ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.3 )
日時: 2011/12/22 14:55
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: PAeJS2fQ)

 白を基調とした建物が隙間なく並び、中央には大きな凱旋門が人々を見渡していた。
 ここはゲートビジーという町で、商業活動が活発な町だ。
 商品を運ぶために、蒸気機関車が忙しなく動いている。ついでに、人を乗せる交通手段でもある。
 まさに、人とお金を動かす町。ここに訪れる人は、大抵買い物という目的である。

「ここはいつ来ても賑やかですわね」

 町の一角で、嬉しそうな表情を浮かべる女性。プリファーナが居た。
 黒い翼を隠すくらい、大きな紅い日傘をさして太陽の光を浴びないように歩く。
 ドラーペシュ族はもともとドラキュラが進化した種族なので、日光を浴びると肌荒れを起こしてしまう種族。
 特に女性は肌に対する意識が強いので、日傘をさしている者が多い。
 町全体を見てみると、日傘をさしているドラーペシュは数えきれないほどいる。
 そのためか、人々が歩く道路は日傘を考慮してやや横に広い。

「ところで、この町へ来た目的は……?」

 プリファーナの隣を歩くのはフェーン。傍から見ると、主と従者のように見えた。
 尻尾を振って、彼女の目的に興味を沸かせる。

「言わなくても分かりますわよね?わたくしがここへ来る目的は、ショッピングしかありえないですわ」

 何を言っているんだという表情を浮かべ、プリファーナは黒い尻尾を激しく動かして言葉を飛ばす。
 そんな彼女に、フェーンは2つの耳を動かして深い溜息をする。

「どうせ、荷物持ちはこちら……ですよね?」
「当たり前ですわ」

 ウルード族は狼の血が流れているため、男女ともに力がある。
 だが、力の変わりに知識の方は若干乏しく。1番モラルの低い種族と言われている。
 しかし、フェーンは少し稀なウルード族。知識の方は豊富で力が乏しい存在だった。
 そんな彼に荷物持ちをさせるプリファーナは、正しく悪魔である。

「フェーンはウルード族ですことよ?それに、レディーの荷物は持つのは紳士たる者、当然の行為ですわ」
「はいはい……」

 ずれたメガネを右手で調整して、フェーンは彼女の勢いに辟易(へきえき)する。
 2人はいつもこんな感じで、日々のやりとりをしている。
 仲が良いのか、悪いのかはその人その人の解釈が別れる。
 だが、お互い嫌そうな表情を浮かべていないところを見ると、なんだかんだで信頼し合っていると伺える。


                ○


 2人は町に1軒しかない、リボン専門店へ入る。
 そこに陳列されているリボンは多種多様な色とデザインがあり、専門店という名前に恥じない数があった。
 正直、男性が入るにはかなり抵抗のある場所だった。

「相変わらず……リボンにはうるさいですね」

 フェーンもその1人だった。可愛いリボンに囲まれ、どこか落ち着きがなかった。
 しかし、プリファーナの傍を離れると彼女から何を言われるか分からないので、仕方なく店内へ入っている。

「リボンはレディーを輝かせるアイテムですわ。フェーンには一生分からない代物ですことよ?」

 少々小馬鹿にしたような表情を浮かべ、言葉を飛ばすプリファーナ。
 彼女は紅茶の次に好きな物はリボンである。特に、紅色のリボンは血を連想させるから1番好き。
 毎日、自分の頭にリボンをつけているのはそのためである。たまに、刀の鞘や黒い尻尾にリボンをつけたりもするくらいだ。
 プリファーナ曰く、リボンはツェペシュの贈り物らしい。
 余談だが、ツェペシュというのはドラーペシュ族の先祖にあたるドラキュラの名前である。

「このリボンは可愛いですわね。あっ、このリボンも捨てがたいですわ!」

 両手にリボンを持ち、気持ちを高揚させるプリファーナ。

「どれも同じようなリボンに見えますけどね……」

 お洒落に疎いフェーンは、彼女に聞こえないように言葉を呟く。
 そして、右手でメガネを調整し店内を見回す。

 ——————ふと、窓を見つめるフェーン。
 6人くらいの女性が、外を勢いよく走っている姿を確認する。

「………………」

 眉間にしわを寄せ、尻尾を動かしながら深く考える。
 女性が勢いよく走るほどの出来事。これは何かあると勘づく。

「プリファーナさん。急用が出来ましたよ?」
「えっ、わたくしはまだリボンを選んでいませんわ!」
「リボンは後にしましょう。少々きな臭い出来事が起きたかもしれません」

 フェーンは彼女の右手を取り、店内から勢いよく出ていく。
 プリファーナはどんどん自分の元から離れていくリボン店を見つめながら、彼の勢いに任せるしかなかった。