ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Magicians' War ( No.17 )
日時: 2012/03/09 14:32
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)

 ウヅキの声に被さるようにして、鋼鉄製のドアが破壊される爆音が廊下中に鳴り響いた。もしかしたら気付かれるのではないかと思うほどにけたたましく、重厚な倒壊音。中にいる者たちは当然一様に驚いていた。突然の敵襲など想定外だと目をパチクリさせて、呆気に取られる。その隙を見逃さずにウヅキは次弾の準備をする。
 ウヅキの手掌から相当の熱量のエネルギーが感じ取られる。今度放つのは炎魔法のようで、燃え盛る魔力の大炎は波打つように掌の上で踊り狂っていた。
 額に汗を浮かべそうになる熱の中、ようやくノロジーの軍の者たちであろう男たちは我に帰る。だが、もうすでに時すでに遅し。自分たちの従えるモンスター達を引きつれていないノロジー軍など、魔法も武器も使えないジェスター軍同様に何もできない。素直に殺されるか捕虜になるかの二択だ。
 ただし、捕虜を取るような作戦でもなく、人殺しなどあまり好まないウヅキは息の根を止めるつもりはさらさら無かった。とりあえず情報を奪い取った後は気絶でもさせておけば良いだろうと。

「ファイット!」

 ファイット、その語源は“ファイ”と“ネット”つまりは炎属性の魔力を錬成して丹念に作り上げた網状のものを操作する魔法。できるだけ広範囲に広げて部屋の壁全体に貼りつける。そのままウヅキは中にいる敵国軍を縛り上げるように一気に縄を引き締めて中の奴らを一気に縛り上げた。
 炎属性の繊維状の魔法はジリジリと彼らの衣服を焦がしていく。鼻に付く嫌な臭いの煙を上げて服は次第に済みに近づいていく。これが地肌に触れた時には軽く拷問だ。

「さーってと、熱いと思ったらさっさと機密文書の場所教えてよね。ああ、別にここの要塞で一番偉い人がどこにいるか、それだけで良いよ」

 今にも殺されそうな現状に冷や汗を浮かべてがちがちに強張っている烏合の衆を見ながら、できるだけ緊張を解いてやるための笑みを見せてウヅキは話しかけた。
 だが、その笑いは逆効果に終わる。ウヅキの意図していない方向の意味合いで彼らはその笑みを受け取った。もうお前たちは自分の掌の上だ。すぐに殺すこともできるのだぞという、余裕からの蔑むような嗤いに見えたのだ。そのおかげか、結局彼らは自分から情報を離し始めた。

「こ……この要塞で最も位が高いのは……ドラグニッシュ様だ」
「へえ……例の龍人か。で、どこにいるの?」
「こ、この要塞の最上階だ……基本的にご自分の部屋で待機なさっている」
「で、そこにはどうやって行けるの?」
「ふ、普通に上がっていけば行ける。だが……」

 だが、逆説の言葉で会話を遮って、彼は少し俯いた。まあ、セキュリティを第一にするこの国だ。他所者が入れないような作りにはなっているだろう。

「残念ながら最上階は十階なのに対して八階よりも上に行くにはカードキーが必要だ」
「誰が持ってるのかなー?」
「ぶ、部隊長のカナタ様、リュウヒ様、コクビャク様の三人だ」

 なるほどと頷きながら彼は踵を返した。そして彼らに聞こえないようにぼそぼそと自分に聞こえるようにだけ言葉を発した。

「皆、聞こえた?」

 そう訊いてみるともちろん聞こえているさとカンナヅキが返してきた。ナガツキ達の声も聞こえてくる。どうやら、情報を一つ聞きだすことに成功した。
 よしよしと一人満足げにしながらキサラギとサツキの待っている部屋の外に出る。その瞬間にもうすでに用が済んだので、炎のネットを解除した。瞬時に彼らは自由を取り戻す。
 ウヅキが上の階層に向かおうとした時に、進もうとした反対側の通路から、音を聞きつけて駆けつけた数多の兵士が姿を現した。今度の連中はちゃんと全員自分のパートナーのモンスター達を引きつれていた。
 完全に反対を向いてしまっていたウヅキは完全に反応が遅れた。相手を見る限り、水棲の、つまりは水属性のモンスターばかり。その畜生たちは次々に、口やら腕からやら、多数の水弾や水刃やらを発射してきた。
 完璧に反応が遅れた、一撃貰っても仕方ないと覚悟したウヅキだったが、攻撃を喰らう心配は無かった。目の前にいきなり透明な障壁が現れたのだ。透き通るその障壁はどうみても、水に強い氷属性の強固なバリア。

「フリール」

 フリール、氷属性の、“壁(ウォール)”を発生させる防御魔法。しかしその堅牢さといったら、今まで見てきたものの比では無かった。
 そこに触れた水は衝撃を与えるよりも遥かに速いタイミングで凍てつき、勢いを無くした。水属性なのだから当然だ、氷属性には弱い。

「……凄い。ありがとね、サツキ」

 現状をあっさりと悟ったキサラギはサツキに感謝を述べた。だが、無感情にも彼女はその言葉を無視してじっと前を向いている。
 もうそっちを向かなくても良いのにと思いながらウヅキは先に進むぞと手招きする。だが、それでもサツキは動かない。

「ちょっとー、早く行こうよ。皆においてけぼりになるよ」

 お調子者な口調は相変わらずで、ウヅキは二人を催促する。だが、サツキの目線は向こうに向いている。壁の向こうに……敵のいる方に。

「どうせもうこっちに手は出せないだろうからさっさと行くよ」

 その言葉は、ずっと耳に入っていないかのようにサツキはまだ、目を離そうとしない。一体何をしてやろうと言うのか。別に手を出せない的に攻撃する必要なんてないだろう、そう考えながら、少しずつイラつき始めたウヅキは嫌な予想を立てた。
 立てた瞬間に悟った、サツキが本気だということに。冷気魔力は減っていくどころか、サツキを中心としてまだまだ上昇して行く。

「ちょっと! 別に殺していかなくてもいいだろ!」
「術後展開魔法、フリーズキャノン」

 完全に彼女はウヅキの言葉に対して無視を決め込んでいる。考えている事は邪魔をする敵の殲滅のみ。いや、もしかしたらそれすらも考えていないかもしれない。途端に氷の壁は強すぎる光を上げて煌めいた。
 圧倒的な寒波がその階層を覆い尽くす。防御壁を隔てたこちら側ですら真冬のような寒さが伝わって来ているというのに、向こう側はどうなっているというのか、ウヅキは緊迫した表情で目を見開いた。
 最初、その風景は何事もなかったかのように見えた。だが、あったのだ、何かが。向こう側は誰もが動きを止めている。生命の鼓動が見えてこない。まさかと思って目を凝らす。
 向こう側の景色は、完全に凍てついていた。人も、モンスターも、それらの生命さえも——————。