ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.4 )
- 日時: 2011/12/27 06:36
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: H42bpFfN)
プリファーナとフェーンはこの町にある公園に居た。
2人はそこで、なんとも奇妙な光景を目の当たりにする。
1人のラージエルの男性に、群がるたくさんの女性たち——————
その数は肉眼で数えるのが難しいほどである。正にハーレム状態。
そして、もっと不思議なのは群がっている女性はウルード族、シルティー族、ドラーペシュ族、ラージエル族と全ての種族が居た。
普通に考えて、同種族にしか異性として興味がわかない人たち。
この状況はとても異常だった。
「な、なんですの……あの人だかりは……」
プリファーナは目をひきつらせながら、集団を見つめて言葉を呟く。
ラージエルの男性を取りあう、大量の女性。その勢いに辟易していたのだ。
「あのラージエルの男性は、よっぽど良い人なのでしょうか?」
尻尾を動かしながら、興味深くその様子を見るフェーン。
——————彼の表情は、少々深刻そうな雰囲気を漂わせていた。
「わたくし、ラージエルはそんなに好きではありませんわ。そして、こんなの見ても仕方ありません。早くリボン店へ戻りますことよ?」
プリファーナがそう言葉を飛ばした瞬間、フェーンの姿はなかった。
「なっ……フェーン!」
なんと、彼は女性の集団を巧みに掻き分けながらラージエルの男の元へ向かっていたのだ。
彼女も、フェーンの後をついて行くがあまりの勢いに、前へ進むことができなかった。
そればかりか、プリファーナもラージエルの男を狙う女と見られてしまい、女性たちから額などを押されてみじめに追い出されてしまう始末。
「わたくしをこんな目に合わせるなんて……斬りますわよ!?」
むっとした表情を浮かべ、彼女は腰にかけている刀を鞘からだし女性たちを脅す。
だが、それも無視されてしまい刀を構えて牙を出す姿が情けなく感じる。
彼女は刀を鞘に戻し、つんとした表情で公園の隅で待機する。
○
一方、女性の集団を見事に切り抜けたフェーンは、ラージエルの男と言葉を交わしていた。
「失礼……少々お時間いただけますか?」
「ん?どうした?」
フェーンの言葉に反応するラージエルの男。
金髪の髪の毛は腰にかかるくらい長く、前髪は目にかかっている。
髪の毛と同じ色の瞳をしていたが、それは右目だけで、左目は眼帯で隠れていた。
白いトレンチコートを着用しており、その姿はどこか紳士らしかった。
背中には白くて神々しい翼が生えていたが、頭の上にわっかはなかった。
「おや、あなたは頭の上にわっかがないラージエルですか?」
この言葉に、ラージエルの男は表情を曇らせる。
どうやら、本人のコンプレックスらしい。フェーンはすぐに察して、咳払いをする。
「失言をしてしまい、申し訳ありません」
「いや、良い。所で俺になんかようか?」
ラージエルの男は曇らせた表情を一気になくして、フェーンが何を聞きたいのか尋ねる。
「その前に、こちらはフェーン=クロワードと言います」
事情を聞く前に、フェーンは慇懃(いんぎん)に自分の名前を簡単に紹介する。
その姿は、正しく紳士を連想させる。
「俺はハーエル=ロストーニ」
ハーエルと名乗るラージエルの男。
余談だが、ラージエルの名前には必ず○○エルとつく。これは、ラージエル族の独特なルールであり、エノクの決まりと言われている。
「ハーエルさん?これは一体どういうことなのでしょうか?」
フェーンはたくさんの女性に囲まれている状況について、ハーエルから聞く。
しかし、当の本人は妙な表情を浮かべる。
「いや、それが俺も分からないんだ。たまたま公園へ来てみたらいきなりこうなっていてさ」
「突然……こんな状態になったと?」
フェーンの表情はどんどん真剣そのものになっていく。
突然というワードが、彼の心に引っかかったのだろう。
「ああ、本当に突然さ。でも、俺は長年の夢が叶ったからそんなのどうでもいい」
「長年の夢?」
ハーエルの言う事に、どんどん深く突っ込んでいくフェーン。
余程、気になることがあるのだろう。
「俺は、頭のうえにわっかがないだけでモテない。だけど、今はそれが叶ったんだ」
「ふむ……」
フェーンはハーエルに一礼をして、また女性の集団を巧みに掻き分ける。
どこか不思議な表情を浮かべ、尻尾を激しく動かす彼は何か考えがあるように伺える。
「(これは、もしかすると……)」
口元を上げて、ハーエルの姿をもう1回確認するフェーン。
「フェーン?用事はもう終わりましたこと……?」
突如、背後からドスの効いた声が響く。
2つの耳をピクピク動かしながら、フェーンは恐る恐る背後へ振りかえる。
そこには、左手で日傘を持ち右手で刀を持っていたプリファーナの姿があった。
「はは……プリファーナさん。目が本気ですよ?」
「わたくしを置いて行った罰は……どういたしましょう?」
最後に口から鋭い牙を見せながら、フェーンへ言葉を飛ばすプリファーナ。
彼の本能が悟ったのか、フェーンはこの場で土下座をする。