ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.13 )
日時: 2012/01/09 13:52
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: ZdG3mpMH)

 朝食を終えて、フーは皿洗いを乱暴に行う。
 プリファーナはその様子を見つめながら、ニルギリを優雅に飲む。
 なお、フェーンは部屋へ戻り読書の続きをしにいった。

「嬢様。皿洗いが終わり次第すぐに出かけるからな」
「ええ、もう準備は昨日から済ませていますわ」

 黒い尻尾を振りながら、プリファーナは笑顔で台詞を言う。
 遠足みたいなお出かけでもないのに昨日から準備をしている彼女を、フーは浅い溜息で返す。

「な、なぜ溜息をするのですこと!?」
「いや、嬢様らしいなと」

 ガチャガチャと音を鳴らしながら、皿を並べるフー。
 余談だが、彼女が1年に割る皿は50枚を超えるか超えないかである。

「さて、皿洗いは終わった。早速出かけるぞ」
「ええ、良くってよ」

 可愛らしい微笑みを浮かべながら、キッチンを後にするプリファーナ。
 フーはエプロンを脱ぎ、ガスの元栓を確認しながら乱暴にテーブルの上へ乗せて、この場を後にする。


                 ○


 白を基調とした建物が並び、町の中央には大きな凱旋門が人々を見下ろす町——————ゲートビジー。
 蒸気機関車で人と物を運び、商業活動が活発な町である。
 プリファーナとフーはフェーンに洋館を任せて、そんな町を歩く。
 常に彼女の傍を歩きながら、辺りを見回すメイドと優雅に日傘をさしながら歩くお嬢様。
 一目見て、どこかの富豪だという雰囲気を感じ取れる。

「嬢様。このまま向かっても待つ羽目になる。リボン店で時間を潰すか?」

 フーの言葉に、プリファーナの黒い尻尾が大きく反応する。
 余程、リボンを愛しているのが分かる瞬間だった。

「もちろん行きますわ。そういえば、新しいリボンが販売されているらしいですわよ?」

 子供のように、無邪気に微笑む彼女。
 フーは2つの耳を動かしながら、プリファーナと同じくにこやかに微笑む。


                ○


 両手に袋を持ち、ご機嫌な表情を浮かべるプリファーナ。
 中には大量のリボン。いくつか入らなかったので、2つくらい尻尾に結んでいた。
 代金は現金ではなく、小切手で支払う辺りどこか一般人とは違った感じがする。
 フーは彼女の変わりに日傘をさし、メイドらしく彼女へ奉仕していた。

「新しいリボンはとても可愛くて、すぐに気に入りましたわ」

 どうやら、彼女が言っていた新しいリボンは手に入ったようである。
 生地はベルベット作りで、柔らかで上品な手触りから尻尾につけるにはとても向いている。
 色は彼女にしては珍しい青色。紅色が好きなプリファーナにとって正に正反対な色だ。
 だが、リボン好きには色など関係なく、可愛ければそれでいいらしい。

「気にいったのは良いが、これから遠い場所へ行く。パースルルームでそれを預けろ」

 喜んでいるプリファーナに、つんとした口調で言葉を飛ばすフー。
 どうやら、遠くまで出かけるのにその袋が邪魔だと彼女は言う。
 ちなみにパースルルームというのは、言い方を変えると手荷物お預け所の意味である。
 お客様の手荷物を一時的に預けて、時間により料金を取るビジネスだ。

「そうですわね、本来の目的を忘れてつい大量に買ってしまいましたわ」

 プリファーナ自身も同じ意見だった。
 このまま持って歩くと、万が一袋を落としたら台無しだからである。
 例え、中身に被害がなくても精神的に落ち込む。それは、彼女が1番よく理解していた。

「汽車までは……まだ時間はあるな。とっとと預けに行くか」
「分かりましたわ」

 2人が出かけに行く場所は、どうやら蒸気機関車に乗らないとだめらしい。
 プリファーナとフーは若干駆け足で、パースルルームへ向かう。


                 ○


 パースルルームにリボンが入った袋を預けた2人は、呑気に蒸気機関車が来るのを待っていた。
 時間帯的にはあまり人は居なく、ゆったりとした雰囲気だ。

「嬢様、今日のディナーは——」
「分かっていますわ」

 フーが何かを言おうとしたが、プリファーナはそれを言う前に言葉を言う。
 一応、2人の意思疎通は出来ているようである。

「嬢様は多少肉食ですからね。たまには——」
「フー、あなたよりは肉食ではありませんわ」

 ウルード族とドラーペシュ族は基本的に肉が大好きな種族。逆にシルティー族とラージエル族は野菜が大好きな種族である。
 昔、何か争いがあるとウルード族とドラーペシュ族が先陣となることが多かった。シルティー族とラージエル族は彼らの背中をずっと見つめる。
 この性格の違いが、好きな食べ物にも若干影響している。

「フェーン様は喜びそうですがね」
「フェーンはウルードとは思えませんの。ですが、そこがまた良いところですわ」

 2人してフェーンは変わっていると話す。きっと、今頃フェーンはくしゃみをしているだろう。
 だが、彼女たちが言うのも納得いく。ウルード族は血の気が多く頭よりも体動く種族。
 フェーンは本当に全く逆で、冷静で体よりも先に頭が働く。
 フー曰く、劣性遺伝か過去に相当な出来事があったからこうなっていると予想している。

「こんな話をしていたら、お肉が食べたくなってきましたわ……血の滴る……ふふっ」
「私は生よりも焼いた方が好きだ」

 余談だが、プリファーナは甘い物と肉なら肉を優先的に選ぶ。

「さぁ、嬢様。そろそろ……」

 蒸気機関車がやってくる。プリファーナとフーは1番開いている車両へ乗る。