ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.9 )
- 日時: 2013/01/19 22:04
- 名前: 蒼穹 (ID: QDxiFvML)
——薄暗い闇の様な道を。ただ、ひたすらに走り続ける。
『焔、聴こえるか?今回のターゲットはその先だ』
右耳から聴こえる聞き慣れた声。「あぁ」と短く返事をする。
すっかり手に馴染んでしまった黒の鉛をチラリと見る。
扉一つ隔てた向こうには今回の任務のターゲットが居る。
細かく震える手に力を込め、鉛を握り締める。
震えが伝わらぬように意を決して右耳の小型マイクに呟く。
「…コードNo.6焔。任務を開始する」
——勢いよく始まりの扉をぶち破った。
☆☆☆☆☆☆続く☆☆☆☆☆☆
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.10 )
- 日時: 2013/01/19 22:10
- 名前: 蒼穹 (ID: 271PzwQK)
早速上げました!
短いですが…
一ついい忘れてまして、この話は裏side表sideで書きます。
なので話がぶっ飛ぶ可能性が高いですww
あと、文字のスペースがおかしい(今のスレッドの様に)時は大抵携帯からの更新をしています
そこをご理解の上お願いします!
それでは。また明日も更新したいと思います!
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.11 )
- 日時: 2013/01/21 22:00
- 名前: 蒼穹 (ID: hDVRZYXV)
(表Side)
——カラン、コロン。
来客を告げるベルが軽やかに鳴る。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
燕尾服とは少し違う、ウェイターの服。——一般的には執事服と呼ばれる衣装を身にまとった青年が柔かい口調でそう言った。
顔を上げた際に、後ろで一つに結った黒髪がゆれる。
その一つ一つの仕草の完成度の高さに思わず見とれてしまう何かがあった。
「・・さぁ、どうぞこちらへ。本日は天気がよいのでテラスへ」
慣れた手つきでいつもの様に客を招く。
これが。
——これが、彼の“表の顔”の一日の始まりなのである。
「・・・はぁ、」
思わずため息がこぼれる。辺りを見回してもここは厨房だ。運のいいことに誰も居ない。
“表の顔”である執事は疲れる。だけど、けして客の前ではボロを出すわけにはいかない。
『あくまでも』。客の前では“万能(オールマイティー)な執事”でいなければならない。
『表』の仕事にも『裏』の仕事にも私情を挟まないのがルールというものだ。
「さて・・、注文のメニューを作らないと」
先程注文を受けたカフェオリジナルのケーキセット作りに取り掛かろうと、腕まくりをする。
「いやぁ、君は本当に仕事熱心だねぇ。関心関心♪」
少しチャラけた声。振り向かなくても声の主はすぐに分かった。
「・・斑、貴方も少しは働いてくださいよ・・・」
斑、と呼ばれた青年は白銀の髪を後ろで高く一つに、つまりポニーテールでまとめていた。
「ん〜、分かってるよ〜」
そうは言うもののまったくそこから動く気配がない。
「そこは、従業員が通ります、邪魔です。どいてください」
「焔君きびし〜い」
「君付けで呼ばないでください、キモいです」
「あはは、ごめんごめん」
「・・・はぁ」
いつまでもこんなやり取りをしていては注文の品ができないと悟った黒髪の青年、焔は小さく一つため息をついた。
「——大変お待たせいたしました。本日のケーキセットでございます」
コトン、と。テーブルの上に置かれたのは、色とりどりの宝石のような輝きを持つフルーツがちりばめられたタルト。
それにあわせて置かれたのは、ケーキに合う様に選び抜かれた紅茶。
「ありがとう、おいしそうね」と笑顔で言われれば、「ありがとうございます」と営業用の笑顔を浮かべ答える。
こうしてお礼を言われるのは嫌いではない、寧ろ好きなほうだ。
だからこそかもしれない。こうした『表』の仕事が続けられるのは。
『裏』で味わう“非日常”をかき消すような平穏な時間(とき)だから。
「——いってらっしゃいませ、お嬢様」
パタン。最後のドアの閉まる音がした。ふぅ、と軽く息を吐けば表の顔の時間が終わりを告げる。
「・・今日も、終わったね。故、後片付けしにいこ?」
一人のメイド、藍髪がトレードマークの少女—導が横にいた濃い緑の髪の青年、故にそう話しかける。
「うん、わかった。」
故は二つ返事でそう頷いて導と共に厨房に消えていった。
「・・ねぇ、あの二人って仲良いよね!」
「・・・そうだね、さ。僕たちも片付けやろう?薊」
双子の姉弟、薊と字も後片付けへと向かう。
——かくして。今日も表の仕事は終わりを告げる。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.12 )
- 日時: 2013/01/20 17:19
- 名前: リンリィ (ID: APpkXS4D)
お久しぶりです〜★
あっ、ここでははじめましてですね!!
