ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 願い 〜叶える物と壊す者〜 ( No.8 )
日時: 2011/12/26 00:31
名前: コーダ ◆ZLWwICzw7g (ID: Jc47MYOM)

 次の日の朝。相変わらず洋館は太陽の光を完全にシャットダウンしていた。
 廊下から聞こえる足音。これも相変わらずリズムが速い。
 眠そうな表情を浮かべながら、廊下を歩くのはプリファーナ。
 どうやら、昨日の後処理でずいぶん遅くまで公園に残っており、途中フーも駆けつけるほどの規模。
 まるで、ヒーローが自分で壊した建物を自分で直すみたいな光景。プリファーナはそこら辺律儀である。
 だが、クリスタルのことは極秘情報。女性たちには噂に踊らされていたという少々苦しい言い訳で納得してもらう。
 しかし、ハーエルだけは違った。クリスタルに効果を生ませてしまった張本人のため、包み隠さず事情を説明して、2度とこんなことをするなとフーの脅しを入れておいた。
 本人は安易に自分の願いを口にしたことを反省していたので、もう起こらないとプリファーナは確信する。
 思ったより軽傷だったフェーンは、フーの怪力によって荷物みたいに持ちあげられ洋館で治療を受ける。
 そして、今に至る。

 プリファーナはとある部屋の扉の前へ来る——————

「フェーン!起きなさい!」

 洋館に、高い声と勢いよく扉が開く音が響き渡る。
 部屋の中にあるベッドに寝ていたフェーンは、少々困った表情を浮かべて起き上がる。

「な、なんでしょうか、プリファーナさん?」

 困った表情を浮かべてはいたが、決して苦しそうな表情は浮かべないフェーン。
 まだ痛みが残っているはずなのに、彼女に心配されないようやせ我慢をする根性は立派だった。

「何を言っているのですこと?早く、朝食を食べますわよ」

 つんとした表情を浮かべ、プリファーナはフェーンの右手を取る。
 こんな状態でも朝食を食べさせる彼女の行為は、優しいのか優しくないのかよく分からなかった。
 だが、今から何を言っても無駄だと察したフェーンは、浅い溜息をしながらキッチンへ向かう。


                ○


「所で、メガネがないのですが?」
「あのメガネは血だらけで、もう使い物になりませんわ。ですから、わたくしが処分しましたの」

 キッチンで会話をする2人。フェーンは自分のメガネがないことに違和感を覚えていた。

「処分……あの、こちらはメガネがないと少々……」
「分かっていますわよ。ですから、今日も町へ行きますわ」
「はぁ、そこでメガネを買えと言うのですね。自分のお金で」

 フェーンは浅い溜息をして言葉を呟く。
 どうせ、彼女の事だからメガネは自分で買えと言いだすのだろうと思ったら——————

「……今回は、わたくしのおごりですわ」

 意外な言葉が返ってくる。
 フェーンは2つの耳をピクピク動かしながら、

「プリファーナさん?もしかして、熱でもあるのでしょうか?」
「失礼ですわ!」

 どうやら彼女に熱はなかった。
 つまり、本心であの言葉を言ったのである。

「言っておきますけど、昨日のリボンの借りですわ」

 無理矢理リボンを買わせた癖に、借りとか言うプリファーナ。
 フェーンは彼女の言葉に、大きく笑う。

「な、何を笑っているのですこと!?」

 両手でテーブルを叩き、プリファーナは黒い尻尾を動かしながら怒鳴る。
 だが、フェーンは彼女の怒りに全く反応せず、

「いえいえ、ここはお言葉に甘えておきますよ」

 余裕な表情を浮かべる。
 プリファーナはつんとした表情を浮かべ「まぁ、良いですわ」と小さく言葉を漏らす。

「——だが、その前にこの朝食を完食してもらうぞ」

 突然現れる白狼のメイド。
 彼女はテーブルの上に、昨日のロブスターのボイルを置く。

「もちろん、カフェ、ソルベ、ロティー、サラダ、アントルメ、フルゥイ、アントレも全部完食してもらうからな」
 2人はお互いの顔を見つめ合い、浅い溜息をする。

 朝からヘビー級の朝食に、プリファーナとフェーンは悲痛な叫びを洋館に響かせる——————

               〜完〜