ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.2 )
日時: 2011/12/22 04:25
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: 2zVo1PMY)

 ある日の夜。男女のカップルの姿があった。
 2人の背中には大きくて神々しい翼と頭の上には輝くわっかがある。
 一目見て、ラージエルのカップルだと言う事が分かった。
 中心に大きな噴水が置いてある公園。近くには白いベンチも置いており、座って噴水を見るのも1つの楽しみ方。
 周りに立っている街灯は優しい光を輝かせており、公園を明るくさせている。
 この公園はデートスポットとして有名で、毎日カップルが訪れる場所。
 今日はラージエルの男女。2人はお互いの手を握り合いとても良い雰囲気だった。

 ——————その様子を恨めしそうに見つめる者。
 公園の茂みに隠れて、毎日カップルの姿を見つめて嫉妬するラージエルの男だった。

 金髪の髪の毛は腰にかかるくらい長く、前髪は目にかかっている。髪の毛と同じ色の瞳をしていたが、それは右目だけで、左目は眼帯で隠れていた。
 白いトレンチコートを着用しており、その姿はどこか紳士らしかった。
 背中には白くて神々しい翼が生えていたが、頭の上にわっかはなかった。

 カップルが喋るたびに、男は右目を見開き嫉妬の瞳で睨む。
 羨ましい。そんな思いが全身から伝わってくる。
 しかし、その行為を何度もやっているうちに、男は疲れて後ろに生えている木に背を預けてしまう。
 実はこの男、ラージエルなのに頭の上にわっかがないという理由で、女性から全く興味を持たれなかったのだ。
 容姿や顔つきは普通に良い。だが、生まれた時に障がいとしてわっかがなかった——————
 それだけの理由で、相手が見つからない。
 あまりの理不尽さに、男は思わず口を開き、

「モテたいな……」

 叶うはずのないことを呟く。

 そして、男はゆっくりと目を閉じる——————


             〜ハーレム事件簿〜


 朝の洋館。中に住んでいる人はまだ寝ているのかとても静かであった。
 窓と思われる場所には紅いカーテンがかけられており、朝の日差しが入らず薄暗い。
 そんな洋館の中で誰かの足音が聴こえてきた。
 足音のリズムはやや早く、どこか焦っているように感じ取れる。

「あぁ……もう……」

 廊下を歩いていたのは、1人の女性だった。

 紅い髪は二の腕までの長さまであり、前髪は目にけっこうかかっていて、瞳はルビーを連想させる紅色。
 紅いドレスを着用しており、どこかのお嬢様を連想させる格好。
 頭には紅いリボンが2つあり、可愛らしいところもあるのが伺える。
 首にはコウモリをモチーフにしたアクセサリーをつけていて、腰には東洋の魂である刀があった。大きさ的に、打刀だ。
 背中の大きな黒い翼と黒い尻尾が生えているところを見ると彼女はドラーペシュ族だというのが見て分かる。

 彼女は、右手で額を叩きながらある所へ向かっていた。
 そして、とある部屋の扉の前へ来ると、

「フェーン!早く起きなさい!」

 勢いよく扉が開く音と高い声が洋館に鳴り響く。

「おや?こちらはもう起きていますが?」

 部屋の中には1人の男性が、のんびりイスに座って本を読んでいた。

 頭の上にはふさふさした2つの耳と1本の尻尾が生えているところを見ると、彼はウルード族だというのが分かる。
 灰色の髪の毛は首くらいまでの長さがおり、前髪は目にけっこうかかっていた。
 瞳は青緑色をしていて、目が悪いのかメガネをかけていた。
 黒いスーツの上に、科学者みたいな白いコートを着用しており、血の気の多いウルード族にしてはかなり珍しい格好である。

「起きているのでしたら、早く朝食を作ったらどうですこと?」

 腕組をしながら、つんとした表情を浮かべる女性。
 フェーンと呼ばれた男性は本をテーブルの上に置き、やれやれと言葉を呟く。

「もうそれくらい、自分でやったらどうですか?プリファーナさん」
「わたくしは、朝の紅茶担当ですわ」

 プリファーナと呼ばれた女性はにこやかな表情を浮かべ、この場を後にする。
 一方、フェーンは右手でメガネを上げながら部屋を出る。


                ○


 洋館のカーテンは全てフェーンの手によって開き、朝日が差し込む状態になる。
 先まで薄暗かった内部はとても明るく、気分をよくさせた。

「朝ご飯の用意ができましたよ」
「こちらも紅茶の準備が出来ましたわ」

 洋館のキッチンに、先程の男性と女性が居た。
 朝ご飯の用意をするのはフェーンで、紅茶の用意をするのはプリファーナ。
 お互いの作成した物をテーブルの上に置き、お互い対面するようにイスに座る。

「いただきますわ」
「いただきます」

 座った瞬間、2人は朝ご飯に手をつける。
 プリファーナは自分の淹れた紅茶を一口飲み、尻尾を震わせていた。

「う〜ん……やっぱり朝は、すっきりとしたニルギリが1番ですわ」

 実は彼女が紅茶を入れる担当になっているのは、趣味で茶葉を栽培しているからである。
 プリファーナは根っからの紅茶マニアで、1つ1つの味も理解している。
 だから、このように朝はすっきりとしたニルギリをチョイスした。

「朝は必ずニルギリですよね?プリファーナさん」

 一方、フェーンは自分がオーブンで焼いたトーストをベーコンと一緒に食べていた。
 紅茶の知識はないが、こういった家事は全てフェーンが担当する。

「朝はニルギリしかありえないですわ。それ以外を飲む輩は表へ出ろですわ」
「……この前は茶葉を間違って刺激の強いウヴァを飲まされましたね」

 この一言に、プリファーナは黙ってトーストを食べ始める。
 その様子が面白かったのか、フェーンは薄く笑う。

「所で、今日は町へお出かけをする日でしたわよね?」
「あれ……そうでしたか……?」

 フェーンはスーツの裏ポケットから手帳を取り出し、今日のスケジュールを確認する。

「おや、バッチリ書いていますね」

 手帳を閉じ、また薄く笑う。
 プリファーナはむっとした表情を浮かべ、紅茶を飲む。