ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Magicians' War——3/21最新話です—— ( No.28 )
- 日時: 2012/04/02 18:51
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 8Sk6sKy2)
「目暗ましが通用すると思っている所が甘いな」
最初の登場時、爆炎を払ったのと同様に、風属性魔法が周囲一帯の霧を薙ぎ払う。ほとんど熱湯のような霧なので、龍人のように鱗で覆われていないclass/seasonにとってはそれだけでもう攻撃だ。それでも、弛まぬ鍛錬の成果か、その程度で根を上げるような者は居ない。それどころか、負けていられないと感情を高ぶらせる。
一切戦意を削がれていないその姿に、龍人は今度は感嘆する。ただの青っ白い少年少女では、決してないのだと。一つの敵として認識出来たのか、彼は余裕を持った表情から緊迫した表情にその顔を変えた。一人、姿が消えているのに気付いたからだ。とりあえず十一人居たところまでは覚えている。それが十人に減っているのだ。
定石と思われる後方に、龍人は振り返った。予想通りそこに居たのは、着物を着た青年だった、右手には、蒼い強力な炎。空気中の微細な塵が、瞬く間に黒い灰となって散って行くのを見届けて大体の威力を悟る。強固で熱に強い龍の鱗といえど、あの熱量には耐えきれないと本能が告げていた。
背後に回り込んだフミツキの手元から球体状の蒼炎が放たれる。速度は速いとは言い難いが、最短距離で進んでくる。躱わさないといけないだろう。即席で作った水魔法ならば、瞬時に蒸発させられる。闇や光でも、おそらく燃やしつくされるだろう。顔面を狙うその炎球を、上体を逸らす。多少の熱に耐える鱗を貫くほどの熱気が、肉を刺してくるのを感じた。触れてもいないのにこの威力、凄まじいものだと呆れる領域にまで至る。しかしそれでも、回避は成功した……筈だった。
「ハヅキ、準備は出来ておるか?」
「詠唱完了! いつでもOKよ! 固有魔法、“ワープ”!」
蒼い球体の真正面に内部を闇に支配されるワームホールが現れる。その空間に吸い込まれるようにして、炎は消えてしまう。
何をしたいのかさっぱり分からない龍人は、放たれた言葉から戦略を考える。外れた場合に自分たちに襲ってこないようにするためには、元々撃つ方向を工夫すれば良かっただけの話だ。それに、消滅させる類の魔法ではない筈なのだ、ワープと言うからには。
五感を持てる限り敏感にさせる。聴覚、視覚、果てには嗅覚まで。焦げ臭い臭いが右側から漂ってくる。大気を焦がす音も耳に届き、視線を右に走らせるとそこにあったのは先程回避した蒼い炎。
さっき反応できた距離よりも遥かに近い距離から放たれたせいか、もうすぐ目の前にまで迫っていた。舌打ちをしながら、少々のダメージ覚悟で左手で弾き飛ばした。
それでもダメージを軽減するために、強力な裏拳で一瞬で弾いた。部隊長との四人だけで行う作戦会議室が、さらに破壊される。ただでさえ焦げ付いているというのに、もはや次の一撃では蒸発してしまった。
肉の焦げる嫌な臭いと、左手の甲を襲う鈍い痛みに顔をしかめる。一瞬触れた程度で大火傷を負う程とは、彼の想像以上だった。
「あっぶねー……失敗してたら私が死んでたよ」
冷や汗を浮かべて身震いするハヅキに、ミナヅキがフォローする。その時はさっきのブレス同様に自分が護っていたと。
それにしても浮かれているのか落ち着いているのかよく分からない連中ばかりが並んでいるなと、龍人は妙な気分になった。
今度は自分から仕掛ける番だと、不敵に微笑む。先程体内で錬成した炎と闇の混合属性の魔力を、掌に集める。細く長い槍を一本錬成する。目の前の連中の表情が、次々に緊迫しているのを目に収めた彼は、一つの違和感を覚えた。一人だけ、口元が動いているのを。ちょっと茶色っぽい髪の毛の、黒い瞳の少年。
「不可視は……無敵」
途端に、彼の姿が薄れていく。足の方から幽霊のように成って行くように、景色に溶け込んで行く。透明になって、見えなくなる。果てには頭部まで消えてしまいそうなその瞬間、ポツリと呟いた。
「“インヴィジブル×インビンシブル”」
動揺する龍人の脇腹に鋭い蹴りが入る。靴の硬い感覚がするから、蹴りだと判断したが、確証は持てない。だが、かなりの威力であり、何か炎辺りの属性でブーストを掛けたのだろう。
すぐに判断する。インヴィジブルと言っている辺り、周りから見えなくなる効果なのだろうと。ただ、その程度なら周囲一帯を薙ぎ払えば充分だと、十人の方に向き直る。未だに集団で塊続ける馬鹿のような奴らに、さきほど作り上げた黒炎の槍を投げた。
瞬間、仲間思いであるのか、さっき姿を消した彼が現れる。着崩した制服からはためくシャツは、炎に当てられて少し縁が焦げていた。
あのまま姿を隠して居れば良かったのにと、龍人は溜め息を吐く。人のために己の身を差し出すなど、理解の外だ。ニヤリと不敵にもう一度嗤った彼はもうすぐ焦げ死ぬであろう少年に冥福の言葉を心の中で捧げた。
「不可視は無敵、“インヴィジブル×インビンシブル”」
今度は何をしようと言うのか、攻撃の目の前でウヅキはもう一度さっきの固有魔法を発動する。しかし、今度は彼の姿が見えなくなることはなく、それでも誰の表情にも動揺は浮かんでいなかった。
槍が彼の体に直撃する。まずは一人始末できたと思ったのだが、おかしい現象が起きた。いつまで待っても彼を槍が貫く気配は無い。それっどころか段々、槍の方が短くなっていっている。何事かと思った龍人は観察する。強力な魔力が彼の体内、そして体外から体を護っていて、攻撃を弾いている。いや、そもそも体構造が変わっているようで、いかなる攻撃も受け付けていなかった。
「どういう……ことだ?」
この日初めて、龍人から目に見える動揺を拝むことができた。