ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: A C T † O N ( No.1 )
日時: 2011/12/28 19:16
名前: StaR-VoiCe (ID: HhjtY6GF)

[第壱話 悲劇の舞台の幕は上がる]-Date12.20.Monday…start of day


東京に上京して、9ヶ月の月日が経った。
新宿区に住む大学1年生の月本幸太は、今日は大学を休み、自宅のマンションで寛いでいた。
休んだ理由は勿論、上京して出会った彼女とデートのためである。
平日の朝7時、幸太はカーテンから差し込む太陽の光を見てつい、笑ってしまった。
今まで18年間生きてきて、初めて出来た彼女である。
彼女と出会った瞬間、心の底から「好き」と想うことができ、守りたいと想った。
幸太はベットから起き上がると背伸びをする。

  ─彼女との初めてのデート─

これほど嬉しいと感じる日は、高校を卒業したあの瞬間以来だ。
ベランダの戸を開け、東京の街を見渡す。
現在、幸太は8階建てのマンションの8階に住んでいる。
家賃は少々高いが、父の職業は政府に関する仕事なので金銭面においては問題ない。
12月の寒い風に当たっても、なんだか寒いと思わない。
今日は何でもできる気がする。
「用意すっか。」
やはり、12月半ばの寒風は寒い。
早々とベランダから家の中に戻ると、リビングの暖房の電源を入れる。
テレビを点け、朝のニュースを見ながら朝食の準備を始めた。

『今朝4時頃、新宿区の新宿ミラノボウルに強盗が押し入り、現金12万円を奪う事件がありました。店内には男性店員1名しかおらず、店員の男性は腹部を刺されましたが命に別条はありません。防犯カメラから犯人は黒のトレンチコートに黒のニット帽を被った、身長約170cmの男性と確認されており、警察は付近の住民に注意を呼び掛けています。では、続いてのニュースです。問題となっている防衛省の………』

出来たての珈琲を啜りながら、幸太はニュースにくぎ付けとなった。
「おいおい…近所じゃねぇかよ。物騒だな。」
とは言いつつも、特に気にすることなく、焼きたての食パンにバターを塗って頬張る。
彼女との待ち合わせまで、まだ3時間も残っている。
「早く起きすぎたな。どうしようか……」
珈琲の入ったカップを持ったまま、テレビの横にあるパソコンの前に移動する。
電源を入れ、メールボックスを確認する。
最近は登録もしていないサイトからのメールが酷い。
そんなメールが、1日に50通を超える時もある。
今日も相変わらず、朝から登録の覚えもないサイトからメールが10通も来ている。
「え〜ぇと、出会い系、出会い系、出会い系、押し売り、出会い系、……ん?」
何か、違和感を感じるメールがある。
他のメールとは違い、宛先も題名もない。
「メール爆弾か?初めてだな、こういうの。」
開く必要もないと思い、読まずにメールを削除するボタンを押す。
しかし、なぜか消えない。
不審に思い、違う迷惑メールの削除ボタンをクリックする。
正常に消えていく。
しかし、このメールだけは削除ボタンを押しても消えない。
「……開いてみるか。」
拉致があかないと思い、幸太はしょうがなくメールを開いた。





『Start.Good luck and bye-bye.』





開いた瞬間、口をポカンと開け、思わず持っていたカップが落ちそうになる。
英語表記で「始め。頑張って、じゃあね」と書かれた文。
ただ、その一文しかない。
後は特に何も書かれていない。
「なんだよこのメール。変なの……」
パソコンの前から立ち上がった直後だった。

ピンポーン♪ ピンポーン♪

平日の朝の7時半に、玄関のチャイムが鳴る。
なぜか、嫌な予感がする。
「だ、誰だ?」
珈琲の入ったカップをテーブルに置き、玄関へと恐る恐る近づく。



ガチャガチャ     ガチャン!!



鍵が、勝手に開いた。
「な、な、ちょ、ウソだろ!?」
幸太は思わず風呂場に駆け込み、浴槽の中に身を隠す。


「ボンジュール、月本宅。」


ドアが開く音と同時に、男性の声が聞こえた。
整った顔立ちに銀髪が目立つスーツ姿の男性は、土足のまま家の中に入る。
「ラプラス、部屋の中を探せ。まだ家にいるだろう。」
「了解。」
銀髪の男性の後ろから、黒ぶち眼鏡をかけた若い青年が現れる。
ラプラスと呼ばれた青年は、ドアを開けたピッキング道具を腰のポーチに戻し、腰から拳銃を取り出す。
そして、拳銃を構えたまま幸太の家の中で何かを探し始める。
「な、なんだよあいつら……け、警察に連絡……携帯、リビングかよ………」
浴槽の中で1人、自分に悔しがる幸太。
一方、リビングに足を踏み入れた謎の2人組は、あちこちを散策し始める。
ラプラスは寝室へ行き、銀髪の男性は手袋を付けてリビングを散策する。
「まだ熱いな。」
そう言いながら、テーブルの上に置かれた飲みかけの珈琲カップを手に取る。
カップからは、まだ湯気があがっている。
「おや、例のメールも開いているらしいな。」
銀髪の男性は電源の入ったままのパソコンに気づき、画面を見ながら不気味に笑う。
「先輩、寝室にはいません。」
「リビングにもキッチンにもいない。携帯とパソコンを回収して撤収するぞ。」
銀髪の男性はラプラスに命令して、手袋を外して玄関へと向かう。
その途中、トイレと浴槽が目に入った。
「…まさかな。」
トイレのドアを開けるが、無論、中には誰もいない。
銀髪の男性はスーツの裏から拳銃を取り出すと、構えて浴槽のある方へ進む。
洗面場には誰もいない。
浴槽の方へ歩き、拳銃を構えたまま中を覗き込んだ。






「………いないか。」






浴槽の中は、空だった。
銀髪の男性は拳銃をスーツの裏に戻し、その場を後にしようとした。
その時、浴槽の中の奇妙な部分に気がつく。
浴槽の淵や壁には水滴が付いているが、なぜか、浴槽の中には水滴が一滴も付いていない。
銀髪の男性は浴槽の中に目を凝らし、しっかりと観察する。
そして、気づいた。
「もう、逃げたか。」




   *****


「はぁはぁ……」


一瞬の隙を見て、幸太はマンションの非常階段まで逃げていた。
心臓が止まるぐらいの緊張と恐怖で、足の震えが全くなおらない。
「な、なんだよあいつら、なんだよあいつら……」
幸太は恐る恐る、自宅の玄関付近を覗きこむ。
すると、ちょうど2人が玄関から出てきた。

そして、鍵を閉めた。

「あっ……」
幸太はパジャマのポケットを確認する。
勿論、家の鍵を持って行くなんて考えてもなかった。
2人組は辺りを警戒しながら、その場を後にして行った。
「くそっ……なんだよ…あいつら……」
先ほどから同じ言葉を何度も繰り返している自分に、幸太は笑う。



「管理人のところ、行くか。」



幸太はそう呟くと、パジャマ姿のまま、8階から1階まで階段を下って行った。