ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Magicians' War ( No.19 )
- 日時: 2012/02/11 12:33
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)
「ナガツキー、気分はどうだい?」
「ん? ああ、最悪。囲まれるなんてね」
目の前には待ち構えていたかのような数百人の兵隊、とは言っても主に率いられていない個性豊かなモンスター達。ゴブリンに始まり小型の飛龍までいる。これはかなりてこずるぞと直感した。
野生部隊、主を持たない、つまりは使者を必要としないほどに訓練を受けた魔力を持った獣たち。その強さは特に野に生息する普通の連中と変わらない。ここまで大量に出てくると対処も面倒だ。
「確か、モンスターの攻撃にも属性ってあったよな?」
「ああ、魔法と全く同じものがある。こいつらの特有スキルの発動エネルギーは魔力だからな」
「それ聞いて一安心。だったら俺はそこまで心配しなくて良いかな」
「光闇使いは便利だね。全くセコイセコイ」
「フン、闇が使えるのはカンナヅキもだろう?」
「当然! なあ、とりあえず敵の安否は問わずに暴れるぜ」
構わないと呟き、ナガツキは頷く。これでも彼には戦場とは無慈悲なものだと納得している。いつ大切な仲間が、もしくは自分が殺されようとそれは仕方の無い事なのだ。向かい側の者たちも、誰か大切な人を既に失っているのだから。
目の前の獣に、理性が、感情が、親子関係というものがあるのかは知らないし、訊く術もない。だがやはりここは戦場、刃向かう輩は全て叩きつぶす。それが彼なりの流儀、どうせなら全力で、手を抜くことは侮辱の証。だから絶対に敵には敬意を示す。
「ファイアボールにドラゴンに、スカイ—Dにヴァンピアミニマム、お前たちが壁となるなら、全力で打ち砕こう」
ファイアボール、火の玉に顔のついたようなモンスターを目に収め、手を高々と天に掲げる。ドラゴンをチラと視界の端に収めながらその右腕を振り下ろす。スカイ—D、空飛ぶ龍を睨みつけつつその腕に魔力を込める。右腕がうずくような、捻じれるような感覚のした後に闇属性が溢れだし、黒い魔力は奔流するように彼の右腕を取り捲いた。
ヴァンピアミニマム、小型のモンスターの中では上位の実力の持ち主。自然界にいる中では一、二を争うほどに闇属性は得意だ。それなのにそいつは身震いした。圧倒的な実力差に。
「おい、この程度に名前はないぞ。ただ魔力を爪状にして纏っただけだ。これで怯えるのならお前たちは……」
途端にナガツキの脚が輝きだした。光魔法は肉体に働きかけると桁外れの速力を生み出すことができる。ナガツキの姿は消え、地面から数センチの辺りに光の道筋が出来る。それは言うまでも無くナガツキの走りぬけたライン。
その一筋の閃光は敵陣の中を颯爽と走りぬける。次の瞬間、その近くにいたモンスターの横っつらや胴体から三筋や四筋の切り傷が生まれ噴水のように黒い液体が飛びだした。苦しそうで、痛そうで、元々声でもないのだが、彼らが人間だったとしたならばおおよそ声にはならないような悲鳴が上がった。
「あー、くっそ。やっぱ速いなナガツキの奴」
切り裂かれっぱなしでは終わらないと、激昂したドラゴンはその口を開いた。どす黒い火炎が口の中で渦巻いている。炎と闇の混合属性のブレスだ。だが、そんなものナガツキの前ではあまり関係ない。
龍の口から大量の、超強力な燃え盛る火炎が吐き出された。禍々しさは災厄の象徴。炎だけでなく闇もまざっている、相当の威力のものなのだが関係ない。両方同時に打ち消すことが可能な属性だってあるのだから。
背後からの一撃でも、見ていなくとも魔力を感じればいくらでも対処できるのだと説き伏せてやるように、ドラゴンに向かって彼は呟いた。そんな事おかまいなしに炎は突き進む。瞬間、彼は地面を蹴った。
ナガツキの体が空気中に浮き上がる。そして、地面を力強く蹴った左足は反作用の力を受けて天に向かって振り上げられる。そのつま先が通った所に、光の膜は構成された。光の膜に触れると同時に闇属性の炎はいとも容易く消え去ってしまう。水に火を突っ込むように一瞬で、邪悪な炎はすぐに消滅した。
飛び上がった場所と寸分違わぬ場所にナガツキは華麗に着地する。それを見届けた敵どもは、見とれるように、呆れるように、立ちすくんでいた。
溜めは上々、そう言わんばかりにカンナヅキは不敵に笑った。これで準備は整った。そうして彼女は両腕に魔力を集中、具現化させていく。放つ魔法は得意の水、両手の間で錬成させた水を、階層の上空向かって大量に吐き出した。
「上空に、地面と平行にアクアル(水属性防御壁魔法)を設置完了……改良版術後展開魔法、ダウナーフラッド!(降り注ぐ洪水)」
アクアルからの述語展開魔法、アクアキャノンをカンナヅキが独自に改良したもの、それがダウナーフラッド、上空から落ちる水量は滝というには凄まじすぎる。まるで押し流れる洪水が、天空より攻めてくるようでその名を付けた。
カンナヅキの大技で、雑魚の方はあらかた片が付いた。しかし未だに強力な連中は残っている。だが、水流が邪魔をしている間に今度はナガツキに魔力のチャージ時間が供給された。
「サンキューカンナヅキ、こればっかりは詠唱が必要なんだ」
光と闇の合成魔法、それは数千年の長い歴史を振り返っても数百人程度しか見つからないほどに使い手が限られる魔法。基本的に光と闇に関しては尋常ではない実力を発揮するが、その他の属性では箸にも棒にもかからない。ナガツキも例にそぐわず、そのに属性以外の風や雷はさっぱり使えない。それこそ十二組当たりの連中に負けるほどに。
ただし、使用者の限られる二属性の合成魔法の破壊力は凄まじいもので三日三晩詠唱を重ねた者は山を一つ消し飛ばしたと言い伝えられているほどだ。ただし、ナガツキはそんなことまでは鍛錬が不足しているのでできないが。
「この階層、半分ぐらいガラクタまみれになるけど、大丈夫だよな?」
「ああ? それの破壊時って静かだからばれないんじゃねえの? 基本触れたらジ・エンドだろ?」
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今回はこの辺りで次回に続きます。