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Re: Magicians' War ( No.18 )
日時: 2012/01/26 20:56
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: iKemwK0t)


「何……だよ、これ……何がどうやってこんな!」
「落ちついてウヅキ、これぐらいなら私にもできるから」
「落ちついていられるかよ! キサラギは技術的にはできても実際にはできないだろ!」

 目の前の光景、さっきまで自分たちに向かって銃弾を撃とうとし、従えるモンスターでこちら側に攻撃してきた連中の姿は皆凍てついていた。本当に凍っているのか疑いたくなるぐらいに透明な氷の中、彼らは一様に身動き一つ取れずにそこにいた。
 突然訪れた死、そのために彼らの顔に恐怖は微塵も浮かんでおらず、まだ凛々しくも好戦的な表情でいた。横に連れ沿う獣たちもまだ今にも襲いかかって来そうな気迫を残して美しい彫刻としてそこに残っていた。
 その状況に対して、ウヅキは我を忘れるほどに怒り狂っていた。怒りの対象は当然のごとくこれを軽々とやってのけたサツキだ。

「なんでこんな簡単に殺しが出来る!? あいつらは別に殺さなくて良かった。フリールの時点で手は出せなくなっていたはずだ!」
「必要はあったわよ。そうじゃないと無線で私達のこと知らされちゃうもの。自分たちの身を守るためなのよ」
「でも……闇属性魔法で意識を奪っておけば良かっただろ!」

 キサラギは横からこの会話を聞きながらウヅキの方が部が悪いなと思っていた。確かに必要最小限に抑えるべきだろう、殺人などという蛮行は。しかしだ、サツキの言う通り今彼らを始末していなかったら絶対に自分たちの存在は露見していた。それ以前に一瞬気を抜いたせいでサツキに助けられた彼に、元より言う資格はない。
 つまりは、サツキの対応は当然としか言いようが無く、人殺しなんてしたくないという甘ったれた根性を戦場で抱えるウヅキの方が異端だと言う訳で、論争になるとウヅキは圧倒的劣勢に立つ。

「残念ね、フリールが邪魔で無理だったのよ。生憎急いで作ったからそれなりに強靭にできあがっちゃって」
「だからと言って術後展開魔法だなんて……」

 術後展開魔法、それは特定の魔法の直後に発動できる度を越えて強力な魔法。“ル”系統、つまりは防御壁系の魔法の後には“キャノン”系統と呼ばれるレーザー状の一撃を放てる。その他にも多彩な種類があるが、どれもこれも威力は凄まじいものだ。

「へえ、あなたもしかして人殺し嫌いなんだ?」
「当然だろ、人の命なんていくら取っても嫌な気分にしかならない!」
「人の……ねえ……」
「何が言いたいんだ!」

 何を言われようとも何を言おうとも、サツキの表情は依然変化なし、無表情で無感情、見ていて恐ろしくも思えてくる。このように淡々と、息をするのと全く同じ表情で殺人なんて犯したのかと思うと涙も枯れ果てそうなほどに流れ出そうだ。
 冗談じゃない、ふざけるな、と高まって行くウヅキの怒りのボルテージとは対照的に、彼女の態度はやはり冷淡なまま。何かを含むように呟いたサツキにウヅキは食ってかかった。

「だってそうでしょう? 昨日あなたはキシリアさんからの依頼にはあまり嫌な顔をしなかった。それ以前に楽しげだったわよね?」
「悪いのか! 人の役に立てる、そう思っただけだろう!? 久々の依頼だったんだしな!」
「だからあなた、人人ヒトヒト人人ヒトヒト…………おこがましいわね」
「だ……から……何が言いたいんだ!」
「私が言いたいのは、人だから殺せない。人のためなら獣は殺せる、それが差別だってことよ」
「偽善者みたいなこと言ってんじゃない!」

 やれやれと、サツキは首を振った。その顔に悲しげな表情は浮かんでおらず。やはり普段通りだ。偽善者、今彼は確かにそう言った。きっと人間も生き物も命は平等という意見が偽善者だと言いたいのだろうか。だがそれも、サツキの前では屁理屈同然だった。

「世のため人のためと謳って、中身の無い正義を振りかざすことと比べると、よっぽど賢者に近いと思うけど」
「ふざけ……!! てめえっ……!」
「あら、あなたも私と闘い合う気なの?」
「ストップ、止めなさい」

 ヒートアップして行く論争はいつしか命をかけた下らない殺戮に代わりそうだと判断したキサラギはようやく口を挟んだ。その眼光には強い光がある。この状態の彼女の意思が折れることは中々無い。

「ウヅキ……そろそろ納得しなさい。あなたが間違っているのはどう考えても明らかなのよ」
「でもキサラギ!」
「“ホープ”……かけるわよ」
「………………悪かった」

 それこそ歯が軋みそうなほどに歯ぎしりをする音がウヅキの口の中から聞こえてきた。それをさておき、今度はサツキの方に視線を向ける。

「そこ、内輪もめに持ち込まない。最後に言った言の葉、それがどのように意味するのか、しかと頭に刻んでおきなさい。次にそのような事を言ったなら……今度はあなたの命が凍てつくと思いなさい」

 彼女の放つ中でも可能な限り鋭利な殺気をキサラギの方から感じたウヅキは身震いした。直接自分に当てられていないのに、こうまでも押しかかる重圧、それでもサツキは無表情を貫き通している。
 ふと、耳元からこの場に居合わせない第四者たちの声がした。

<ウヅキ! 残念ながら今回はあちらの方が正しいぜ。前から言ってんだろ、その考え方はそろそろ直せって>
<カンナヅキの言う通りです。あなたは自覚をそろそろ持ちなさい>
<カンナヅキやムツキほど強く言うつもりはないけど……僕と似た者同士は良くないと思う>

 皆してなんだよ、そう言いたくなったが黙り込んだ。キサラギの瞳の色が普段の紺碧から、強く煌めく黄金に変わっていたからだ。彼女が固有魔法に望む時、その瞳の色はそのような色に変わる。
 さっきの忠告は本気だと分かったウヅキはついに折れた。とにかく次に向かおうと、ナガツキの言う声が、ようやく入ったフォローがとても遠かった。