蒼穹さんの新作と聞いてやってきました〜★
面白いですね!!更新頑張ってください!!
でわこれで★
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.13 )
- 日時: 2013/01/21 08:19
- 名前: 蒼穹 (ID: 0M.9FvYj)
あ、こんにちわヽ(・∀・)ノ
…ここでは初めましてかなww
わざわざ閲覧ありがとうございます!
更新はなるべく小まめにやりますね〜
それでわ!
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.14 )
- 日時: 2013/01/21 21:48
- 名前: 蒼穹 (ID: hDVRZYXV)
時間があるので更新を・・♪
##########################################
(裏Side)
「えー、皆。今日も一日“表”の仕事ご苦労様」
・・いつもやっているのに。もう何年やっていると思っているのだ、と焔は思う。
目の前の男——先程の“表”の世界では店の主人(オーナー)を。
そして、もう一つの——否、本当の顔。裏組織『斑鳩』の創立者兼総司令官の斑を見据える。
白銀の髪に金の瞳というなんとも変わった出で立ち。
それに劣らぬ冷静かつ確かな指示。普段のふざけた彼からは程遠いしっかりとし、ぶれる事を知らぬ芯。
想像もつかない彼のギャップに何度驚かされたことか。
「うん、じゃあそーゆーことで!本日は解散!!」
少しチャラついたいつもの声が聞こえ、ふっと我に返る。
周りを見れば仲間たちはもう居なく、焔一人が残っていた。
「何か考え事?僕でよければ相談に乗るよ〜。・・て言うか焔」
いきなり目の前に立ったかと思えば彼はそう口を開いて、金の瞳を細く歪ませた。
いつもふざけて『君付け』だったので、いくら裏の時間とはいえ任務以外で君無しで呼ばれることは少なかった為、多少たじろぐ。
「僕の話、聞いてなかったでしょ?駄目だよ、頭(リーダー)の話はちゃんと聞かないと」
そう言って、俺の頭を軽く小突く。・・・地味に痛い。
「・・・悪かったですね」
口から出たのはそんな言葉。斑は一瞬きょとんとしていたが、すぐに元の笑顔に戻る。
「君って、本当に面白いよね。なんていうか・・、ねぇ?」
「・・・はぁ、」
「出会った頃は毎日毎日、『復讐』だの『仇』だの言ってたのにね・・」
過去を思い出すように、しみじみと語る斑を見て焔はため息を一つこぼす。
「それ、いつの話ですか・・・」
「出会った頃の話だよん」
「・・・・・・・・・」
彼は。焔は、僕の一言で黙り込んでしまった。・・まぁ、彼は元々そんなに口数の多い方ではないからいつもの事なんだけど。
・・さっき僕の言ったことは本当。ついでに言うと、当人である焔もこの事は嫌と言うほど知っている。
でも。僕から見て、彼は随分と大人になったし、丸くなった。
きっと昔の彼が見たら驚くくらいに、ね。
あの日の彼は、変わりゆく世界に於いていかれた哀れな道化。
——その姿がいつかの自分と重なって。
だからかもしれないけれど。どうしても放っておけなくて。
救ってあげたくて。僕と同じ存在は必要ないから。
だから僕は手を差し伸べたんだ。『 』と。
道を選んだのは焔、彼自身。僕はそこに一つ選択肢と言う名の道を作ってあげただけ。
自ら“非日常”へと足を踏み入れた彼は昔の悲しき道化———僕にそっくりなんだ。
・・悲しいくらいに。彼の明日(みらい)が予想できてしまいそうで。
「・・今日は、こっちの仕事は無い。ゆっくりおやすみ」
だから、過去から抜け出せない僕は。
彼が僕と同じ過ちを犯してしまわぬように。
手を貸すことは約束(ルール)に背くことになってしまうから。
ただ、手を差し伸べて待ち続けるんだ。
———哀れな道化がこの手をとってくれることを。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.15 )
- 日時: 2013/01/21 21:59
- 名前: 蒼穹 (ID: hDVRZYXV)
うぅ・・・・
どうも、蒼穹でございます。
今、さっき更新したコレ↑ を読んだのですが・・・
意味がわからない! Σ(´ω┃壁
なにがどうなってこうなってしまったんだ・・!!?
