ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンジェルデザイア ( No.13 )
日時: 2012/01/11 23:48
名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)

窓の縁側に悠然と立っている少女は、冷ややかな瞳でルノア達を見つめていた。この少女は、先ほどとんでもない勢いでこの部屋へと突っ込んだことを示すかのように窓がグシャグシャに潰れ、ガラスの破片や木片が汚いゴミだらけの床の上に散乱している。しかし、少女には傷一つ付いてはおらず、無傷の状態だった。常人ならば、必ず無傷では済まないだろう。いや、それ以前よりあれだけの勢いを常人が突っ込んでこれるわけがないのだ。何故ならこの場所は、二階に位置するからである。
そう、空を飛ぶことが出来なければ、窓から此処に侵入はまず不可能で、あれだけの勢いを付けるならば、遠くから一気に突っ込んで来なければならない。

「——何者だ?」

風が一気に吹いてくる。部屋の中へと風は通されて、部屋はゆっくりと冷やされていく。ゆっくりと銀狼達は立ち上がり、その少女を見つめた。
銀色の髪をし、長いセミロングで髪は結んでおらず、風によって揺れるそれはとても綺麗に見えた。少女は、身体こそ幼いが、どこかただ知れぬ雰囲気が全体に帯びていた。それは常人のそれとは全く異なる雰囲気だったのだ。碧色をした瞳が、ただルノア達を見つめている。ワンピースを着て、ただ少女は窓に立っているのだ。それが驚いたことに、少女は裸足だった。靴も靴下も無く、裸足でそこにいた。
ルノアの問いに答えることも無く、ただずっとそこに立っているだけ。ルノア達も下手に動けず、臨戦態勢をとっていた。
すると、突然少女はゆっくりと足を動かし、ガラスだらけの床へと裸足で飛び降りた。ザスッ、と刃物が足の裏を裂いているのが分かる。その音が何度も響き、気付けば有り得ないという顔つきで見ているルノアの目の前に少女は移動していた。
足からはとめどなく血が流れていると思いきや——少女の足は、血など一滴も零れてはいなかった。

「——シェヴァリエ、守るべきものが出来た」

少女はそう呟いた。無機質な声で、とても人間の口から出たとは思えないほどの感情の無さだった。
ルノア達は、この少女の言葉をただ何も言わずに聞いていた。

「時は満ちた。エンジェルデザイアを"誕生"させる時が来た。その要となる天使、及び人間の場所が分かった。これより、そこへ向かい、要達を保護せよ」

少女は、その言葉と共にゆっくりと、まるで蜃気楼のようにして消えて行った。





アパートに着くや否や、荷物の整理をすぐに始めようとした。だが、身体が上手く動かない。何だか全身がだるく、重い。
風呂場やトイレの付いてあるこのアパートの一室は、なかなか心地良かった。多少狭いが、風呂があるだけまだマシだろう。
先に送っておいた荷物はダンボールで山積みになっていた。この整理もしなければいけなかったが、今はとにかく寝転がりたかった。先に設置しておいたベッドの上へと倒れこむようにして寝転がると、天井へと仰向けになって一つため息を吐いた。

(僕は……これからやっていけるのだろうか?)

変わった街並み、どこか遠い昔の思い出。この街に来て本当に僕は正解だったのだろうか。もっと別の道があったのではないだろうか。
親と共に海外へと行って、英語やらをマスターしたりして、帰国して、親の働く会社で働いたりして……色々やり方はあったはずだ。
なのに僕は、今こうして昔の思い出に誘われて此処にいるのだ。どうしてそんな決意をしてしまったのか。そう聞かれれば、すっと答えはすぐに出てこない。

「あー……考えても、無駄か」

そう呟くと、身体を起こし、またため息を吐いた。最近やけにため息が多い気がする。疲れているのだろうか。一人でいるからなのか分からないけれど、妙にざわつくというか、寂しい気分だった。

「戻ってきてそうそう、変な目にも遭ったしな……」

先ほどの親戚の叔父さんの娘さんとの出来事。あれは一体なんだったのか。考えれば考えるほどよく分からなくなっていく。もう一人の僕を見た。あの一瞬だけだったけれど、あれは明らかに僕だった。何故か分かる。しっかりとは見てないけれど、感覚がそう訴えてくる。

「もう、見たくないな……」

もう一人の自分がいるなんてこと自体が怖い。今もどこかでもう一人の自分が動いているのだとしたら、と考えれば考えるほど気持ち悪くなってくる。
そんな吐気に似たような気持ち悪さを解消するように、僕は外へと飛び出した。

ぶわっ、と風が僕の身体を覆う。それが心地よく僕の身体を冷ましてくれた。暫く部屋の前で風を浴びていると、目の前の道にどこかで会ったような人物の顔が目に映り込んだ。それを確かめるように、僕は急いで階段を下りてその人物の後ろを追いかけた。

「小五郎!」

僕が叫ぶと、その人物はゆっくりと僕の方へと振り返る。ジーンズが長い足によく似合う眼鏡をかけた男は驚いたような表情で僕を見ると、

「瞬……か?」

僕の名を呼んでくれたその人物は、昔の雰囲気と何ら変わりのない小五郎の姿だった。