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Re: Magicians' War——2/25最新話です—— ( No.24 )
日時: 2012/03/01 20:26
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Bt0ToTQJ)


「やったのか、フミツキ?」
<ああ、もう大丈夫であろう。ただ、キーごと焼き尽くしてしもうたのは我の短慮だ。それはすまない>
「気にすんな。俺が気を抜かなかったら良かったんだよ。ありがとな」

 耳元にフミツキの勝利を宣告する声と、炎系の爆発音がこだましたことから、決着がついたことをナガツキは予測した。確認するように、おずおずと尋ねてみるとフミツキは余裕そうに何とかなったと答える。安堵の溜め息を吐きながらナガツキは例を言った。
 それを見て、聞きながら隣にいるカンナヅキも安心する。コクビャクの相手をしていたのはナガツキ一人に限らず自分とて同じ、責任はナガツキだけにある訳ではない。属性的に不利だったとはいえ、役に立てなかったのが情けなく、少々ナーバスになっていた。
 しかし、仲間の好フォローのお陰で何とかこちらの侵入が露見するような事態には至らなかった。だが、気を抜いてしまわないように叱咤する。今このように足を引っ張ってしまったのだから次こそは役に立って見せると。過ちて改めざる、それこそが過ちだと古い古い昔に儒家も言っていた。
 ふと、カンナヅキはある事が気にかかった。ヤヨイ、ミナヅキ、ハヅキのグループだ。ウヅキ達は、多少諍いがあったとはいえ、交戦状態に陥り、勝利した。フミツキは自分たちの失態をフォローしてくれた。だが、残りの三人に至っては音沙汰が無い。すぐさまやられるようなことは無いだろう。しかし、あのハヅキがこうやって黙っているのは少し妙な話だ。
 ハヅキが静かなタイミングは大体二つ。一つは落ち込んでいて皆から鬱陶しいと言われる状態だ。正直ああのいじけている様は見ていてイライラとするといつも言われている。その内の一人がカンナヅキだ。うじうじしているのが苦手な彼女は、いつも寡黙なミナヅキが少しとっつきにくい。確かにキサラギもおとなしいのだが、彼女は話せば返してくれる。
 そしてもう一つの可能性、これだとあまり信じたくない上に、信憑性も薄いのだが強敵と交戦中だ。信憑性の薄い理由は単純、魔法を撃ち出す時や炸裂する時に放つ効果音が聞こえてこないのだ。
 しかしそれ以外では本当に煙たいほどに騒がしいのでやはりどちらかが当てはまるだろう。だが、共に行動している二人がハヅキをそんなに落ち込ませるような辛辣な言動を取るとは思えない。やはり、敵と交戦中だろうが何があるというのだろうか。
 しかしそこでハッと気づくことがある。ここはノロジーの本拠地。ノロジーは防御に関するシステムはピカイチ。小さな要塞のセキュリティはジェスターの大要塞と同程度のクオリティだ。攻撃面では数値がひっくり返るせいで両者に均衡が保たれているのだが。
 ノロジーの兵器の一つにMCSと呼ばれるものがある。かねがね噂にはなっていたが目にするのは初めてだ。MCS、マジックキャンセリングシステムと呼ばれる機械だ。属性同士が打ち消し、打ち消される性能を用いたシステム。設定した属性の波長を飛ばすことで相手の魔法を無効化する。旧型には危険性の少ない光属性のみ搭載され、光属性のみ打ち消せなかったが現在は闇属性も搭載されている。
 無属性魔法は、それがないからと言って何属性にも干渉されない魔法、そういう訳ではない。むしろ全ての属性に干渉し、干渉される不便なもので、例え相手が風属性でもその効力は及ぶ。

「ハヅキ、ミナヅキ、ヤヨイ! 聞こえてるか!? くそっ……反応がねぇ」

 カンナヅキが心底忌々しそうに舌打ちを鳴らす。ミスが二個も並んで続いたのでくしゃくしゃと髪の毛を掻きまわす。

「カンナヅキ、多分あいつらなら大丈夫だ。最悪ハヅキならワープで脱出できる」
「だけど、それが無効化されてるんだぜ? どうやって……」
「MCSは別名魔法障壁。形状は壁だ。だから今の状況はあいつらと俺らの間に壁があるだけだ。実際フミツキとは連絡が取れてる」
「そうか……なら良いんだが」

 先を削ぐ、そう言ったナガツキはスピードを上げる。存在を勘ぐられる前に部隊長を探しだしてカードキーを奪い取らないと後後面倒な事になる。上の方から強力な魔力反応がしているのは二人ともずっと感じていた。重苦しく、押しつぶすような濃厚な魔力。龍にまつわるようなこの感覚、例の龍人、もしくは部隊長のリュウヒだろう。
 どちらにしろこれはかなりの強敵だと察せられる。もしかしたらサモンで呼び出すような高等魔獣の可能性もある。だとすると二人ではどうともならない可能性がある。
 瞬間、ぷつりと上からの魔力反応が消えた。何事かと思い今度は意識を集中して探ってみる。しかし、何一つ気配が感じられない。ここには何かあると感じ取ったナガツキは考える。確かに高出力から一気に魔力を押さえ込むことも可能だろうが、それならば靄がかかるような取りこぼしの残存部分が現れる筈だ。
 それすらも感じられないほど消えたとすると、上にはこちらの探知能力を阻害するようなスキルや機械を使ったとなる。そのようなことをする方法をさらに考える。しかし答えは案外、簡単に出るものであった。

「そうか……MCS。上にあるんだ、MCSが。それで、一気に遮られて……。だったら上にいるかもな」

 魔力を無効化するシステムは、ジェスターと同時にノロジーの首をも絞める。ノロジーに所属する使者の扱うモンスターの攻撃の力の源も、魔力だからだ。だから無効化システムは壁のような形状を取っている。おそらく上の階にはそれが至る所に設置されているのだろう。
 魔法障壁は視認はかなり困難だ。かなり色が薄く、向こう側の景色が見えてしまうほどだ。だが、特殊なゴーグルをかければとても簡単に見ることができる。
 きっとそのゴーグルを向こうの兵隊は大半の者が持っているのだろう。

「もしかしてあいつら……大分苦戦してるんじゃねえの?」

 だとすると、こんな所でじっとしていられない。さっき探った感じでは真上の階層だったと二人は思い返し、アイコンタクトを取る。共に見粟っせ手頷き合う。好戦的な表情を取ったカンナヅキが炎魔力をその手の中に集める。それに便乗してナガツキも光と闇を混合させていく。ぶつぶつと詠唱が始まる。間違えて仲間を消し飛ばすことのないよう、威力は控えめ。
 最初にカンナヅキが炎で作った槍を放った。ファイス、炎で作ったラン“ス”だ。天上に突き刺さった瞬間、彼女は空中で十時を斬るようなアクションを取る。槍に込められた魔力が膨張し、炸裂。天上に穴を開ける。
 やはり上では誰かが闘っているようで、ちらちらと炎や雷、水が見えた。

「煌影一式・不死鳥<フェニックス>」

 白と黒の混沌とした鳥型の魔法が、天井を貫通し、人が通れる程度に穴を広げる。そこには、ハヅキとミナヅキとヤヨイ、そして全身を深紅の鱗で覆った人型の何かがいた。




                                              続きます