ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Magicians' War——キャラ紹介アップ—— ( No.22 )
- 日時: 2012/02/18 16:56
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: NfhnPAqv)
「ハーン、調子乗ってんの? 冥土に行くのはどう考えても私よりあんたらでしょう」
「ハッ、言ってくれんな。二対一だっての」
「後ろのこの子達が見えないの? 二対三よ」
「そんなもの敵戦力として数えてやるほど弱くは無い」
大舌戦が繰り広げられている、ただそれだけに見えるその空間も実は違っている。お互いの挙動を見ている、というのも一つあるが、もう一つ彼らは各々、取っている行動がある。次の一撃のための魔力を準備。手を抜いては苦戦を強いられることは分かり切っている。
そんな中一番最初に動き出したのはコクビャクだった。正確には後ろに控えているヴァンピアミニマムの白い方の個体だった。またしても細かく分かれると、怪音波を発し始めた。
「それの対処は分かってるっての。ファイボ!」
炎属性の大爆発を、今度は真正面に撃ちだす。先ほどは囲まれていたから全方位に拡散させないといけなかったが、今度は違う。まだ分散したばかりの集合地点に向かって撃ちだす。
しかしそれもすでに対策法は打たれていた。だからこそ、一体だけをコウモリに化けさせ、一体を控えさせていた。もう一体のヴァンピアミニマムはその口から真っ黒な気体を吐きだした。黒煙はたちまちにして周囲を取り囲む。それに触れた炎属性は属性負けして無力化される。白のコウモリは部屋いっぱいに広がった。
「残念だったわね、もう打つ手は無いわよ。あまり強くないけど光属性の固有技は私も持ってる。光と闇、揃えばどの属性も打ち消せることぐらい、魔法の得意なあなた方には分かってるでしょう?」
そう来たか、忌々しげな舌打ちと共に呟くカンナヅキの表情には不味そうな色が浮かぶ。もうすでにほとんどの魔法は封じられたに近い。固有魔法ならば効果的だが、自分のものは戦闘向きではないうえに、ナガツキの場合相手が弱っていないと使えない。
八方塞、どうしようかと考えるカンナヅキを差し置いて、ナガツキは冷静だった。それどころか余裕の表情すら浮かべていた。恐れることなど無い、確信に満ちた自信を持って。
「打ち消せない属性? あるぜ。光にも闇にも溶け込み、こちらからは打ち消すことが可能なやつがな」
高らかに笑うコクビャクの表情が凍りつく。聞いたことない事を聞かされた時の驚きの顔。あり得ない事が起こりえると断言されたら見せる絶望の顔。そして、得体の知れないことに対する好奇心。
この真っ黒な煙幕が二人の周囲を取り囲み、白いヴァンピアミニマムが四方を取り囲む。それぐらいの時間があればナガツキは自分の奥義を使える。時間にしておおよそ十秒、膠着時間を考慮に入れると三十秒以上、それだけあればナガツキは自分の覚えている魔法の大半は使える。先ほどその威力を見せ付けた混合魔法であってもだ。
「行くぜ、言の葉の力、最大限まで紡いだこいつを嘗めんな。イービルジャスティス(悪に染まった正義)」
詠唱が魔法を強化するとは、どういう事か。それは言葉を紡ぐことで言葉に込められた意志の力を魔法に上乗せするということ。それの持つ名前を唱えるのと唱えないのとでもかなり変わる。
ナガツキが与えた光と闇の合成魔法の名前はイービルジャスティス。闇に染まった光、浄化された暗黒、矛盾するそれらが調律した時、より弱き者の存在を否定する。
大気を震撼させるような衝撃が再び階層中を支配する。どす黒い煙は力を失い消え、真っ白なコウモリは全て消え去った。ヴァンパイアレディにも襲いかかろうとしたが、残った黒い方の一体が身を賭して防護する。白も黒も、両者ともに主を置いて散っていった。
散っていった配下の二体を見てもヴァンパイアレディは顔色一つ変えなかった。その事からすぐに察する。この女にとって従える魔獣は道具かそれ以下に過ぎないのだと。
歯ぎしりの音がナガツキの方から聞こえてきたのをカンナヅキは気取る。ナガツキは戦場の生死の駆け引きぐらいは割り切っているが、味方に対して最低の行動を取る者には容赦ない。
「…………噂の、合成魔法かしら?」
「そうだよ、そして謝れ……それが仲間に向ける態度か?」
「あなたそんな事気にするの? バッカじゃないの。あんな下等モンスターそこいらにありふれて……」
「うるっせえ! とにかく少しは悪びれろ! てめえの采配ミスで死んだんだろうが!」
「殺したのはあなたでしょう?」
「そうだけど、お前が正しい判断を下せば死ぬのは俺達だったかもしれないだろ」
「ハア……? 面倒な性格してるわね。それならヘタレて戦争に来ない方がこっちにしてはありがたいわ」
全く更生の色が窺えない。ついにナガツキは沈黙を破って地を蹴った。光属性による超加速、レールのように奔る残光がナガツキの軌跡をなぞる。その猛スピードに反応できないコクビャクは自分の右腕に傷をつけた。
何をするのかとカンナヅキが動揺するのと同時に右腕から血が吹き出る。その血はまるで超能力で操られるがごとく、コクビャクを取り囲んだ。闇属性の爪を纏ったナガツキがそれを斬りつけるも、傷一つ付かなかった。
「チッ、防御壁か。どうするよナガツ……ってオイ!」
「シャイニングブラスト」
ナガツキは怒りで我を忘れながらも冷静に対応する。使者は固有魔法を使う事はできない。そして、血を使う当たりこれはヴァンパイア系統の技だ。固有魔法以外に無属性魔力を発散できない以上この血の盾にも属性がある。闇属性で打ち消せないならば闇属性だ。ならば光が有効、空気中に星型の魔方陣を描いたナガツキはそこから、光線を発射する。
まるでレーザーそのもののような高圧縮、高威力の一筋の閃光が血霞の膜を貫通する。だが、そこにコクビャクの姿は無かった。床には小動物がギリギリ入りこめる程度の穴が開いていた。
「しまった……分散して違う階層に! これじゃアタシらの侵入が伝わるじゃねえか!」
「だったら、こうするしかないだろ……」
その開けられた穴に向かってナガツキは駆け寄る。右手の平を押しあてて、魔力を闇に属性変換して撃つ。
「刹那!」
意識を一時的に奪う効果のある闇属性魔法刹那、同系統の高位魔法に虚空などがある。一個下の階層はもうすでに自分らが占領している。だから味方がいないと踏んでのこの策だ。失敗したら不味いがこうするしか手立てはない。
「くそっ……こうなったら……フミツキ! 聞こえるか?」
<聞こえている。事情は大体把握した。我は向かえば良いか?>
「頼んだ、俺たちは先に上に行く」
こうなったら上からの戦力を削ぐことに全力を尽くそうと駆け出す。これに対してナガツキ一人の責任ではないと感じているカンナヅキは静かに、黙って上を目指した。