何だか、最後が斑の独白になっとる・・orz
・・・まぁ、大丈夫!
何とかなります、きっと!!←
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.16 )
- 日時: 2013/01/27 19:29
- 名前: 蒼穹 (ID: bn3dqvGS)
こんにちわ。蒼穹でございます。
更新したい!
でも、最近レポートやらなんやらで・・・・
本当は今日更新する予定だったんですが・・・
訳ありで出来ません(><)
なので、今週のどこかで更新したいと思います。
では、その時に会いましょう〜
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.17 )
- 日時: 2013/02/05 08:28
- 名前: 蒼穹 (ID: hH3N1CbI)
学校にての更新ですww
小説の方ですが、何とか今週中にあげられそうです!
…でわ。また更新の時に会いましょう!
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.18 )
- 日時: 2013/02/12 00:25
- 名前: 蒼穹 (ID: PR3Fak4z)
更新したいと思います!
今回は、表Sideが長いので、二回に分けて書きます♪
※
———[CLOSE]
そう書かれた可愛らしいアンティーク風の札がくるりと反転させられる。現れたのは[OPEN]の文字。
札を反転させた藍髪の少女、導は満足そうに微笑む。
「導、準備はできた?」
斜め後ろから聞こえてきた少しぽやんとした声。振り向かなくても分かる。
導は「うん、」と言って、声の主を振り向く。
そこに居たのは濃い緑の髪の青年で、導のパートナーでもある故。
今は表の時間だから、しっかりと執事服に身を包んでいる。遠くから見れば、それは完璧な執事そのものだ。
しかし、少し長い髪をポニーテールのように結んでいるが、縛る高さが高いためか、子犬の尾のようだ。
ヘアピンで軽く留められた前髪も、よく見ると少しはねている。
「・・?何か面白いことでもあった?」
目の前で首をかしげる。その姿はまるで大型犬のようで。
思わず、また笑ってしまう。
「・・・ううん。なんでもないよ」
「そう?ならいいんだけど」
そういう彼の手には沢山の色とりどりの花があった。たぶん、店内に飾るものだろう。
「そろそろ、中に戻る?」
「そうだね。・・あ、でも少しだけ待って」
「・・・・・?」
急に暗くなる視界。思わず目をぎゅっと閉じる。
「・・うん、やっぱり」
故の声にゆっくりと目を開けると。そこには、いつものようにニコニコと笑う故の姿。
ふいに、故の手が導の藍色の髪に触れる。そこにあったのは一輪の花。
「故、この花は・・?」
「さっき、お店の花摘んでるときに見つけた。」
ニコニコと笑いながらそう言う故。それでも、導の髪についている花をいじる右手は動いている。
「導に、似合うと思って」
「え・・・」
とんだ爆弾発言。いつもはポーカーフェイスを貫いている彼女も、故のぶっ飛んだ発言には勝てない。
かーっと、顔に熱が集まっていくのが自分でも分かった。きっと今の自分は真っ赤に違いない、と。
「・・?導、なんだか顔が赤いけど・・・。熱でもあるの?」
そんなことはまったくと言っていいほど知らない故は。
真っ赤になって固まっている少女の頬に己の手でそっと触れる。
「———っ!!?」
それが、あまりにも自然な動きで。
見てる分には気恥ずかしいですむものだが、あくまで今されているのは自分自身。気恥ずかしいどころではない。
「・・・ん。どうやら、熱は無いみたいだね。よかった」
スッと頬から手を離していつもとは少し違う、柔らかな笑みを浮かべた。
「そろそろ開店だから中に戻ろうか」
「・・・ちょっと風に当たってくる」
故の返事を聞かずに、ずんずんと店の裏口の方へと歩いていく。
誰も居ない裏口へたどり着けば、心地よい風が赤く染まった頬を優しく撫でた。
「・・・・バカ。」
そう呟いた声は、本人には届かず。
彼女の頬を撫でた風だけが聞いていた。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.19 )
- 日時: 2013/02/16 19:59
- 名前: 蒼穹 (ID: Z3U646dh)
はい、後半戦いっきまーす
※
———パタパタ、と。小さな足音が遠ざかっていく。
「行っちゃった・・・」
足音の主、導は俺の言葉も聞かずに裏口の方へと走って行ってしまった。
彼女の藍色の髪とともに揺れる小さな一輪の花。
偶然見つけたもの。
一目見た瞬間、脳裏に彼女の姿が浮かんだ。
