ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Magicians' War ( No.14 )
日時: 2012/01/17 20:07
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 7R690UrM)


「ああああああぁぁあぁ! 面倒くせぇっ! 何で潜入するだけにこんな面倒なんだよこの国は!」
「仕方ないでしょう、この国の特徴は攻撃よりも防御。兵器よりもセキュリティを万全にします」

 数人のノロジー兵士がなぜか自陣に入ることを潜入と言いだした。上から許可を下ろされて入れさせてもらえたのに、なぜ『潜入』などという言葉を使ったのか、その理由はただ一つ。この者たちは本当はこの国の兵士などではない。潜入と言うからには敵国の人間であるに決まっているのだ。つまりはジェスター側の人間ということになる。
 面倒くさいと大声で叫んだ女に抑制の意味を込めて解説を入れた男は指を鳴らした。パチンという軽快な音に続いてその通路にいる数人の周りから光の粉が飛び散った。キラキラと七色に光り輝く鱗粉のようにさらさらと地に舞い降りる。その中に包まれていたのはジェスターの中枢部、学園の制服をその身に纏ったclass/seasonの十一人の構成員。

「いや、そんな事は確かに知ってっけどよ……まあいいやアタシの仕事はこれからだし」

 ノロジーが防御の国だとは彼女も常識として頭の中に入れている。だが、知識として持っているのと実際に目の当たりにするのとでは話がまるで違う。今までは他人事で済んでいた事を本気に受け止めないといけないのだ。
 ここまで潜入できたのは、イライラしているカンナヅキをなだめたムツキの固有魔法、“ディザイア”の力だ。ディザイアの示す言葉の意味は願望。自分が願い望んだ姿に化けることができる。その効果を、近くにいる者に及ぼすことも。
 学園の教室でディザイアを発動させて自分たちに敵国兵士の姿をコピーペーストし、疑われることなくここまで入ってきたのだ。そして、ここまで来たらこちらのものだ。なぜならこの国は防御の国、異物が入ってこないようにする国なのだ。入ってきた敵にはめっぽう弱い。
 この辺りがジェスターとは正反対だ。ジェスターは異物が入り込んでもすぐさま撃滅する体制を取っている。
 だが実際はジェスターとノロジー、それぞれの国の長所短所のせいなのだ。魔法技術は科学技術に比べて戦略的な事には使いづらいが、戦闘に関しては魔法使いは使者を基本的に圧倒する。

「さあて、作戦開始といきますか。んじゃあ皆、私の“テレフォン”でつなぐからな。絶対ばれないようにしろよ。警報装置を押される前に制圧しろ」
「分かった。警報装置があるのは確か……」
「ナガツキ覚えてないの? 私は分かるよ。警報装置があるのは給湯室!」
「補給物資管理棟制御室の間違いであろう、ハヅキ」

 ぶつぶつと詠唱呪文を唱え始めたカンナヅキに了解だと言ってフミツキの方を見てナガツキは警報装置の場所を思い出そうとした。予知魔法使い、まあ要するに予言者の力でもうすでにその場所は分かっていた。
 思い出せないナガツキを嘲るように自信満々にハヅキは給湯室と断言したが、見当違いだとフミツキに窘められる。がっくりと肩を落としてどうせ残念な子ですよと、いじけ始めた。

「良いからさっさと始めんぞ、目に見えぬ絆我ら繋ぎ給う! 固有魔法“テレフォン”!」

 一旦詠唱を止めて、カンナヅキはハヅキに黙れと指示する。集中を見だされた時の彼女はかなりの剣幕で、今度はふてくされることもなくハヅキは怯えっぱなしで黙り込んだ。
 固有魔法“テレフォン”、それはカンナヅキが指名した者たちを繋ぐ意思伝達方法。日用の道具で例を出すとすれば電話、口にした事が全て他のみんなに伝わる。心の中で考えるだけでは伝わらないが。
 テレフォンの基本原理は聴覚の共有。よって自分の聞えた中身は誰の声であろうと、バックグラウンドミュージックだとしても他の皆に送信される。今回聴覚をリンクさせたのは十一人全員だ。人数が多ければ雑多な音が混ざり過ぎるのでできるだけ三人組などで行動する。

「じゃあ、ムツキとシモツキは私と行きましょう」

 キサラギがすぐ両隣りに立っていた、それだけの理由でその二人を指名する。シモツキは頷き、ムツキは分かりましたと口頭で告げた後に駆け出した。
 トントンと、ミナヅキはハヅキの肩を叩いた。その意味をすぐに受け取ったハヅキは一人、チーム内のブレインとなる人員用にフミツキを連れて行った。カンナヅキは一番この中で実力に太鼓判を押せるナガツキを引きずっていった。
 残されたウヅキとヤヨイとサツキは、じゃあこれで動くことにしようと落ちついた。他の集団は我先にと上に向かったのでこの三人は今いる階層の探索を始めた。
 ふと、耳元から爆発音が聞こえた。続く悲鳴は聞いたことのない声、おそらく襲撃は成功しているようだ。だとするとこの爆発音はフミツキの放った魔法、“ファイボ”だろう。
 この世界の魔法の名は単調的に付けられていて、まず、光と闇は基本的に自分で名前を好きに付けられるが、炎などのその他の属性は既存のもの以外は中々作れない。
 魔法の名前、それは風ならば“トルネ”炎ならば“ファイ”、水ならば“アクア”氷ならば“フリー”雷ならば“エレキ”と付き、魔法の属性を決定した後に魔法の形状を決める。竜巻ならば螺旋形ということで『ラ』が続き、爆発させるならばボムの頭文字の『ボ』というような具合だ。さっきの爆発音は超強力な炎魔法だろう。よって、炎魔法においては最強を冠するフミツキの中でも威力最高級のボム系魔法という訳だ。

「皆動いてるね、僕たちもそろそろ動こうか」

 魔法はどんなに簡単なものでも最初は詠唱が必要だ。だが、使い慣れてきた魔法はそれが必要でなくなる。普通の人間は魔法の得手不得手は威力で決めるがclass/seasonは違う。得手不得手は詠唱を省けるか省けないかで判断する。彼らが得意魔法を使う時、詠唱すると言うのは強化詠唱という威力の底上げのために詠唱。
 詠唱を破棄出来るのは確かに強いが、威力が若干落ちる。ただしそれは魔力の少ない者だけ、魔力の多いこの集団の威力は尋常ではない。

「さあ行くよ、アクアラ!」

 瞬間現れた空気中の渦潮は、目の前にある鋼鉄のドアをいとも簡単に吹き飛ばした。作戦開始という、いつも通りのおちゃらけたウヅキの声が聞こえてきた。