ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Magicians' War ( No.1 )
日時: 2012/03/10 14:55
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)
参照: 登場人物がいきなり十二人……多くてすいません

 戦乱の世、この時代を一言で形容しろと言うならばそれが最も正しいだろう。情勢はどうか、そのように問われたのだとしたら、魔法使い達の率いる『学院』と呼ばれる建物を中心として広がるジェスターという国、そして使者率いるグランデンバイナという名の地を首都に持つノロジーという二つの国の力が拮抗していた、そのように答えるしかない。少なくともこの時点では。
 この時点ではという今の口ぶりから察せられるとおりに、四月九日、その日からこの戦争は終焉へと向けて一気に駆け抜けることとなる。戦争の終結するおおよそ一か月前、その瞬間に物語は動き始める。
 魔法使いとは自分の意のままに魔法を従える者、使者とは自分の思った通りにモンスター達を操ることが出来る者。両者の力は前述の通り、互角。どちらが勝っても可笑しくは無い。さて、一体どちらの国が勝利をその手に収めることができるのだろうか?


 それを今から、記していこうと思う。



                       ◆◇◆第一の依頼・ドラゴン一体の討伐◆◇◆





 その教室の中はガヤガヤと、それは大層賑わっていた。たった十人しか生徒がいないと言うのに、その人数の二倍程度はいるのではないかとも思うぐらいに。中を見渡すと、構成員は男子五人女子五人、それぞれの数は同じのようだ。
 彼らが騒いでいる時に、ふとその声は一瞬で静まった。理由は簡単であり、足音が聞えて来たからだ。コツコツと、硬い床を靴で踏み鳴らす音が、小さくて聞き取りづらいが確かに耳に入った。誰が発したのか、「先生来そう」という一言だけで、呼吸の音すら鎮めて、完全な沈黙が生まれた。音が無くなってからはその足音も聞きとりやすくなり、やはりお出ましだと皆が納得した。
 今日は仕事があるのか、いつもと同様に仕事の無い一日なのかそれとも珍しく仕事のある一日なのか皆は考え始める。このところ一切依頼も作戦も入ってこない。それならば今日辺りにそろそろ来ても変ではない。もしもあった場合に対応するために各々は心の準備を始めた。
 ただし、次の瞬間に一人の少年が首を傾げた。何だか、不都合があるという訳ではないのだが、よく分からなさそうな表情だ。自分にとって予想外の出来事が起こったらしい。本来は誰にとっても予想外なのだがそれを初めに察したのが彼だっただけ、その妙な事を彼が言った途端に教室中の空気が一変した。

「なあフミツキ……足音、二つ聞こえないか?」
「足音が……二つ? 果たしてそうであろうか……」

 ただ一人その異変に気付いた男子は隣に座る男に聞いてみた。流すようにして読んでいた本に栞を挟みながらフミツキと呼ばれた青年は答え、耳を澄ました。そう言われてみると、いつもの足音に隠れて小さな足音が反響しているようだ。

「確かにそうだな……一体誰だろうか?」
「転入生とかじゃなーいのー?」
「ウヅキ……少し声が大きい」

 会話をしている二人を見て、真後ろの座席からもう一人の青年が話に加わってきた。ちょっと声量が大きいと、最初にフミツキに質問をした男子は乱入してきたもう一人の男子をたしなめた。

「ああ、ごめんごめん。にしても変だよね。僕たちに用があるのは依頼者と先生ぐらいでー、シワス先生以外はみーんな、今はホームルームだもんねー」
「ハッ、だったらあんたの言う転入生ってのもあながち間違っちゃいないんじゃないのぉ?」

 次に話に割り込んできたのは少し離れた座席に座る女子。口調などから察するに、男勝りな性格のようで腕組みをして鋭い目で睨むように三人の方を見ている。

「しかしながら、このクラスに転入する者などいるのでしょうか?」
「いない……そう言いたいところだが、断言はできないな」
「ナガツキの言う通り、どーせ今ははっきり分かんないんだし、到着を待とうじゃなーいの?」

 ナガツキ、それが最初に口を開いた彼の名前だ。彼らの所属するこのクラスは特殊なクラス故、転入してくるなどという事は滅多にありえない。それこそ、一パーセントも無いだろう。
 このクラスは戦争に直接赴く他のクラスとは、役割が全く異なっている。どのような仕事を負っているかと聞かれると、簡単に説明すると治安維持だ。学園内の治安を維持し、内部を円滑にした状態で外部を攻略するための組織。具体的な任務を上げると、自分たちにできる事ならば生徒の頼みごとを聞いたり、密偵を探りだしたり、喧嘩の仲裁、無法者への体罰などがあげられる。
 ウヅキの間の抜けた声でその部屋の中はまたしても静寂に包まれた。コンコンと、ドアを叩くような音がする。これはシワスが教室の前に到着した合図だ。ギィっ……と、木の軋む音がしてゆっくりと扉が開く。案の定そこには二人の人間がいた。片方は五十代には少なくとも行っているだろう白髪混じりの大人の男、もう一人は今まで見た中で最も綺麗なのではないかとも、言いたくなるような女子だった。
 皆がその綺麗さに息を呑んだ。男子女子関係無くに、だ。迂闊に言葉で言い表すことができない、彼らの感じた第一印象はそれだ。まあ、恥も誤解も恐れずに言うのならば、絶世の美女。
 他の者がそのように呆然とする中、ただ一人ナガツキだけは、言いようにならない既視感<デジャヴュ>を感じていた。