本来、店に飾るには小さすぎて目立つことの無い花だけど。
そんな花が今はとても目立っていて、思わず俺はその花に手を伸ばしていた。
『うん、やっぱり』
「とっても可愛い」という言の葉は空気に溶け込み、音にはならなかった。
そっと手を伸ばした時、きゅっと瞑った表情に思わず見とれた。
ゆるゆると開かれ、重なった視線。少しだけど、頬が熱くなったのが分かる。
『故、この花は・・?』
俺と導はこう見えてけっこうな身長の差がある。だから、下から覗くように聞かれた。
それは、ごく当たり前のことで、いつものことなのに。
そんな少しの仕草にドキドキしてる自分自身が居て。
『さっき、お店の花摘んでるときに見つけた』
『導に、似合うと思って』
つい、ぽろりと。心にとどめておいたはずの本音がこぼれる。
なんとか取り繕うと導のほうを向けば。
さきほどよりも赤くなった彼女の顔が映って。
照れ隠し、なんて言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど。
『そろそろ開店だから中に戻ろうか』
少し上ずった声でそう言えば、彼女は「風に当たってくる」の一言。
その小さな後姿に声をかけたけど、彼女はそのまま行ってしまった。
・・でも、今回ばかりはそれでも良かったと思う。
俺は、店に飾る花を片手に持ったまま。
赤く染まった顔を隠すかのように手で覆った。
——こんな姿、彼女に見られたくないものだからね。
そう心に言い訳をして。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.20 )
- 日時: 2013/02/12 00:50
- 名前: 蒼穹 (ID: PR3Fak4z)
へいふー!!(壊れた
やっとこさ終わりました!ええ、終わりましたとも!
書きたかったのに、恥ずかしくて書けなかったこの回・・・
でも、更新しました!
今回のこの表Sideは前半が導&ナレーター?視点で、後半が故視点の話になってます♪
次回はまた裏Sideでお送りします〜
本日はもうこんな時間なので、さっさと寝ます←
それでわ。次回の更新にて会いましょう!
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.21 )
- 日時: 2013/03/03 20:10
- 名前: 蒼穹 (ID: m1N/dDQG)
大変しばらく更新をしておりませんでした・・・
テストも終わったので、そろそろ更新を再開したいと思います!
次回のスレッドで更新をしますー
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.22 )
- 日時: 2013/03/03 21:44
- 名前: 蒼穹 (ID: m1N/dDQG)
(裏Side)
チカチカと、暗闇に灯る光が点滅する。
ひらり、蛾が一匹、その場を舞う。
周りは面白いくらい程静かだ。お陰様で己の呼吸音がより聞こえる。
「現在、午前0時過ぎか・・・・」
胸ポケットに忍ばせておいた懐中時計を一見して、パタリと閉じた。
「・・さて、そろそろ始めるとしますか———!」
片手に握られた相棒が鈍く光った。
「・・・あっけないなぁ、人の命って」
くるくると鍵のついた紐を指で回しながら俺はそう吐き捨てるように言った。
目の前に転がるはほんの少し前まで動いていたもの。
ちらりとそいつ等に目を向けた後、呟く。
「・・でも、こいつ等は人であって人じゃねぇか・・・」
そう。俺が相棒で打ち抜いたのは人であって人でないもの。
俗に、俺たちの間で〝 ”と呼ばれる異形なモノ。
足元に散らばる朱や塊を避けながら目的である箱の前まで歩み寄る。
「ここに来たのは、 の情報集め」
俺は、静かにその箱にかかっている鍵を開けた。
「やっぱり、な。そう簡単にはデータが流出しないような仕組みになってるか」
一つ短くため息をつき、画面を見つめる。そこには「Error」の文字。
「(多分このパスワードを知っているのは極一部の人間のみ・・)」
手に握られているのは一枚のカードキー。いわゆる、マスターキーと呼ばれるもの。
「(これで解除できなかったら、流石の俺でもお手上げだぞ・・)」
そう思いながら、カードをパソコン内のデータに取り込む。
「アップデート率43%・・・」
椅子に腰かけ、頬杖をついて画面を見る。
———アップデート率、88%
ピピッと小さな音が鳴る。うとうとしていた意識が戻ってくる。
画面を見れば、「アップデート完了」の文字。
表れたファイルをクリックする。
「これって・・・」
開かれたファイルの中身をみて、思わず俺は絶句した。
We complete they call is "PARANOIA".
