねぇからな」
「じゃぁ」
「じゃ」
それが、沃哉が『泰嗣』と最後に交わした言葉だった
その時はまだ、沃哉はそんなこと思ってもみなかった
そんなことよりも、さっきの頭の中に流れたあの謎の声は
いったい誰だったんだろうか
沃哉はそう思うばかりで勉強には身が入らなかった
(ヨークって誰だ?アティって誰なんだよ…)
考えに考えて、悩みに悩んで、もう夜になっていた
(まず子の刻って何時だよ。ニュアンスから推測すると深夜だな…丑の刻は2時だし…)
なんて、冷静になってるふりをする沃哉だが、机に向かう沃哉は貧乏ゆすりが止まらない
(月の見える丘って『月兎町公園』のことかな…あそこは月が綺麗だからな)
暖かくして行きなさいよ、っと家の中から声が聞こえる
有名ブランドのダウンジャケットを身にまとい、月兎町公園に向かって歩き出す
月兎町公園は小さな小高い丘になっている
沃哉の家からさほど遠くない
月の見える丘に着いた沃哉は腕時計を見た
12:25分
『来たか、ヨークよ』
頭の中に学校帰りの時と同じ声が流れてきた
「お前は誰なんだ」
『何も覚えていないのかヨーク』
「は?」
『そろそろアティが来るぞ』
頭の中に流れていた声が消えた
「…おい!」
声が完全に消えた
「待ってたぞ、ヨーク」
聞いたことのある声だった
「お前は…」
月の光で、街灯のない公園の中でもはっきりと姿が見えた
「泰嗣…」
「こいつの名前は泰嗣って言うのか」
沃哉は、泰嗣が泰嗣でないことを喋り方で
確信は無かったが、何者かにのっとられていることを悟った
「お前が、アティっていうやつか」
「あぁそうだ、なぁ、ヨーク」
1対1で話しているのに
あっちはこっちをみて喋っているのに
言葉は全くこっちに向かってこなかった
「僕はここにいます」
口が勝手に動いた
『やっと姿を現したか』
「そっちこそ姿を現せゲート」
無意識に口が動く
話に全く付いていけない
空から白いフードのついたコートを着た男が降りてきた
ゲートという男の様だ
顔はフードで見えない
「役者はそろった…」
白いフードの男は泰嗣、いやアティの隣に立って言った
「アティ、やってやれ」
「まだ馴染んでないからな、これでいいか」
ブチッ!!
肉が裂ける音がした
泰嗣は自分の口で自分の小指を第2関節まで噛みちぎった
血が溢れだす
「おい!!何やってんだ、それは泰嗣の体だぞ!!」
「無駄です、今彼の体は完全にアティのものです」
「まず、お前は誰なんだ!!」
沃哉は1人で喋っている
地面に泰嗣の指が落ちる
その指はみるみるうちに人の形になった
人と言うより、化け物が現れた
「いいから、僕に体を委ねてください」
「うるさい!俺の体は俺のものだ!!」
「いいから、任せてください!」
沃哉は言われるがままに、体を委ねた
体が勝手に動く
視覚と聴覚だけが、はっきりと残っている
泰嗣の指が変形した化け物は
体長3mほど、片手には巨大な剣を持っている
「お、おいお前、大丈夫なのか?」
「筆人ですから、剣奴には勝てます」
「?」
沃哉は自分の右手が深蒼色に光っていることが分かった
「愚なる力を許すこと無かれ」
口が勝手に動いたと思ったら
右手に筆が現れた
グォォォォォォ!!
剣奴がこちらに向かって
すごい形相で走ってくる
「宿れ 清らかなる力 守護の印【止水】!!」
今、目の前で起こっていることはとても現実離れしてた
沃哉は信じられなかった
地面に読めそうにもない何かの印が書かれ、
その印から噴き出す大量の水は剣奴の行く手を阻む
グオォォォォ!!
剣奴の体は蝕まれている
噴き出す水が収まると、そこには粉々になった肉片と
巨大な剣が落ちていた
「さすがヨークだ、『巨人型』を粉々にしちゃうなんてな」
「うるさいですよ」
「とりあえずこいつは連れていくからな。【冥界の扉】」
白いフードの男は掌をかざした
するとアティとゲートの背後から大きな扉が出現した
「おい!!泰嗣を返せ!おい!!」
沃哉はヨークの意識を押しのけて
泰嗣の名前を呼んだ
2人は扉の奥の闇に消えてった