ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Magicians' War ( No.5 )
- 日時: 2012/03/09 14:19
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)
- 参照: 皆さま、良いお年を〜
「よろしく……ねえ。……君、本当にそんな気があるの?」
「どういう事?」
「そのまんまの話だよ。君の声からは仲良くしようだなんて綺麗な感情が全然伝わらないんだよねー」
よろしく、その言葉が空虚に感じたのはナガツキ一人だけでなく、後ろに座るウヅキも同じだったようだ。何だか、投げやりとも意志が無いとも、ましてや雰囲気的に適当に言っているでもなく、全く感情を込めずに彼女は確かに『よろしく』と言ってのけた。だが、やはり一切の感情のこもらない声では本当に仲良くしていくつもりがあるのかどうか、疑心を持たざるを得なかった。
だからこそウヅキは訊いた、ここで人付き合いを上手くやっていくつもりがあるのかどうかを。一見軽そうに振る舞っているように見えるが、彼はただ単にムードメーカーなだけ。他人の気持ちに目を向けるといった面ではかなり強い方だ。だからこそ分かる、彼女は敵対心も持っていないが、友好的にも感じていないと。
その瞬間、教室の中に微妙な空気が漂い始める。いきなりこのクラスに転入してくるところから、そもそもこの少女は得体が知れない。元来から存在する十人もの構成員の疑心を煽ったそのタイミングで、ドアをノックする音が響いた。
シワスが入ってくる時と同様にノックしてくるという事は、依頼者が着たということだろう。と言うより、もうここに来る他人の選択肢として残ったものはそれしかない。ふと、時計の方に目をやった。どうやら自己紹介でそれなりに時間が経っていたらしく、もうすでにホームルームも終わりそうな時間帯だ。久々の仕事が入ったと、彼ら彼女ら全員は息を呑んだ。さっきまでの妙な疑いも全て忘れて。
シワスの『誰だ』という短い応答に反応して、ドアの向こう側の誰かがゆっくりとその教室の扉を開いた。現れたのは、肌の色が白く髪の色が水色の、インドア派のような気弱そうな女子だった。おずおずと入ってくるその様子は、まるでいじめられっ子が怯えながら動いているのとそっくりだった。
「あの……依頼があってここに来たのですが……」
そうでなければ来る由がないだろうと、心の中で呆れながら十人はそっちの方向を向いた。一拍遅れて新参者のサツキも目をやる。そして、少しホッとしたような表情で来客は部屋の中心へとやってきた。
「えっと、まず……」
「の前に自己紹介からだ。さっさと名乗んな」
緊張しながら、話を切り出そうとした女子の声を遮るようにカンナヅキは自分の名前をまず最初に教えろと促した。彼女はこの通り口調が厳しいので、初見の印象が“気弱”だった彼女はびくりと体をわずかに揺らしてわずかに声を揺らして名を告げた。
「さ、三組の……キシリア」
「キシリアちゃんか。了解了解〜。で、ご用件は?」
怯えているのが丸分かりの彼女をなだめるために比較的優しい口調のヤヨイがカンナヅキからつなげた。同様にそこまで口調の強くないキサラギにバトンパスした。
「それを……言ってもらえないと、私達も何もできないから」
「あ、はい。実は、内容は最近平野で暴れているドラゴン一頭の討伐です」
「ふーん、最近そんなのがいたんだ。私そんなの初耳だなー」
「ハヅキ……確かに我らはこの学園を出る事は中々無いが最近かなり噂になっておったぞ」
呆れたかのようにフミツキが嘆息する。それを見てむっとしたハヅキは知らないことに同意を求めようとして周りを見渡すが、誰も首を縦に振ってくれず、ナガツキもフミツキほどではないが軽く疲れた息を吐きだしたので、ついにはすねて黙り込んだ。
「はい。昨晩は何ともなかったのですが、そのドラゴンは夜になると農家の家を襲うそうです。畜産農家の、家畜達だけを。人間には興味がないようで、食物だけを狙って。兵が何人か討伐をしようとして、返り討ちに合って死んでしまったらしいです」
「兵より強いのか……相当だな。だとすると、少なくとも産卵期ではないな」
「性格は極めて凶暴、性格には相当気が立っているらしいです。近づいただけで殺された人もいるという話です」
「そんなの関係無いよ。僕らだったらすーぐ、倒せるはずだし、さ」
ドラゴンの討伐、普通の人間ならいくら弱い龍系統のモンスターが相手であれ、兵隊でも少しは緊張するはずなのにウヅキはそこいらの野良猫を退治する感覚であっさりと請け負った。その自信はどこから来るのか知らないキシリアは目を丸くした。
「それなら、私とキサラギとハヅキの三人で充分ですね。ほらハヅキ、いつまでもいじけてないで転送魔方陣を用意して下さい」
「はいはい、分かったよ。情報にうといハヅキちゃんは周りのためだけに固有魔法使いますよ」
ぶつぶつと愚痴を言いながらハヅキは呪文の詠唱を始めた。ちゃんと詠唱しているかは聞こえないが、魔力が身体から垂れ流しにされてきたので魔法を使う気があるのは確かだ。ゆっくりと、光の魔方陣が地面に描かれていく。
「その年で……固有魔法使えるのですか?」
固有魔法、別名無属性魔法。属性とは一線を画す、補助向きの魔法であり、人によって異なる。人によって異なるとは言うが、種類は長い歴史の中でもたかだか数百種類しか確認されていない。まあそれでも、サモンという魔法だけ、誰か一人しか持っていないという訳でなく、サモンを扱う固有魔法使いはジェスターにも生きているだけで数十人いる。そして固有魔法を扱えるのは鍛錬に鍛錬を、数十年重ねた天才だけと言われている。それなのに、年端もいかない少女が使うと口にしたのだ、キシリアは相当に驚いた。
「このクラスに入る条件は固有魔法が使える、またはそれと同等の実力者だからな。新しく入ったサツキは分からないけど、それ以外の全員は会得してるぜ」
あっさりと、ナガツキが詠唱中のサツキに代わって補足する。つまりはナガツキ自身も固有魔法が使えるのだ。度肝を抜かれ過ぎて驚嘆したキシリアは、もうすでに表情に変化が見えなかった。