ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Magicians' War ( No.4 )
日時: 2011/12/26 18:19
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QxOw9.Zd)


「お前たちにしては珍しく騒がしかったな。まあ良い。一旦口を閉じろ」

 よっぽど理不尽な事柄で無い限り、先生に言われた事には生徒は口出しできないものと決まっていて、彼らは規則通りまずは静かにした。全員が黙ったのを確認してシワスは黒板の方へと向かう。転入してくる女子を連れて。黒板にチョークで名前を書くようなことはせずに、口頭で彼は新参者である彼女の名を告げた。

「今日からここ、class/season[クラス・シーズン]の一員となるサツキだ。お前らは子供じゃないから分かってるだろうけど仲良くしろよ」

 ウヅキが茶化すように「はーい」と大きく返事をしたのに合わせるかのように一人の女子は小学生じゃあるまいしと、反抗期の息子娘のようにツンケンした態度で言い放つ。その様子を見ながら他の生徒はほとんどが黙っていた。
 class/season、それがこのメンバーの名前だ。ここ以外のクラスには一組や十組など、数時+組の名前でいる場合がほとんどだ。しかし、その他のクラスとは一線を画す存在であることを強調するためにそのような呼び名が付いた。先に申してある通り仕事も違えば、実力面も数段違う。

「じゃあ、お前らも一人一人自己紹介していけ。属性の得手不得手ぐらいで良いからな」
「では、私からいきましょうか」

 そう言って立ちあがったのは、制服をしっかりと来ている男子だった。学園内の生徒にしては珍しく、全てのボタンを閉めていて、腰パン上げパンをしているというような事も無い。全員がこれぐらい生真面目だったら教師陣は大助かりするぐらいだ。

「私の名前はムツキ。得意属性は氷と光と風、不得意なのは炎と闇です」
「私はキサラギ。得意なのは氷と、闇と、水で……炎と雷がちょっと苦手」

 ムツキが言い終わり、次は誰にしようかとシワスは目を泳がせた。丁度、偶然にも目が合ったキサラギは、それならばということで立ちあがって、一礼した後にムツキに続いた。
 そして自分の紹介が終わったキサラギは隣に座る子の肩を叩いて、次は貴女だと勧告した。肩を叩かれたその女性は立ち上がり、バトンを受け取った。

「あたしは、ヤヨイ。よろしくね。得意は水と光、嫌いなのは雷と闇〜」
「女の子ばっかり続いてもあれだし、男子ももう一人。僕はウヅキ。よろしくねー。炎と水は結構いい線いくんだけど、光と氷が微妙かな?」
「ミナヅキ……氷、光、闇、できる……それ以外、苦手」

 おっとりとした感じで話すヤヨイに続いて、ウヅキが女子軍に割り込むようにして入ってくる。どういう理屈かは知らないが女子ばかり続くのは頂けないらしい。それがい終わるとすぐに、後になっても面倒なだけだと思ったのか、ミナヅキというちょっと暗い感じの女子がウヅキの自分流の配慮を無視して紹介を済ませる。
 もう少し協調性を持ちなさいと、半分説教をするようにして立ちあがったのはさっきナガツキと話していたフミツキだ。

「我はフミツキという。得意と言えるものは炎しか無いが、不得意も無いぞ」

 そして面倒くさそうな顔をして、女子組の中心に目を向けた。はっきり言って、このクラスが騒がしい一番の要因である生徒だ。別ににぎやかは嫌いではないが、限度というものを知って欲しいと常日頃から思っている。

「はいはーい! ハヅキでーっす! 雷炎はよく使うけど、水と光はからっきしでーす!」
「トーン落とせハヅキ。俺はナガツキ、光と闇以外は魔法はダメダメだ。その二つは結構自信あるぜ」
「おいおい、残ってんのはもうアタシとシモツキだけかよ。アタシはカンナヅキ。闇炎水は上々、氷雷風がさっぱりだ」

 ナガツキの次に続いたのは、先ほどからずっと男前オーラを出し続けているカンナヅキ。一人称で分かる通り女子だ。ただし周りの皆からこのクラスで最も男らしいと烙印を押されている。本人もまんざらではないらしい。ついでに、言葉遣いは荒い方であり、思った事は躊躇せずにはっきりと言う。

「先に名前言われた……僕シモツキ。基本魔法使わないからその辺よく分かんない」
「ちっ、ヘタレ。たまには闘ってこいよ」
「無理無理! 傷とか痛いのとか死と隣り合わせとか僕には無理!」
「一回アタシがしめてやろうかい?」

 それも絶対に嫌だと、シモツキは抵抗する。今カンナヅキが何のためらいもなくヘタレと言いつけたが、おそらくこの場にいる誰もがそれだけははっきりと突きつけるだろう。知り合ってからの機関は中々に長いが、彼が闘いらしい闘いをした機会は一度も無い。逃げるか負けるか防ぎ続けるかの三択だ。
 この二人のやりとりは今まで何度見てきたか分からない。だが、いつもいつも最後に折れるのは決まってカンナヅキの方だ。

「一旦静かにしろ。はいサツキくん、君も何か一言」
「魔法だったら基本全部得意。じゃ、これからよろしく」

 苦手属性が無い、その事にまず彼らのほとんどが驚いた。この世の魔法使いたちは誰もかれもが一つは苦手なものを持っているものだ。フミツキは確かに例外だが、彼の場合は得意な物も炎一つだけだ。それなのにサツキは全ての属性が『得意』なのだという。
 ついでに属性とは、光闇風炎水氷雷の七種類がある。光と闇は上級者向けで残り五つは初級者向けだ。それぞれの力関係は、まず光と闇がお互いを打ち消し合う。そして、風の力を受けることで炎の力は増大する。水の力は炎を無力化するが、変わりに氷に無力化させられる。そして、氷は雷によって砕かれる。光と闇はそれ以外の属性に対して常に優位に立つ。ただしこれはあくまでもほとんどの場合であって、術者の力や使用魔力によっても威力は決まるので、一概にこれでは決めつけられない。太陽に水を注いでも無意味だし、海を一面凍らせることが困難であることからもこれはすぐに分かるだろう。
 そして最後に、よろしくという一言が、サツキの放ったその言葉がとても空虚な言葉に聞こえた。本当にこの先仲良くしていくつもりがあるのか感じられないほどに。








魔法の力関係・図式番

風<炎   炎<水   水<氷   氷<雷
(風炎水氷雷)<(光or闇)   光=闇

上記以外の全ての組み合わせも、『=』になる