ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Magicians' War ( No.9 )
- 日時: 2012/03/09 14:24
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)
キシリアからの依頼をこなしたその日には、それ以上の仕事はclass/seasonには舞いこんでこなかった。そもそも依頼が一件来るだけでも珍しい方だ。自主性の強い生徒達が多いので、大概の問題は自分たちの力で解決しようとする。本当にどうしようもない時にだけclass/seasonに頼むという訳だ。
それで、依頼が来た珍しい日の翌日、さらに珍しい事が起きた。中々このクラスに回ってくることの無い戦場に赴く仕事だ。本当に戦力が限られている時、または学園の生徒や教師には手が負えないと上が判断した時にclass/seasonは戦地に現れる。学園の生徒は基本的にただの軍人よりも強い。軍隊にはすでにどうにもできない問題なので、残された中で最も可能性が高い選択が、class/seasonに任せること、そういう理由だ。
だが、基本的に人員不足なんてよっぽど大がかりな作戦が行われない限り起こり得ない。さらに学園内の普通の生徒と言っても、一クラスで軍隊数百名並の強さを誇る。実力不足もそうそう起こらない。
ならばなぜ、今回彼らに仕事が回ってきたかと言うと、第三の理由があるからだ。内容は敵国の機密の記されている文書の強奪。確かに警備も厳戒だが、突破できなくもない。一番の理由は軍隊の末端の者や、一般の生徒にその文書の内容を知られないため、要するに組織の闇にまつわる部分を露見させないようにするためだ。
齢二十にも達していない少年少女だというのに、class/seasonの地位は高い。軍の中の者と比べると少将ぐらいのもので、さらに特権として学長、つまりはノロジーの最高司令官との面会も許されている。
権力者の七光だとか言われることは無い。実際に彼らは固有魔法と呼ばれるものを使える立派な戦力だからだ。固有魔法使いの魔導士、個人差はあるが、それは一人で軍隊数百名並の実力と功績を発揮する。
◆◇◆第一の作戦・機密文書の入手◆◇◆
「ねえ、聞いた聞いた? 今日作戦が入ったんだって」
教室に入って来て早々に、興奮で上ずっている声でヤヨイがそう言った。この事に教室の中の皆は一斉に驚いた。一瞬だけ、どよめきが部屋の中を満たし、すぐにシンと静まりかえった。
それにしても昨日今日と何かが入るのは初めての出来事なのではないかとナガツキは思い、class/seasonに入ってからの事を思い返す。ここに連れてこられたのは去年の話だ。その時のここにはフミツキと自分とカンナヅキ、そしてキサラギの四人しかいなかった。その一カ月後にムツキが入って来て、段々とメンバーが定期的に増えて行った。最後にシモツキがやって来てからもうそろそろ四カ月ぐらい立っているはずだ。当時はウヅキが来るまでの間、ここに仲間意識なんてほとんど無かった。
どのような感じだったかと、もう少し詳しく思い出してみる。確か元々フミツキとは仲が良かったのだが、カンナヅキなんかはとりあえず助けてやるかという感じだった。当のカンナヅキも死なれたら自分の仕事が増えるからとりあえず助けてやるよ、ぐらいの心情だった。全てを変えたのはウヅキだった。あの性格で皆と打ち解けて、ハヅキが入ってからは全員を一つにまとめ上げた。その時自分も多少は動いたなと思い返す。
ちらりと、昨日やってきたばかりのサツキという女子の方をナガツキは見た。どうも、あの女子はどこかで見たような気がしてならない。だがあのような雰囲気を放つ人とは今まで会ったことが無かった。何をするにも、何を言うにも一切の感情がこもっていない。昨日キシリアを説得したのには下を捲いたが、それ以外はまるで機械のように冷淡だった。何がどう起きればそうなったのかと彼は尋ねてみたかった。
でもやめておいた方が賢明だろうとも思えてくる。自分のような過去がある場合も考えられるが、元来の性格かもしれない。良く分からない事尽くめで、頭がこんがらがってきたので気を取り直すために髪を掻き上げた。その瞬間に金に煌めくブレスレットが視界に入った。先ほど自分に言い聞かせた自身の過去が脳裏によぎった。
あんな惨劇が起きたというのに、特にリアクションを取らず今まで通りに、それどころか今まで以上に楽しんで暮らしている自分を誰かは非難するかもしれない。だが、これは約束、誓いなのだから仕方ない。何があっても世界を恨むようなことはしない、それが彼女と交わした約束なのだから。
幼少の頃、今にして考えると少し恥じらいがあるが、ナガツキには好きな人間がいた。隣の家に住んでいる大人からも子供からも可愛らしいと言われていた少女。同い年の幼馴染。別に友達でも良いと思いつつも、もっと仲が良くなりたいと思うことの方が多かった。
「ナーガツキー、聞いてんの?」
「ん、ああウヅキ……聞いていたさ、任務だろ」
「今訊いてんのはその続きだって、どんな任務か言ってみてよ」
「…………すまない、聞いていなかった」
「ふう……仕方ないな」
そしてもう一回だけ言うから今度はよく聞いてくれと念を押しながらウヅキはナガツキに対してもう一度説明を始めた。今回の指示はジェスターの中でも特に強力な要塞、グランデンバイナと呼ばれる首都のすぐ近くに位置するパルトクライムと呼ばれる地区に建つレーウィン要塞の中から指令書を奪ってくること。
ただし注意しておかないといけないのは、その要塞の最高司令官は龍人の異名を冠する、人型のドラゴンと人間のハーフ。人の持つ知性と龍人の持つ硬い鱗、使者の持つモンスターを操る能力と龍の持つブレス系の攻撃を併せ持つ強敵。あまり遭遇したくない。
だが、機密文書はその龍人の護る部屋にある。気付かれずに侵入など不可能、それならば倒す気で潜入するしかない。十一人全員で行けと指示が下りている。
「久々に骨のありそうなミッションじゃないか。腕がなるね」
「カンナヅキが羨ましいよ。そんな作戦怖くて怖くて……」
「シモツキ、さすがにそろそろ戦争というものに慣れなさい。これから多分増えますよ」
「ムツキまで僕の敵かよ……」
「何とでもお言いなさい。でないと一人だけ他クラスの者から非難されますよ」
シモツキは相も変わらずヘタレているようで、ナガツキは深く深くため息を吐いた。カンナヅキはカンナヅキでその様子に小うるさい母のように叱り付けている。
これは、仲が良いと言えるのだろうか。ふとナガツキの額に冷や汗が流れた。