ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.6 )
- 日時: 2011/12/24 11:47
- 名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: aFJ0KTw3)
月明かりを浴びながら、夜のゲートビジーを歩く2人。
昼間とは違い、全く人が居ない町。1人で歩くには少し勇気がいるくらい。
しかし、白を基調とした建物の中から聞こえてくる笑い声が、そういう気分を紛らわせてくれる。
フェーンは辺りを見回しながら、傍にいるプリファーナの護衛に専念していた。
一方、彼女はそんな彼を見つめ、
「普段から真剣にしてくれたら、ありがたいですわねぇ」
一言漏らす。
すると、フェーンは右手でメガネを上げ、
「何事も切り替えが大事ですよ。こちらだって、常にこうしているのは大変なのですから」
「でしたら、普段通りにしたらどうですこと?」
「今は助手の立場です」
昼はただのウルード族の男、しかし場合によってはプリファーナの助手。
プロ意識丸出しのフェーンに、彼女はこれ以上言葉をかけることはしなかった。
○
プリファーナとフェーンは開いた口が塞がらなかった。
昼間の公園へ出向くと、そこはとんでもない状況になっていたのだ。
ラージエルの男。ハーエルに群がっていた女性たちが倒れていた——————
中には血を出している者も居て、早く処置をしないと生死に別れる状態である。
「フェーン。彼女たちの手当てを」
「分かりました」
フェーンは彼女の命令に従い、1番危なそうな女性から手当てをする。
だが、彼には応急処置をするくらいの腕しかなかったので、ただの一時しのぎにすぎなかった。
「これは酷いですね……早いところ、専門の人に見てもらわないと……」
彼が応急処置をしていた女性はラージエル。
傷口を観察すると、引っ掻かれたような跡が残っていた。
「(これは……ウルード族の爪跡……)」
自分がウルード族だからこそ分かる爪跡。
ラージエルの女性を傷つけたのはウルード族——————
さらに、そこからフェーンはディナーの時にプリファーナが呟いた一言を思い出す。
「(女の嫉妬は怖い。でしたね)」
この爪跡は、紛れもなくウルード族の女性。
元々、ウルード族は狼の血が宿っているため力の方はかなりある。これくらいの傷跡を残すのは朝飯前である。
そして、フェーンはさらに嫌なことを思い浮かべる。
「(このままでは、ハーエルさんも危ないですね)」
もし、ハーエルが1人の女性を選んでしまうと、選ばれなかった女性たちの嫉妬が生まれる。
それがどんな形で表れるか分からないが、最悪ハーエルを——————
彼は、眉間にしわを寄せてラージエルの女性から距離を置く。
「プリファーナさん」
「分かっていますわ。早いところ、ハーエルという男の元へ行きますことよ!」
今最優先することは、根本的な出来事を起こしたハーエルの元へ行くこと。
フェーンは倒れている女性たちを、申し訳ないと思いつつこの場を後にする。
○
公園から10mくらい離れた場所で、4人くらいの人影が見えてきた。
その道中には、当然倒れて瀕死状態の女性たち。
——————だんだん、1人の男を取りあう争いに見えてくる。
プリファーナとフェーンは、一刻も早く人影の元へ向かうため懸命に走る。
特に、彼女はドレスを着用しているのに全く動きにくそうな雰囲気を漂わせない辺り、こういうことに慣れていると伺える。
「フェーン!」
プリファーナが叫ぶと、フェーンは白のコートを翻(ひるがえ)して獲物を狙う狼のような速さで、人影の傍へ一気に駆け寄る。
それに気付いた人影は、突然現れるウルード族の男に目が行ってしまう。
「失礼、こちらはフェーン=クロワードと申します。ハーエル=ロストーニさんは……?」
若干息を切らせながら、フェーンはハーエルを探す。
すると、背後から情けない声が響く。
「フェーン!頼む、助けてくれ!」
咄嗟に背後を振りかえると、そこには服装が乱れたラージエルの男。ハーエルが居た。
ウルード族の女性に胸ぐらを掴まれたり、女性たちにもみくちゃにされていたのがなんとなく分かる。
「ハーエルさん、事情はあちらにいる派手な女性へお願いします。こちらは、この女性たちをなんとか足止めしておきますから」
フェーンが指さすところには、刀を構えた派手な女性。プリファーナが居た。
ハーエルも突然の言葉だったが、考えるのをやめて一目散に彼女の元へ向かって行った。
当然、彼を取りあっていた女性たちもハーエルの後を追う。
「——手荒な真似は控えたいのですが、状況が状況です。少し、おとなしくしてもらいましょうか」
ハーエルを追う女性たちの目の前に、素早く移動するフェーン。
そして、右手でラージエルの女性の腹を殴り気絶させ、続けざまに左手でドラーペシュの女性を気絶させる。
その瞬間、残ったウルードの女性がフェーンの足を払う。
思わず身を崩してしまい、その場に倒れてしまった。
「つっ……ウルードは1番厄介ですね……」
ウルード族は4種族の中でも1番身体能力が高い。
自分もウルード族だが、体よりも知識が発達しているためそこまで身体能力は高くない。
先程、女性を一撃で気絶させたが彼にとってはかなり力を入れないと無理で、普通のウルード族なら力を入れるまでもない。
「下手にこちらから攻めず、逃げ回って時間を稼いだ方が得策ですね」
少し距離を置き、自分の尻尾を激しく振って挑発するフェーン。
単純なウルード族、すぐ彼の挑発にのってきた。
「後は頼みますよ……プリファーナさん」
横目でプリファーナを見つめながら、出来る限り時間を稼ぐフェーンであった。