ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ペンは剣よりも強し ( No.2 )
- 日時: 2011/12/24 10:00
- 名前: 清村 (ID: vgnz77PS)
扉の奥へと消えていくゲートと泰嗣、アティ
いくら叫んでも、もうあそこには泰嗣はいない
信じたくなかった、というよりこの状況で信じらざるを得なかった
信じたくなかった
「泰嗣ぃぃぃぃ!!!!」
バタン
扉が、沃哉の声虚しく、無情にもしまった
地面深く消えていった
ゴスッ
「くっ!」
沃哉はヨークの支配を振り切り
左手を取り返し
痛みのない自分の体を思いっきり殴った
痛いのは体を借りているヨーク
「体を返せ」
「あ、すいません」
それから、話についていけなかった分を
朝方まで全部吐いてもらった
「おまえは誰なんだ」
「私はヨークって言います」
「いや、名前は知っているから。いったい何者なんだって聞いてるんだ」
ヨークは少し黙って話し始めた
「私は『化身』という種族です」
「ケシン?」
「はい、太古の人類は、化身といえば神を宿した巨大な岩だとか、唯一神を祀ったトーテムだとか、そういう神秘的に捉えられてきたのですが、私たちのような化身は、言わば『武器』です」
「…武器」
「さっきあなたの右手に出現したあの筆は私の体の一部です。ちなみに左手ですが」
「なんでもっと強そうな武器にしないんだ?あの巨人の様に、かっこいい剣にしないんだ?」
「沃哉が『筆人』だからです。筆人は剣を持つことを、『剣人』は筆を持つことを、禁じられてます」
「ちょ、ちょっとまってくれ、ヒツンドとか、ケンドとか、なんなんだよそれ」
「それは沃哉が一番知ってます」
「…」
沃哉は少し考えた
筆人というワードから、何が連想できるのかを考えた
「ごめん、何も想像できない」
「いずれ分かりますから。今日はもう帰りましょう」
言われるがまま帰った
もう朝日が昇っていた
—
「浮かない顔をしてるようだな、アティ」
「…」
「あの沃哉ってやつ、殺しておくべきだったな」
「…そんなことは無い、まだな」
「…はいはい」
—
昨日あんなことがあったんだ、と、クラスメートに話す気に何てなれなかった
もちろん話したところで、どうせ夢なんだろ?と、バカにされるだけだから
「元気ないね、沃哉」
と沃哉に話しかけてきたのは沃哉の幼馴染の
南月 莉緒(なつき りお)という巨乳の女子高生
幼馴染が人それぞれだが、沃哉と莉緒は小学校からクラスが一緒である
莉緒いわく、それが幼馴染である
「いや、寝不足で…ありがとう」
「ううん、あ、泰嗣くんは?」
一番訊かれたくないことを率直に尋ねてきた莉緒に
すこし嫌悪感を抱いたが、そこは表に出さずに
その場をとり繕った
「あいつは勉強のしすぎで寝坊じゃないのか?電話しても起きなかったし…」
「そ、そうだよね…」
中間テストが終わった
泰嗣は結局登校してこなかった
あたりまえだ、泰嗣は扉の向こうへ消えてしまっていたのだから
「沃哉…」
「ん?どうしたんだ?」
「今日…一緒に帰らない?」
「どうしたんだ急に、別にいいけど」
それから2人で下校した
でも落ち着かなかった
自分の体の中には例のアレがいるから
『その娘は、沃哉の彼女ですか?』
「馬鹿言え!」
「え?どうしたの沃哉」
「あ、いや、なんでもない…(くそ…)」
ヨークの声は沃哉にしか聞こえないらしい
「私、昨日変な体験したの」
「え?変な体験?」
「うん、私の中に、何かがいるの」
「!!!」
沃哉は悟った、もしかしたら、莉緒も自分と同じように
ヨークのような化身を宿しているかもしれない、と
でも聞こうとしても、怖かった
知ってる人がまた、別の世界に行ってしまいそうで
「左手に筆が現れて、かと思ったら、怖そうな、剣を持った人たちが遅ってきたの。きずいたら、道路が血まみれだったの…」
「…」
『沃哉、そいつも筆人だ』
「分かってる…なぁ莉緒、」
喋りかけようとした瞬間、沃哉の首筋に殺気が走った
「!!」
ズズズズズズズズ
地面から、化け物が現れた
剣を持っている
『剣奴です、僕と交代してください』
「…俺に戦わせてくれ」
「え?」
『しかし…まだ何も戦い方なんて教えてませんよ。無理です』
「いいから、お前は武器なんだろ」
「何言ってるの?沃哉…」
『しょうがないですね…』
沃哉の右手が深蒼色に光り出した