We name is Raven. World for this name reverberate.
——Whole for one wish.
『 我々は、完成した彼らを〝パラノイア”と呼ぼう。
我等が名は鴉。世界の為に、この名を轟かす。
———全ては、一つの願いの為に。 』
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.23 )
- 日時: 2013/03/03 22:57
- 名前: 蒼穹 (ID: m1N/dDQG)
まだ続きます↓
机の上に置いてあった携帯が震える。
書きかけの書類から一度目を外し、ディスプレイに表示された名前を見た。
「——珍しい、な」
思わずそう呟く。表示された名前は「炎」。通話の為に画面を一度タッチする。
「・・・もしもし」
久しぶりに電話越しだからか。少しカタイ声になった。
『もしもし、斑?久しぶりだな』
携帯を通じて聞こえてきた声は、前に聞いた時と変化がない。思わずクスリと笑ってしまう。
「・・・炎こそ、こんな時間に一体どうしたんだ?お前らしくない」
——慣れ親しんだ仲だからか。つい、〝昔”の自分で話してしまう。
手に収まる小さな電子機器から『悪かったな』と少し拗ねた様な声が聞こえた。
「悪い、悪い。・・用件があって電話、してきたんだろ?」
声のトーンを低くした。すぐに『あぁ』と短い返事が聞こえ、すぐに俺は〝仕事”へと頭を切り替える。
「それで?今回はどんな情報が?」
ゆっくりと椅子に腰かけながらも、意識は会話の中。
『 』
知らされた事実に、〝俺”は静かに耳を傾けた。
ただ、それだけしかできない。今の俺には。
静かな静寂の中。異様なほど自分の声が透き通って聞こえた。
「——そうか、わかった。・・さすがはTSAのトップだ。」
『褒めていただき光栄だ。だけどそれ程でもないだろ?』
電話の向こうでかすかに笑い声が聞こえる。
「・・炎、何かあったか?」
『え、特に何もなかったよ』
少し不自然な返し。俺は眉を顰めた。
「嘘だ、お前がそうやって隠す時は何かあった時だ」
『・・・・。何でお前にはバレるんだろうな』
少しの間の末、炎が口を開いた。
『今から言う事は、全て紛れもなく真実だ』
「わかった。わざわざ言いづらい事を言わせてすまない」
『確かに言いづらかったけど、相手がお前だから』
「どういう意味だ」と軽く笑いを含めて言ったら、『それほど信頼出来る相手って意味』と返された。
『・・じゃ、そろそろ切るな。まだ任務の途中なんで』
「せいぜい、死なない程度に頑張れよ」
もう一度、電話の向こうで小さな笑い声がして『せいぜい死なない程度に頑張るよ』と聞こえ、通話が切れた。
通話の切れた携帯をそっと机上におき、椅子に深く体を預けるようにもたれる。
ふと外を見れば少し白く霞んでいて。
「もう、そんな時間なんだな・・・」
時計の針は午前4時を指していて。
「中々・・厄介なことになったな・・・」
段々と薄れていく意識。多分、このまま寝たら焔とかに怒られそうだけども。
「大丈夫、少しの間の仮眠だから・・・」
そうして、俺は意識を手放した。
朝、いつものように誰かが起こしに来るまでの僅かな時に身を委ねて。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.24 )
- 日時: 2013/04/23 21:24
- 名前: 蒼穹 (ID: Ji63CujB)
(表Side)
「・・・あ」
小さな声が厨房に伝わる。
「どうした、怪我でもしたか?」
その声に、いち早く気づいた茶髪の少年——彪が駆け寄る。
「ううん。コーヒーの豆、切らしちゃって・・」
声をあげた少女、甍が手に持つのは普段コーヒー豆が入っているビン。
現在その中は空っぽになっており、ほのかにコーヒーの香りがするだけである。
「あぁ、本当だ。確かこれって、一番人気の豆だよな?」
彪の言葉に一度小さく頷く。
「私、買出しにいってくるよ」
そう言うが否や。厨房の奥の部屋に引っ込んだと思ったら、ものの数分で外出用の姿で出てきた。
その手には小さいとは言いがたいが、やや小ぶりのカバン。
お世辞にも可愛いとは言えない変なマスコットキャラのキーホルダーがぶら下っている。
「あ、甍。もしかして今から買出しに行く?ならさ、これもお願いできるかな?」
・・一体何処から現れたのか。ズイッと一枚のメモを突き出して、そう言ったのは白髪の青年。
楽しそうにニコニコと細められた双眸からは金の瞳が覗く。
「・・店長ぉ?こーんなか弱い女の子にこんだけの物を買ってこいと?」
白髪の青年・・もとい、店長である斑につき返された一枚のメモ。
そこには、本来の紙の色が分からなくなるほど品物の名前がびっちりと書いてあった。
「・・うわぁ・・・」
思わずそう口から出てしまうほどにびっちりと。
「誰も一人で行けなんて言ってないでしょ。・・ほら、隣に暇そうなのが居るじゃないか」
スッと一指し指が宙を移動し、ピタリと止まる。指の先は——俺。
「わぁ、彪が荷物持ちになってくれるの?」
「いや、まだそうと決まった訳じゃ・・」
「いいじゃないか、折角だし。二人で買出しお願いね〜」
少し遠くで声が聞こえたと思って、顔をそちらに向ければ店長は厨房の入り口に居た。・・いつの間に?
