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Re: Magicians' War——3/14最新話です—— ( No.27 )
日時: 2012/03/21 15:32
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: tBL3A24S)


「さて、全員揃ったか?」

 辺りを見渡して、十一人全員が集結したことを察したナガツキは、確認のために訊いてみる。揃っていると、各所から声が上がる。訊くまでも無く分かっていたのは確かだが、それでも一応聞いておきたかった、その声を。手違いが無いように。知らない間に零れ落ちているのは、どうにも怖くて、淋しくなってしまう。
 そしてナガツキはリュウヒから、ムツキはカナタから、それぞれ奪ったカードキーを取りだした。現在彼らが立っているのは階段である。七階と八階の狭間にある、大理石の壁に囲われた螺旋階段。この辺りまでたどり着くと、要塞というよりも地位の高い者の住む豪邸のように思えてくる。実質、ここより上の階に行くのは要塞の中で最も偉い龍人と、三人の部隊長ぐらいだ。一般の兵士は上がれない。住んでいるのはさっき挙げた四人の者、そしてその他の高位獣だ。
 壁の向こう側から、強力な魔力が感じられる。どうやらこの仕切りとなっている障壁には、MCSのように魔法を無効化する能力は持っていない。ただただ強固な金属でできているだけだ。しかし、少し叩いてみて解る、これは少々の魔法で壊せるほどに脆い素材ではない。それこそ、各々の得意属性の最大級の威力での一撃でしか壊せないだろう。フミツキのファイボ、ナガツキの光と闇の合成魔法、キサラギのフリーズキャノンなどだ。
 できるだけ、向こう側の連中に存在を察知されないように十一人は魔力の放出を押さえ込む。ナガツキの合図で一斉に魔力を溜めこみ、キーを開けてすぐに突入する算段だ。手加減は無用、どうせドラゴンなどが配置されているのだろう。
 待ち受けているであろう強力な魔物たちを想像し、緊張の糸を張る。ナガツキが右手を上げる、同時に十人の魔力量も急上昇、左手に持つカードキーを、ナガツキはスキャナー内部にスライドさせた。ピーという、高い電子音の響いた後に腹の底に響くような鳴動音を上げてその壁は開く。その途端に、全員でできるだけ強力な魔法を、内部に撃ちこむ。強力な爆弾が炸裂するような音と煙、そして炎と衝撃が内部で混沌と入り乱れる。強化ガラスが砕ける鳴き声も、劈くように耳の中に入り込み、静まった後に、煙が黙々と、モクモクと立ち込めて、メラメラと可燃物が燃やされている。燃やされたものが弾けるような、パチパチと五月蠅い音を鳴らす。内部に、生物の気配は無い。死んだものの気配すらも無い。

「……ここまでたどり着くとは、どのような大兵団かと思えば、まだ青い十一人の小隊か」

 何かに呆れるようにして呟きながら、たった一人で煙の中にシルエットが現れる。おそらくは、たった今降りてきたのであろう。だとすると、相当な速力。皆一様に目を丸くする、なぜならその影がいきなり、部屋中立ち込める煙を一瞬で払ったからだ。
 凄まじい風圧が身体の前半分を襲い、その場に留まろうと下半身に力を入れる者も、後ろに押さえ込まれる。どうしても体は浮き上がり、物凄い突風に後ろに飛ばされそうになる。どうやら、特技は速さだけではないらしい。魔法の威力に思わずゾッとしてしまう。
 風属性魔法は何属性相手にも強くなることはないので、class/seasonの中で使いこなそうと考える者は中々いない。唯一詠唱破棄を習得しているのはムツキだ。他の者はとりあえず使えるという程度。ただし、ナガツキ一人だけが苦手だ。
 煙を払った正体は、当然のごとく龍人。リュウヒと同じ赤い鱗が、側頭部と両腕、両足を覆っている。きっと胴体の一部も覆われているだろうが、服のせいで見えない。手元で渦を巻いているのは空気だろう。きっとこれは風属性の攻撃。

「えっと……あなたが龍人?」
「だとしたら、どうするつもりだ。ここに来た目的はなんだ?」
「機密文書の入手、分かっておろう」

 先陣を切って、話を斬りだしたのはハヅキ、相手が龍人であるかの確認を取る。濁すような答えで、しらを切ったようだが、きっとその回答はイエスだろう。そのハヅキを補足するようにフミツキが挑発するように吐き捨てた。龍人、ドラグニッシュの眉の端が数ミリ動く。権力者の割には感情的な人間のようで、所詮は闘いの中に生きる者かと納得する。
 ぐだぐだと話し合いを続けるつもりは毛頭ない、二人が会話を続けるうちに後ろの方でミナヅキは準備をしていた、勿論戦闘の。人差し指と中指を伸ばし、ぴったりと引っ付ける。他の三本の指はぴったりと折りたたむ。二本の指の間には一枚の呪符。行書体の漢字で、『浄化聖水』と、墨で書かれている。
 途端に、魔力を込められたお札は弾け飛び、その姿を消失させる。変わりに、ミナヅキの周りには小さな水弾が六つ現れる。これは、後の防御のために置いておくストック。次は攻撃の準備、それはカンナヅキにバトンパスする。
 もうすでに準備なんてとっくにできていた彼女は、左手を龍人に向けた。素早い動きに、前髪が赤と青の瞳の前で揺れる。

「アクアラ!」

 左手から、水属性に属性転換した魔力を放出させる。とてつもない水量のそれらは、空気中で螺旋運動を始める。その姿は、さながら海上に浮かぶ巨大な渦巻き。強大な水圧で、押しつぶし引きちぎる魔法。
 しかしそれに対してドラグニッシュは、リュウヒ以上に落ち着いていた。いや、どちらかというと落ち着いていないと可笑しい。言ってしまえばアクアラは、威力こそ高いがただの水属性魔法。光と闇の合成魔法よりも恐怖は薄い。それだけではない、階級がリュウヒよりも上の龍人、つまりは部隊長よりも強いはずのドラグニッシュだ。恐れる必要どころか、焦る必要性すらない。
 一つ、溜め息を吐き出す。そして、息を大きく吸う。体内でその吐息に闇と炎の力を孕ませる。そうして、膨大な熱量を持ったブレスを口から吐き出した。墨で空気中に塗りつぶすように描いたかのような、真っ黒な炎。透き通る青の魔力は、どす黒い魔力に塗りつぶされる。蒸発して、霧となる。
 それでも炎の威力は収まらず、突き進んでくる。これに対応するために、ミナヅキは控えていた。左手首の周りで待機している六つの水の球体の一つが、彼女の眼前に現れる。光属性の混ざった、鏡のようなその水は、ミナヅキの口元を写す。水は彼女の苦手属性だが、光が混ざっているので扱いやすい。

「展開、薄膜・水狼の毛皮」

 彼女を中心として、十一人を水のバリアが包み込む。炎はこれで完全に中和されて、無力化される。霧が辺りを立ち込めた。
 これにて、真剣にこの作戦の最後になる筈だった、闘いが始まる。