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Re: Magicians' War——3/1最新話です—— ( No.25 )
日時: 2012/03/08 18:19
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: .P6acy95)

「なっ……人……? でも鱗が……! ナガツキ、こいつもしかして……」
「落ちつけ、多分こいつは龍人じゃない。トップが動くのは大体最後だ。……だとすると、こいつは何だ?」
「人型の龍だってさ。さっきミナヅキから聞いた」
「ハヅキ! お前ら大丈夫か?」
「何とかね。でもこいつ、強いよ」

 その、人の形をした龍に、カンナヅキは酷く狼狽する。何せ、自分たちが最も注意を払っている、この建物の中で最も実力と権威を兼ね備えている敵国の兵士、それが龍人だからだ。それならば相当に不味いと、眉間にしわを寄せて注意深く観察する。
 しかし、ナガツキはすぐに龍人ではないと判断する。見せられた写真に映る者と違う上に、こんな下の階層にボス直々に下りてきて闘う筈が無いと。それに同意するかのようにミナヅキは頷き、ハヅキが説明する。
 実は龍人は確かに体が鱗で覆われているが、それはほんの一部。鱗が無くて露出している部位もあるという話だ。全身くまなく硬いそれに覆われているのは純血の龍程度だ。だとすると、目の前にいるのは本物の龍。
 ミナヅキはよく、教室で一人で本を読んでいる。そのせいか、いつも知識を蓄え続け、こういう時にいきなり大活躍する。それにしても、この国にはかなり、異世界のモンスターにまつわるものが出てくるのだなと舌を巻く。向こうからこちらに連れてくるためには、サモンを使う以外の方法を知らない。だが、サモンは固有“魔法”の一種だ。使者の国、ノロジーが使える由もない。
 だとするとどうして召喚しているのだろうか。サモンを使う大魔導士が敵国に味方しているというのだろうか。その疑念をナガツキは振り払った。彼の身近にも、その魔法の術師はいるのだ。不用意に疑いたくはない。
 そんなナガツキの胸中を察してか、こっそりとミナヅキは補足を入れ、答えを示唆する。

「そう言えば、ノロジーの首都、グランデンバイナには異世界とこの世界を繋ぐ“ゲート”が、あるらしいわ」
「なるほど、そういう事か。心中お察しありがとさん」

 人型の龍、それが目の前の敵だ。だとすると、やはり一つ気がかりな点があった。いくら“ゲート”があると言っても、この個体は珍しいだろう。数はそうそういない。だとすると、一つの可能性が現れる。それを確かめるために、きっと人語も解せるであろう目の前の魔獣に問いかける。

「お前もしかして……龍人の父親か?」

 龍と人のハーフの場合、どちらが父親かで特徴が違う。どちらかと言うと、母体の影響を強く受けるのだ。写真は見せられているので、ここの長であるドラグニッシュの面は既に割れている。人間寄りだった。それは、父が龍であることを指している、それも、人型の。

「ほう……よく感づいたな」
「確率論だ。可能性がかなり高かった」
「うえっ! 喋った!」

 目の前の奴が嫌味な笑みと共に答えを返し、ハヅキが仰天する。まさか魔獣が口から言葉を発するだなんて、口にせずとも言いたい事は皆にも分かった。

「少女、貴様は馬鹿か。何ゆえの人型だ。人とは、二本の脚で歩き、道具を用い、言葉を従える者。それに近い儂とて、言葉を出せる」
「随分と高齢なんだな」
「安心せい。我らは人とは違う。年をとっても衰えはせん。衰えるのは、死ぬ前よ」
「そうかよ。あんたが、部隊長じゃないことを願うぜ」
「何故ぞ」

 そんなの、分かり切ってるだろう、それだけ言い残してナガツキは左手に、光属性の弓矢を錬成した。かなり簡易的で、形を象っているだけだが、矢を放つには充分。きりきりと、音を振り絞り、弦を引き絞る。
 もしも部隊長であれば、カードキーを持っている。すでにコクビャクのカードキーが焼き払われた後、残り二枚のそれはかなり貴重だ。それを壊さないように、闘わないといけない。

————ただ倒すだけなら、楽なんだよ。


 手元の光属性の矢に闇属性をミックスする。炎や水などの芸が取れない以上は、こうするより他は無い。きっちりと狙いを定めて撃ち抜かんとする。破邪の槍が、天を翔ける。
 それを見た龍は、「大層珍妙な遊戯だ」と得意げにして、姿を消す。だが、高速で姿をくらませても関係無い。彼らにとってはすぐに魔力で探知すれば良いだけの話だ。

「気をつけてナガツキ! MCSのせいで感知できない!」
「なっ……忘れてた……!」

 すぐさま辺りを見回すも、どこにも姿は見受けられない。焦りはさらに、視野を狭める。上空という選択肢を消していた。定石であるというのに。
 フローリングに映る影にハッとしたナガツキは、さっきまで隠していた羽を広げて悠然と舞う彼の姿を捉える。彼のブレスの発射準備は整っていた。

「最後に、自己紹介だ。儂の名前はリュウヒ。しがない一人の、部隊長じゃ」

 口ではなく、両手の間で圧縮した、高圧縮の炎に転換した魔力を凝固させる。暗黒の闇が、炎の中に溶け込む。ドラゴン固有の合成技だ。星の数ほどいるモンスターの中でも、ドラゴンがかなり恐れられる理由として、炎と闇を混ぜられることがあげられる。その二者は破壊の象徴、王たる種族にふさわしいものだ。
 同様に、違う種族にもほとんどの属性を打ち消す光や闇を混ぜられるモンスターもいる。しかし、光と闇を混ぜられるのは、一部の限られた魔法使いだけなのだ。

「水晶の柱、強固たる意志、指し示すのは……」
「ダメだミナヅキ、間に合わない! だからこれで行く」

 急きょナガツキは胸元のブローチを擦る。円を描くようにして、磨くように。突如、それは瞬く。込められた魔力が、中から迸る。光の紐は絡まり合い、ナガツキを護る繭となる。
 ブローチの石には常日頃からナガツキが少しずつ、万が一のために魔力が蓄えられている。白黒二匹の龍の絡み合う、その中心に。当然ブレス程度簡単に無効化する。荒れ狂う炎が晴れたそこに、何事も無くナガツキは立っていた。

「何じゃ。終いかと思うたのに。儂もまだまだ青いな。未だ決せぬ勝負が終わったなどと言うなど」
「お前さっき、これを珍しい遊戯とか言いやがったよな……」
「そうじゃ、それがどうした」
「それは、許さない。これは俺の希望を指す魔法だからだ」

 力強い眼光で、殺気立てて睨みつける。刹那、戦慄を感じたリュウヒはたじろぐ。若くしてこんなにも気迫を放つ人間を見たのは初めてだった。

「俺は龍族が嫌いだ。俺の生まれた故郷は滅ぼされた。異世界の王、最強の龍に」
「そうか。だが儂は知らぬ」
「必死に鍛錬したんだ。一魔法使いが勝てるために。そうして手に入れた希望だ」
「儂は知らぬと言うておろう」
「この石には、魔力を打ち消す力がある。だが、この混合属性に至っては、押しとどめて保存するしかできない。いかに強力な石であろうとも、封印が精一杯なんだ、相反する二属性の力は。それを、お前ごときには馬鹿にさせない」

 先程使ったのは、溜めこんでいたほんの一部。しかし今彼は、溜めている魔力を全て引き出そうとブローチに微弱な魔力を加える。
 それに呼応するようにして、封じ込められた力が全て、解放される。漏れだすようにして、魔力は段々と部屋中を立ち込めていった。


続きます