「拒否権は・・ない、のか」
「さ、行こっ!」
俺の隣で楽しそうにキラキラ笑う少女を見て、思わず苦笑が漏れる。
「・・嫌な予感がするけどなぁ・・・」
ポツリと呟く。
——昔から、俺の予感はよく当たるのだ。
- Re: CRAZY REQUIEM ( No.25 )
- 日時: 2013/04/23 21:58
- 名前: 蒼穹 (ID: Ji63CujB)
(裏Side)
「———————・・・」
そっと、鏡の中に映る自分に触れる。
分かってはいたが、生身の己とは違って鏡中の自分はヒヤリと冷たい。
「こんな所で何してるの、字」
聞きなれた、というか自分と変わらない声。振り返らずとも声の主は目の前の鏡に映し出される。
「———斑さんに呼ばれて。」
一言そう言えば、納得がいったようで、双子の姉——薊は字、つまり自分の横に立った。
「・・少し、考えたことがあるんだ」
ポツリと静かにそう呟く。いつもはお喋りな姉もこういうのはきちんと聞いてくれる。
その証拠に、特に何かを話すわけでもなく。
ただ、字自身が語りだすのを待つように目を閉じて黙っている。
「僕たちは、このままでいいのかなって。」
「・・・・・・」
「薊だって覚えてるでしょ、6年前のこと」
「覚えてない、とは言わないわ」
自分と同じ茶の瞳が静かに鏡越しに字の瞳に映る。
「6年前、私たちは助けられた。・・ただ、それだけよ」
淡々と薊の口から出る言葉。
無言の圧力、とはこういうのを言うのではないだろうか。
喉まで出掛った言葉を呑み、思わず口をつぐむ。
「・・でも、このままじゃ終われないんだ」
自信なさ気にそう呟いたが、薊は腕を組んで目を閉じたまま何も言わなかった。
———嫌なほど、時計の秒針の音が耳に響いた。
———体が重い。まるで、鉛を飲み込んだみたいに。
ぐにゃぐにゃと視界が歪んで。
思わず倒れそうになる自身を支えるべく、椅子に片手をつく。
椅子に片手をついて肩で息をすれば、幾分かは楽になって。
まだ霞む目を彷徨わせながら、黒色のポケットサイズのケースを手に取り、中身を取り出す。
——あぁ、まただ。
この症状はいつからだったのか。正直、よく分からない。
しかし、“あの日”から月日が経つにつれてどんどん悪化している気がした。
「頭が重いなぁ・・。一気に服用し過ぎたかなぁ」
少し自嘲気味に笑えば、カラカラと渇いた喉が鳴る。実に不愉快だ。
机上に散らばる“薬”の残骸を見れば、無機質なそれはいつもに益して毒々しく見えた。
「もう“あの日”から何年も経つのになぁ・・・」
人前ではけして見せない弱音を吐き、そのまま崩れ落ちるように椅子に深く腰掛ければ、急な睡魔が襲ってきて。
——そのまま眠りに堕ちた。
ストン、と主人の手から滑り落ちた『ソレ』は明るくディスプレイを照らし出す。
『着信: 炎 』
と。